063 盗賊さん、会話を試みる。
グレンがおつかいから戻ってくるまでの間、ボクはアンジーのサポートに努めていた。キャベッジを片手にグレンが戻って来てからは、その役目を彼に明け渡した。
慣れたやり取りをしながら台所に立つふたりをしばし眺めてからボクは、テーブルに着いておとなしく待っていた子供達の元に向かった。するとユーナちゃんが、とててと駆け寄って来て、ボクの手を引いて隣に座らせた。
対面の席に着いてしょぼんとした男の子は、テーブルの上に視線を落としてじってしており、どうしたものかと頭を悩ませる。会話を試みようにも、ボクは彼がどんな子なのかわからず、きっかけが掴めなかったので、ユーナちゃんに訊ねることにした。
「ねぇ、ユーナちゃん。彼のこと教えてもらえるかな」
「ユーリくんのこと? えっとね、ユーナと名前が似てたから新しいお家で最初におともだちになったんだよ」
「そうなんだね。新しいお家ってどんなとこなの」
「んー、お母さんのお母さんお家で、おともだちがいっぱい居るとこだよ」
ユーナちゃんの言動を、そのまま受け取るなら孤児院を管理している老婦人が彼女の祖母ってことになるのかな。もしそうなら母親と一緒にレッドグレイヴからバーガンディに移住してきたユーナちゃんが孤児院に居たとしても不思議じゃないかな。
「他のおともだちは一緒に来なかったんだね」
「うん。なんかね、田んぼと畑のお世話があるから来れないんだって」
「田んぼと畑はユーナちゃんも手伝ったりするの?」
「おともだちと一緒に草取ったりするよ」
仕事がないようなら錬金術ギルドに子供達を招こうとの目論見は外れたかもね。田んぼというのがよくわからないけれど、孤児院が畑と一緒にお世話するというのならなにかを栽培してると考えていいかな。
「今日はお手伝いしなくてもよかったの?」
「おばあちゃんにね、ここに来たいって言ったら、グレンお兄ちゃんとアンジーお姉ちゃんのお話をみんなの代わりに聞いて来てってお願いされたの」
グレンとユーナちゃんが顔見知りだったからっていうのもあったのかも知れないけど、そうだとしてもいきなり訪問して来た相手にちいさな子を預けるっていうのは変な気もする。なにか思惑があってのことなのかな。
ボクはユーナちゃんの付き添いとして付いて来たユールくんに目を向けた。
「キミもおばあちゃんに頼まれたのかな」
「ちがう。ユーナひとりだと危ないからボクがついて来たんだ」
無視されてしまうかもと思ったけれど、素直に答えてくれたことに頬が緩む。
「そうなんだね。それじゃ、キミは錬金術には興味ないのかな」
そう訊ねるとユーリくんは、テーブルの上に落としていた視線を上げ、不可思議な物でも見つけたかのような目をしていた。
「錬金術?」
「ここがどういうとこかグレンから聞いてないのかな」
ユーリくんは頭を左右に振って否定した。あれっと思いながら隣のユーナちゃんにも同じ質問をしたけれど、返ってきたのはユーリくんと同じような反応だった。
「ふたりともなにも知らないでここについて来たの?」
「ユーナはね、グレンお兄ちゃんにヒロくんが居るって聞いたから来たの」
「そうなの」
「うん」
満面の笑みでユーナちゃんは元気に頷く。その様子から錬金術ギルド関連のことは、老婦人にだけ事情を説明したのかもしれないと思った。
「そっか。なら新しいお仕事のことは、ふたりともなにも知らないんだね」
お仕事という単語にユーリくんは反応を示した。
「あんた、仕事くれんのか」
「そういえばキミにはまだ自己紹介してなかったね。ボクの名前は、あんたじゃなくてヒイロだよ」
「あ、ごめんなさい。ぼくはユーリです」
ユーリくんはしどろもどろになりながら、改まった様子で自己紹介してくれた。
「それで、本当に仕事くれるの」
「しばらくはグレンと一緒にお勉強してもらうことになるけど、お給金はきちんと出すよ」
それを聞いたユーリくんは、テーブルに両手を付いて身を乗り出した。
「本当に、本当なんだよな」
一時的にしおらしく取り繕っていたものが、完全に剥がれ落ちたユーリくんは、目をギラリと輝かせて興奮していた。
「本当だよ」
そんなやり取りをユーリくんとしていると、空腹を掻き立てる匂いを漂わせる料理を盛った皿を手にしたグレンとアンジーが、完成した料理をみんなの前にそれぞれ並べていった。
「さ、お昼にしよっか」
アンジーのそんな一言で、昼食を迎えることとなった。
昼食として出された皿の上には細切りにされたキャベッジと、蒸してから味付けされたポテト、それと小麦色のザクザクとした衣をまとったグラスボアのお肉らしきものがのっていた。切り分けられた小麦色のそれにフォークを突き立てると、衣からさくりとした軽い感触があり、その奥に包み込まれていたお肉にすっとフォークが刺さった。
出来立てを主張するように湯気を立ち昇らせるそれをひと口かじった。するとサクッとした食感と共に簡単に噛み切れた柔らかいお肉から、じわりと肉汁が溢れた。口いっぱいに広がる満足感に、幸福を感じながらボクは、単純極まりない感想をこぼした。
「おいしい」
そんなボクの感想に、アンジーが笑顔で応じた。
「そうでしょう、そうでしょう。私が腕によりをかけてつくったからね」




