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007 盗賊さん、共同墓地に案内される。

 馭者のおじさんの元にたどり着いたとき、事情の説明はあらかた済んでいたようで、ボクから補足説明するまでもなく、運んで来た野盗の身柄を引き渡すことになった。

 馬車に戻るまでの間に、犠牲となった人達の身分証を衛兵に差し出す。それを受け取った管理職らしき立場の男性は、部下に身分証の束を押し付けるようにして渡すと書類作成を言い渡していた。


 馬車の後部に転がされた手足と口をロープで拘束され、頭に麻袋を被された野盗達を衛兵の人達に引き渡す。その際に、麻袋を取って人相の確認をし、その中に見知った人物がいたらしく、管理職らしき男性は、盛大なため息を吐いていた。

「落ちたものだな。野盗なんぞに身をやつしやがって」

 その言葉に噛み付こうと暴れた野盗は、衛兵に腹部を強打され、強引に黙らされていた。

「連れて行け。こいつらのお仲間はこれだけじゃないはずだからな。拷問してでも情報を吐かせろ」

 他所の人間の前で、そんな情報を口にしていいのかと心配になる。

「随分と彼らに手を焼いているんですね」

「まぁ、そうだな。あいつらはこっちのやり方を熟知してるからな。毎度毎度すんでのところで逃げられちまっててな。しばらく姿を見せないと思ったら、まさか領境の方に逃げ潜んでるとはな」

「普段はこの近辺を根城に?」

「そんなところだ」

 管理職らしき男性は短い言葉で話を断ち切り、部下のひとりを呼び寄せた。

「ミンティオ。彼を共同墓地に案内しろ」

「え、俺っすか」

「口答えするな」

「うぃっす」

 なんともゆるい表情をした青年がボクらの元へと駆け寄ってきた。

 なぜ急に共同墓地などという言葉が出てきたのか不思議に思い率直に訊ねる。

「共同墓地、ですか?」

「あぁ、そうか。すまないね。お前さんは他領の人だったな、ここじゃ当たり前のことなんで説明するのを忘れていたよ。その辺りのことに関しては、こいつに聞いてくれ、私も取り調べに行かねばならないからな」

 それだけ言い残すと管理職らしき男性は、戻って行ってしまった。取り残された若い衛兵は、仕方ないなとでも言いたげな顔で、頬をぽりぽりとかいていた。

「んじゃま、案内するっすよ。結構距離あるんで、共同墓地のことは道すがら説明しますんで。とりあえず遺体載ってる馬車動かしてもらっていいっすか」

「わかりました」

 言われるままに馬車を動かすことにし、ここまで同乗してきたグレンには、馭者のおじさん達のところに行くよう促した。彼は少し渋っていたが、やれることはなにもないとはっきりと告げると同行を諦めてくれた。


 若い衛兵はゴーレムを操るボクの隣に腰掛け、進む先を雑に説明する。その指示に従い、城壁に沿って北へと馬車を進めた。

 とことことゆったりとしたペースで馬車を走らせているとゆるやかな振動が眠気を誘って来る。まぶたが重くなって来たボクは、ウエストポーチから爽快味と清涼感のある香草の精油を混ぜてつくった飴玉をふたつ取り出す。ひとつを自分の口の中に放り込み、もうひとつを隣で欠伸するのを一切隠そうともしない青年の前に差し出した。

「食べます? 多少は眠気を払えますよ」

「いいんすか。あざっす」

 ポイっと飴を口の中に放り込んだ青年は、バリボリとそれを噛み砕いていた。

「なんかスースーするっすね、これ」

「眠気覚まし用ですからね」

「そうなんすね」

 いつまでも中身のない会話をしていても仕方がないと、一向に説明されない共同墓地に関してボクから話題を切り出すことにした。

「それで共同墓地のことなんですが、そろそろ教えてもらっても?」

「あー、すんません。説明すんの忘れてました」

 職務怠慢が過ぎる衛兵の発言に脱力する。

「そんで共同墓地のことっすよね。前は遺体とかって城壁の中にある墓所に埋葬してたんすけど、結構前にアンデッド化して病魔をぶち撒けながら街中を徘徊しちまったことがあるんすよ。確か、オレのじーちゃんがガキの頃だとか言ってたっけかな。んで、そんなことがあったもんで、城壁外にまとめて埋葬するようなったんすよ」

「そのまま外に埋葬しちゃったら、今度は城壁外でアンデッドが出て来ちゃうんじゃないですか」

「いや、それが大丈夫なんすよ。なんせタラッサ聖教の教会地下で遺体は浄化されてるんで」

「城壁の外に教会ですか」

「城壁の外つっても頑丈な塀で囲まれてるんで教会の中は安全っすよ」

「そうなんですね」

 レッドグレイヴ領では城壁外縁部の火葬場に遺体はすべて送られ、焼却後に残った骨は壺に入れられて郊外の地下納骨堂にまとめて納められていた。だからかレッドグレイヴ領にはない宗教施設だけに、少なからず興味が湧いた。


 やがてたどり着いた共同墓地は高さ3mくらいの分厚い塀に囲まれており、中央にある施設の屋根がちょこっとだけ姿を覗かせていた。

 頑丈そうな鋼鉄製の門扉の横にこれみよがしに大きなボタンがあり、それを若い衛兵は力強く叩いた。すると遠くでガランゴロンと鈍い鐘の音が鳴った。

 しばらくすると門扉の覗き窓らしき部分が開き、低い女性の声がした。

「こんな時間に持ち込みかしら?」

「野盗被害っすよ」

「そう、最近やっと被害者が減ったとばかり思っていたのだけれど残念ね」

「なんか他領の方に流れてってたみたいっすよ」

「そういうことだったのね。今、扉を開けるから少し待ってもらえるかしら」

「了解っす」

 ギギギっと重だげな音を奏でながら門扉が開く、その向こうでボクらを出迎えてくれたのは、つばの広い真っ黒な帽子をかぶり、幾重にも重ねられたベールで顔を隠した喪服の女性だった。


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