090 盗賊さん、行方を知る。
「詳しい話を聞かせてもらってもいいかな」
「そのつもりで来てるんで、そりゃかわまないっすけど……」
ミンティオは奥にいるサク姉にちらりと視線を向けた。それが意図するところを察して伝える。
「彼女は別口で調査に協力してくれてたひとだから問題ないよ」
「そうっすか。そういうことなら、おふたりに手短に話させてもらうっすよ」
ミンティオを錬金術ギルド内に招き入れ、サク姉の待つテーブルまで案内した。ミンティオは、サク姉に軽く一礼して椅子に腰を下ろした。
「それで、わかったことってなに。あまりいい話ではなさそうだけど。ボクと別れた後、なにがあったの」
「兄さんから依頼を受けてから各城門を巡って、例の女性が西門から出てったってことはすぐにわかったんすよ。そんでそこまでわかってんならその後の動向も調べられそうだったんで、西門の日勤だったひとらにいろいろと聞いて回ったんすけど、戻って来たかどうか知ってるやつはいなかったんすよね」
「それがなんで死んでるかもしれないなんてことに? 西門の先ってそんなに危険な地域なの」
「あぁ、そういうことじゃないっすよ。西門の向こうは街道沿いなら比較的安全っすから。野盗が出たって話も聞かないっすし。んで、話を戻すっすけど、例の女性が西門を出たのって、俺が兄さんと初顔合わせした日の昼前だったらしいんすよね」
だとするとユーナちゃんのお母さんは、ユーナちゃんを孤児院に引き渡してすぐに西門を出て行ったことになる。彼女が行方をくらまして既に3日が経とうとしていることを考えると、確かに最悪の事態に巻き込まれた可能性は高い。
「西門の先で一番近い城壁外の村って、徒歩でどれくらいなの」
「半日もかかんないっすよ。それならそこに行ったって可能性は?」
「ないっすね」
ボクが口にした仮定の話をミンティオは、ばっさりと切り捨てた。
「根拠は?」
「遺体が発見されたからっすよ。ひどく損壊してたっすけど、顔は無事だったんで兄さんの似顔絵で身元が判明したんすよ。夜勤のやつが対応してたらしくって、その情報掴むのが少し遅くなったんすよね。んで、対応したやつに直接聞いたんすけど、昨晩、森の中で遺体が発見されてたみたいっす。ただ身元不明だったんで、夜中のうちにそのまま共同墓地に運んだみたいっすね。俺もそれが事実か確認するのに共同墓地に行ったんすけど、見た感じ、例の似顔絵に女性そっくりだったすよ」
「死因は?」
「首吊りっすね。自殺だったみたいっすよ」
少し前にミンティオが話した内容と噛み合わずに眉根を寄せる。
「さっき遺体は損壊してたって言ってなかった」
「あぁ、それなんすけど。首吊ってから結構経ってたみたいで、無神経な言い方をしちまうっすけど、糞尿垂れ流しの状態だったみたいなんすよね。その臭いが付近の森を縄張りにしてる獣を呼び寄せたみたいで。縄張りを荒らされたと感じたらしい獣に、下半身がズタボロに損壊させられてたんすよ。ただ首を括ってた縄が頑丈だったからか、上半身は落ちずに済んで、損壊させられなかったみたいっすね」
聞かされた内容はなんとも言い難いものだった。
「そこまでやったんなら遺体を引き摺り落としそうなものだけど」
「そのまま放置してたらいずれそうなってたかもしれないっすね。そうなる前に済んだのは遺体の発見者がいたからっすね。西の街道沿いに行った先にある村で依頼を受けてた冒険者が、帰りに獣が荒ぶってるのを感じ取って、様子を見に行って発見したって流れみたいっすよ」
「共同墓地で、その遺体の確認をしたんだよね」
「そうっすね」
「まだ遺体の形は残ってた?」
「まだ砂にはなってないっすね。でも、それも時間の問題かもしれないっす。損傷が激しかったっすからね。だから念のために今から本人かどうか確認に行かないっすか。これ以上時間が経つと砂になっちまって、本人かどうかも判別つかなくなっちまいそうなんで」
「もう城門閉まってるんじゃないの」
「それなら方法がないわけじゃないんで大丈夫っすよ」
ミンティオが気配を消して現れたことが引っ掛かり、探るように時間外でも城壁外に出れるという方法を訊ねる。
「その方法って?」
「タラッサ聖教のグレモリーさんに頼むんすよ。あのひと夜間の通行許可証持ってるんで。あれがあればバーガンディの住民で身分がはっきりとしてる人間ならふたりまでは同行可能なんで」
「あなたはいいかもしれないけど、ボクはバーガンディの住民とは言い難いよ。まだここに来て片手の指で足りるほどの日数しか過ごしてないからね」
「それに関しては俺が同行するんで、なんとでもなるっすよ。まぁ、俺が兄さんの身元保証人になる感じっすかね」
ボクは黙って話の内容を聞くことに徹しているサク姉に目を向けた。
「私のことは気にしないで行ってきなよ。ただ心配だから私の飼ってるねこを一緒に連れてってくれない」
サク姉が言わんとすることを察して頷く。するとなにもなかったはずのテーブルの下から真っ黒な毛並みに青い瞳をしたねこが、ひょこりと現れてボクの膝の上に飛び乗って来た。
ボクは黒猫を抱き上げてミンティオに訊ねる。
「ねこに身分保証って必要かな」
「ペットなら問題ないっすよ。ただ、城壁外で逃げられても知らないっすよ」
「大丈夫だよ。この仔は賢いからね」
そう言って膝の上に下ろした黒猫の頭をなでた。するとボクの言葉を肯定するように黒猫は短く鳴いた。




