082 盗賊さん、ユニークスキル本来の効果を知る。
しばらくして気を取り直したサク姉が、頭痛を抑えるように額に手を当てながら訊ねてくる。
「ヒロちゃん、天職は本当に『盗賊』だったの?」
「そうですよ。そうでなければ、今頃ボクはレッドグレイヴの魔術教導院で勉学に励んでいたはずですから」
「成人の儀に使用された[天命啓示版]が壊れてたとしか思えないよ。ヒロちゃんがやってることは、明らかに『盗賊』の範疇から逸脱してるもの」
「そう言われましても、事実ですので。サク姉ならわかると思いますが、パパがボクの天職が『盗賊』だと[天命啓示版]に記されたときに、誤判定を疑わなかったと思いますか」
「うっ……あのひとなら確かにヒロちゃんが不利益を被る状況に陥るのをよしとしないよね。でも、ヒロちゃんがやって見せたことは異常としか言いようがないわ」
身振り手振りを交えたサク姉の熱弁にボクは困ってしまった。
「実際のところ、どう変なのでしょうか。ボク自身は天職を得てすぐにレッドグレイヴを追放されて、試行錯誤しながら天職のスキルを習得していたのですが」
説明を求めてそう訊ねると、しばしの間を置いてサク姉は冷静さを取り戻してくれた。
「そうね。少し感情的に否定してばかりで、論理的ではなかったわね」
一度そこで言葉を切ってから、サク姉は順序立てて説明するべく、考えを整理しながらゆっくりとした語り口で話し出した。
「まず最初に違和感を持ったのは、アッシュとの手合わせのときに使用した【施錠】のスキルね。あのときはなにに対して違和感を抱いていたのか私自身わかってなかったのだけど。そもそもスキルや魔術って、体内に蓄積された魔力を消費して魔素に干渉することで特殊な事象を引き起こす物なわけでしょう。その際、魔力の干渉を受けた魔素は、事象発動のエネルギーとして消費されるはずなのに、ヒロちゃんのスキルの対象となった物体は、魔素を消費することなくスキルの効果を発揮してた。それってどう考えても不自然だと思わない?」
言われてみれば当然のことなのに、ボクはそれを気にしていなかった。と言うよりもスキルや魔術で空気中の魔素を消費しても、すぐに周囲から消費された分の魔素が供給されるので、密閉空間でもなければ魔素の枯渇を意識することがなかった。だからかボクは魔素が消費されることなく、スキルの効果を発揮しても、魔素が残留したままなことに疑問を抱いていなかったらしい。
「確かにサク姉の言う通り不自然としか言いようがないね」
「でしょう。それに加えて、その[アイテムキューブ]で、魔素を原料に格納されたアイテムを複製するなんて非常識なことをやってのけてる。[アイテムキューブ]って、要するに高密度に圧縮された魔素なわけでしょう。それを利用してアイテムを新たに生み出すって現象だけを見れば、それってダンジョンで魔物を倒した際にアイテムがドロップしてるのと似たような物だけど、それを任意的にやれてるんだよ」
サク姉の考察で[アイテムキューブ]が魔物と同じで高密度魔素だと関連付けされたのを耳にして、ボクは自身のスキルが特殊な挙動をしている原因が、ユニークスキルにあるのではないかと思い至った。
「サク姉。もしかしたらなんだけど、その現象ってボクのユニークスキルが関係してるかも」
「ヒロちゃんのユニークスキル? それって、どんな物なの」
「【トレジャーハント】って、魔物を倒した際にアイテムがドロップする確率が上昇する物なんだけど」
「それなら一時期パーティーに同じスキル持ちが居たから知ってるけど、ヒロちゃんみたいなことをやってた覚えはないよ。ドロップ率も私達とそんなに変わらなかったし」
それを聞いて、やはりボクの【トレジャーハント】は上昇値が異常なのだと理解した。
「そのひとの【トレジャーハント】の効果量がどの程度かわからないけど、ボクの場合その上昇値が300%だったんだ。ダンジョンで検証したから、この上昇値は間違いないと思う」
ボクの返答を受けたサク姉は、混乱しているようだった。
「えっ、そのアイテムドロップ率の上昇値が300%って、どういうこと?」
「ボクが魔物を倒せば必ずアイテムが3つはドロップするんだよ」
「意味がわからないわ。でも、もしそれが本当なら高密度魔素の内部に格納された物が、複製されたのも頷けるかもね。ダンジョンの魔物は意志を持った[アイテムキューブ]みたいな物で、その内部にはドロップアイテムが格納されてるってわけでしょう。ただ「アイテムキューブ]と違って、ヒロちゃんの魔力を流し込まれても複製されないってだけで同じようなものなんじゃないかしら。[アイテムキューブ]って創造者の魔力以外受け付けないみたいだし。だとしたらヒロちゃんが[アイテムキューブ]を破壊したら格納されてるアイテムは3つドロップすることになるのかな」
サク姉の考察を受けて、ボクは手の中の「アイテムキューブ]に目を落とした。
「それは試したことがなかったよ」
そう言ってボクは手の中の[アイテムキューブ]を宙に放り投げ、手元に空気を[アイテムキューブ]より高密度に圧縮してナイフ状に【施錠】した物を生み出し、すぱりと切り裂いた。
直後、真っ二つにされた[アイテムキューブ]は、魔物のように光の粒子を放って消滅すると同時に、中に格納されていた扉状の壁が3つ出現した。
一連の現象を目にしたサク姉は、すべて合点がいったとばかりに大きく頷いた。
「想像通りだったみたいね。それと今わかったことだけれど、ヒロちゃんのユニークスキル【トレジャーハント】は、ダンジョンでの魔物討伐時のアイテムドロップ率を上昇させるものなんかじゃなく、魔素を物質化させるのを補助するもの。というのが本当の効果なんじゃないかな」




