077 盗賊さん、副ギルド長と引き合わせる。
サク姉には召喚獣を送還してもらい、そこから領都までは徒歩での移動に切り替えた。ほどなく到着した東門で、一悶着あるかも知れないと前もってふたりに伝えておいたが、ついさっきボクに絡んできた中年の衛兵の姿はなかった。どうやら昼食の時間だったらしく、若い衛兵と一時的に交代していた。
無駄な足留めを受けることのなかったボクらは、すんなりと領都に入場した。
「冒険者ギルドでの要件を済ませるの、昼食の前と後どちらにする?」
「面倒なことは先に片付けてしまおうか」
「そうね、食事はゆっくり摂りたいしね」
ふたりの意見は一致していたので、そのままボクらは冒険者ギルドに足を運んだ。昼時の冒険者ギルドは、併設された飲食店にそこそこ客が入っていたこともあり、受付こそ空いていたが、屋内の空気は賑わっていた。
ボクは受付前の男性職員に、副ギルド長との面会の約束について述べ、取り次いでもらった。
やがて奥から姿を見せたヒカリさんは、今朝顔合わせしたときとは違った動き易そうな衣装に着替えていた。
「そのふたりが例の?」
開口一番にそう訊ねられたので、ボクはちいさく頷いた。
「それではみなさんこちらへ」
そう言って先を行くヒカリさんの後に続いて、ボクらは冒険者ギルドの地下に案内された。そこにはボクが錬金術ギルド地下につくった空間と同等以上の広さを有した空間が広がっていた。入口脇の壁際には、練習用に貸出されていると思われる模造武器が所狭しと並んでいた。
「では、テストをさせてもらう前に自己紹介を。私はここバーガンディの冒険者ギルド支部で、副ギルド長を任されているヒカリ・シゾルターです。あなた方のお名前と戦闘時のおおまかな役職を教えていただいてもよろしいかしら」
その言葉に応じるようにアッシュが一歩前に出ると、ヒカリさんにうやうやしく一礼してから口を開いた。
「私はアッシュ・ディグナイトと申します。天職は『聖騎士』ですね」
アッシュが迷うことなく天職を明かしたからか、ヒカリさんは苦笑した。
「前衛職や戦闘職などといった括りだけでよかったのですが、ご自身の天職に誇りを持っておられるのですね」
そんなヒカリさんの発言からは、アッシュが実力の有無以前に珍しい天職をひけらかしていると判断されているようだった。
「えぇ、隠し立てするようなことはありませんからね」
ヒカリさんの内心を見透かした上で、アッシュは笑顔でそう応じていた。どこか剣呑な雰囲気が漂い始めたところで、アッシュを横に押しのけるようにしてサク姉が前に出た。
「こいつのことは単なる戦闘狂とでも思ってください。で、私なんですが。私はサクラ・イーゼレクト。分類としては後衛職とか支援職ってことでいいんですかね。私は主に偵察を担ってますね」
サク姉の自己紹介を聞いたヒカリさんは、顎に手を当ててしばし考えたのちに深く頷いた。おそらく森の中を行くことになる今回の依頼内容に則した職能だと判断したらしい。
「【遠視】のスキルをお持ちだったりしますか?」
どうやらヒカリさんの見立てでは、サク姉の天職は『狩人』辺りだと当たりをつけられたらしい。
「いえ、そう言ったスキルはありませんね。ただ似たようなことは出来ますね。今ここで証明しましょうか」
「可能でしたらお願いしても」
「わかりました」
そう軽く応じたサク姉は右腕を突き出して小声で「『召喚』」とだけ唱えた。するとサク姉の右腕付近に空間の歪みが生じて、それは猛禽の姿に変じた。
「屋外ならこの子に頼んで空から偵察してもらうんです。他にも小型の動物も呼べますから、場所に応じて使い分ける感じですね。呼び出した子達とは視覚の共有も可能ですので、実質【遠視】と似たようなものですね」
「よくわかりました。ありがとうございます」
サク姉に対して軽く一礼したヒカリさんは、ボクに向き直ってひとこと告げる。
「ヒイロさん、ちょっとよろしいですか」
手招きされたので、ボクはヒカリさんに歩み寄った。すると後ろのふたりには聞かれないようにか耳元で囁かれた。
「彼女、例の件に参加してもらってもかまわないんですよね」
「えぇ、問題ありません」
「助かります。彼女が居れば調査も早く片付くでしょうから」
「それはよかったです。それで、アッシュの方はどうされるんです」
「彼ですか。珍しい天職だとは思いますが、実力は未知数ですからね。彼が自信過剰なのかどうか、手合わせしてから判断させていただきたいと思います」
「わかりました」
話の区切りがついたので、ボクは軽く会釈して元の位置に下がった。
「そちらのアッシュさんでしたか。ひとつ私と手合わせしていただけますか。実力を見せていただきたいので」
「かまいませんよ」
「では、必要な武器を後ろにある物から選んでください」
ヒカリさんの示された先を一瞥したアッシュは、雑然と並ぶ模造武具の中からロングソードとカイトシールドを選び取っていた。ヒカリさんはというと、ラビィから聞いた話通りに両手に片刃の直剣を携えていた。




