086 盗賊さん、状況説明をする。
スキル関連に関しては全て話したので、ボクは次の話題に移るべく、話を切り出した。
「ふたりに現在のボクの置かれている状況の説明をしておきたいんだど、いいかな」
「そうね。今後の立ち回りに関わってくることでしょうし、聞かせてもらえる」
「そうだね。このギルドが現在の立ち位置に収まっている事情なんかも知っておきたいしね」
ふたりの返答を得たボクは、錬金術ギルドと薬師ギルドの確執や、この領地が今現在抱えている問題である強盗騎士と領主の対応、錬金術ギルドの所属員候補として孤児院の子供達を育成予定であること、また孤児院が抱えた休耕地を薬草栽培の実験場と養蜂に利用することなどを話していった。最後にユーナちゃんの母親の捜索を話に加えた。
「ヒイロが発見したダンジョンの調査の予定はいつになるのかな」
「3日後だよ」
「3日後までは時間的な猶予はあるんだね」
アッシュが直近の公的な予定を確かめると、サク姉はそれまでにボクらが取る行動を確認するように訊ねた。
「なら最優先に片付けるのは、行方不明になっている母親の捜索ってことでいいのかな」
ボクはそれを肯定するように首肯して、今の捜査状況に関して話す。
「一応、衛兵隊の顔見知りに頼んで領都外に出ていないかは調べてもらってる。どう動くかは、その結果次第かな」
「それで行先が絞り込めたなら、私が召喚獣で捜索に当たるよ」
「助かるよ。ただこれに関してはボクの個人的な感情に基づくものだから、無理に手を貸してくれなくても大丈夫だよ」
「ヒロちゃん、遠慮しなくていいよ。そいつはどうだか知らないけどね」
サク姉はこの件に力添えしてくれることを意思表示すると同時に、アッシュに棘のある言葉を投げつけていた。
「私の天職はそういったことには不向きだからね。ダンジョン調査までは、魔結晶を使った研究に没頭させてもらうよ」
「わかったよ」
本音としては薬草栽培に適した土壌作りくらいは手伝って欲しいところだけれど、自身の興味のあること以外に労力を割かないアッシュにそれを求めるのは難しいかな。
「それじゃ、上に戻ろうか」
「待って、そっちの複製したスライムはどうするの? このまま放置するのはどうかと思うんだけど、使役出来ていると言っても、魔力的な繋がりはないんでしょう。召喚獣と同じように送還出来るのなら問題ないだろうけど」
サク姉はボクが複製して放置したままだったマスタードスライムを指して訊ねてきた。
「複製したものを元の魔素に戻すのは難しいかな」
話の中心となっているマスタードスライムは、最初に指示した立方体への変化以降全く動きを見せていなかった。
「それなら複製した魔物が、元の魔物と同一の存在であるかどうか検証するのに使えばいいんじゃないか」
アッシュの意図するところを汲み取ったボクは、ちらりと肩に乗るプルに視線を向けた。
「プル、あの個体の処分をお願い」
指示を受けたプルは、忌避感を示すこともなく、すんなりとマスタードスライムを両断して処分していた。すると光の粒子となって消滅したマスタードスライムからは[アロディニア]が封入された小瓶が3本ドロップした。
「ドロップアイテムも複製元の魔物と同じみたいだね」
「もうこうなってくると、ヒロちゃんのスキルを駆使してダンジョンが造れちゃいそうね」
サク姉がそんなことをぽつりと漏らすと、アッシュがその話題に乗っかって来た。
「それはいいね。方々のダンジョンで魔物を魔結晶を用いた[モンスターキューブ]に捕獲してくれば、ヒイロが魔物を複製せずとも、いつでも魔物相手の訓練が可能になるってことじゃないか。ヒイロ、よかったら魔物を相手にする鍛錬場を──」
興奮したように捲し立てるアッシュの接近を止めるようにサク姉が間に割って入った。
「はいはいはい。そういうのは今じゃなくていいでしょう」
サク姉に水を差されたアッシュは、落ち着きを取り戻していた。
「残念だな。それなら私は、魔結晶の研究も兼ねてバーガンディ内にあるダンジョンの探索でもしてくるとしようかな。どこにどんな魔物がいるか把握しておきたいしね」
発言から目的が透けて見えるアッシュに対してため息を漏らす。
「別にいいけど、ダンジョンの探索可能な階層なんかはランクで制限されてるから、冒険者になりたてのアッシュだと、深層までは探索させてもらえないってことだけは理解しておいてね」
「面倒だね。ダンジョン探索なんて自己責任なのだから、自由に判断させても構わないだろうに」
「みんながみんな自分の実力を正確に把握出来てるわけじゃないから仕方ないと思うよ。冒険者ギルドとしても無駄な死亡者は出したくないんだろうしね」
「仕方がないか。それならランクを早急に上げる方法はないかな」
「3日後のダンジョン調査までは目立って欲しくないんだけど」
「あぁ、そうだったね」
アッシュは一応納得を示していたけれど、彼の性格的にこのまま引き下がるとは思えず、どうにも嫌な予感しかしなかった。




