081 盗賊さん、打ち明ける。
「ふたりに見せたい物があるんだけど、ちょっとついて来てくれないかな」
「いいよ。案内してくれる」
サク姉はボクに先んじて席を立った。アッシュもそれに続くように腰を上げた。
「判断が早くて助かるよ」
「私達が気になってることに関することなんでしょう。だったら迷う必要なんてないからね」
ふたりを引き連れてボクは地下工房に移動した。ボクのスキルや[アイテムキューブ]・[マジックキューブ]のことをふたりに明かすにしても、グレンがいつ帰ってくるかわからないしね。グレンはボクが【アイテムボックス】のユニークスキル持ちだと勘違いしているけれど、ボクの天職が『盗賊』だとは知らない。だからグレンにはそのまま勘違いしてもらっていた方が、ボクとしては都合が立ち回りやすいので、なるべくそれを知られるような状況は避けたかった。
「なにもない部屋ね」
地下工房に足を踏み入れたサク姉は、開口一番にそう口走った。
「冒険者ギルドでは話を逸らしたけど、元々ここには錬金術ギルドの工房として使われてたらしいんだ。ただ前ギルドマスターの死後から現在のギルド管理者に権限が移って間もないころ、と言っても管理者は不在だったんだけど、その管理者が戻ってくるまでの間に、ここにあった錬金術の器具類は元ギルド員達に全て持ち去られてしまったらしくてね。こんな有様になってしまったってわけさ」
「随分と信用がなかったんだね。そのギルドマスター」
「どうなんだろう。権力者層からは煙たがられてようだけれどね。その理由がなにかまでは、ボクも知らないんだよね」
錬金術ギルドの事情を話していると、サク姉が「あっ」となにかを思い出したのか声を漏らした。
「どうしたの、サク姉」
そう訊ねるとサク姉は、収納魔術からなにやら一冊の冊子を取り出した。
「これ、ルベウスさんからヒロちゃんに渡しといてって持たされてたんだ」
「パパから?」
全く話の流れと関係なさそうなのに、なぜ今それを渡してきたのだろうと思いながら冊子を受けるとる。表紙や裏表紙にはなんの記載もなく、内容は窺い知れない。なので冊子の中身をぱらぱらと流し見てみると、どこか見覚えのある物が所々に図として載っていた。
その多くは、ここバーガンディで目にした物だった。それは料理だったり、魔導具だったりで、記載内容に一貫性はなかった。ただそれが誰によって記された物であるかは推測出来た。
「これ、この錬金術ギルドの創設者が遺した物みたいですね」
「そうなの? ヒロちゃんが外遊中は錬金術師として勉学に励んでいるようだから、その参考資料として渡しておいてくれって持たされてただけだったんだけど」
「えぇ、パパがここのギルド創設者は、元々レッドグレイヴ領お抱えの錬金術師だったと聞きましたので、間違いないかと」
「へぇ、ここと関連のある物だったのね」
「バーガンディで普及していないものや、ボクの知識にもないものも記載されているようですし、資料としてかなり使えそうです」
「それはよかったわ」
などと当初の予定からかなり逸脱した話を展開していると、アッシュが口を挟んできた。
「それはそうとヒイロ。私達をここに案内したのは、このギルドの成り立ちを説明するためだったのかな」
「あぁ、ごめん。少し話題が逸脱しすぎていたね。今、奥に案内するよ」
「奥?」
疑問符を浮かべるアッシュの声を耳にしながら、壁の一部を扉状に【奪取】して、奥の部屋に続く開口部を設けた。【奪取】した壁の一部は[アイテムキューブ]化して手の中に握り込んだ。
「見せたかったのは、この奥だよ」
ふたりの方に視線を移しながら告げる。それを受けたふたりはなんとも言い難い複雑な表情を浮かべていた。アッシュはサク姉と視線を交わして、ちいさく頷き合うと口を開いた。
「それも天職のスキルなのかな」
「そうだね。【奪取】で壁の一部を盗み取った感じかな」
「それにしては盗み取った対象が、ヒイロの手元にはないようだが」
「それならここに」
そう言ってボクは手の中の[アイテムキューブ]を、ふたりに見えるように差し出した。
「ちょっと見せてもらうよ」
アッシュはボクの手の平に載せられた[アイテムキューブ]をつまみ取ると、淡く青みを帯びた半透明な立方体の中に、扉状に切り取られた壁の一部が格納されているのを自身の目で確認していた。
「ヒイロ独自の収納魔術なのかな。【奪取】で壁の一部を盗み取るというのは、天職の性質的に理解出来なくはないが、スキルで盗み取った物がなぜこのような状態に変化しているのかは、全く理解が及ばないな」
[アイテムキューブ]を手に困惑するアッシュに、ボクは[アイテムキューブ]の作製手順と使用したスキルの説明をした。けれどアッシュは意味がわからないとでも言いたげな顔をしていた。
「それとその[アイテムキューブ]には、物を縮小化して格納するだけじゃなく、別の利用法があるんだ。それを見せるから、この奥に来てもらえるかな」
ボクはふたりを招くようにして先に壁の穴を潜り、ふたりとも後に続いたのを確認してから[アイテムキューブ]に魔力を注ぎ込む。そして扉型に切り取られた壁の一部をふたつほど複製して見せた。
「こうやってボクが魔力を注ぎ込んでやれば、空気中の魔素を原料にして[アイテムキューブ]に格納された物を複製出来るんだ」
そう説明を添えながら、ボクは複製したうちのひとつで壁の穴を塞いだ。それを見ていたふたりは、ぽかんとした様子で言葉を失っていた。




