062 盗賊さん、お客さんを出迎える。
冒険者ギルド前を離れたボクは、そこから寄り道することなく、錬金術ギルドに帰ることにした。アイテム売却のために少しくらい寄り道してもよかったのだが、グレンを待たせている可能性もあったので、それは後回しにした。
錬金術ギルドは鍵が閉まっており、ボクが先に帰って来たのだとすぐにわかった。がらんとしたホールに立ち、待っている間どうやって時間を潰そうかと考え、魔物素材を整理することにした。素材を[アイテムキューブ]で複製するところは見せられないので、グレンが帰ってくる前に予め複製しておくのはいいとして、お裾分けするお肉の部位はどこがいいだろうか。
一応、肩・ロース・ヒレ・バラ・モモをそれぞれ別々の[アイテムキューブ]に格納している。部位ごとの切り分けなどは解体担当者に、教えてもらったのでよく知っているのだけれど、どの部位がどんな料理に使われているのかは知らなかった。
こんなことなら料理もひと通り学んでおくべきだったかな。
とりあえず今はその辺りのことは置いておくとして、各部位を消費出来そうな分量に切り分けたいところ。ただ大きさが大きさだけに、台所で作業するのは難しそうだった。それならいっそホールで作業してしまおうかと考え、お肉が汚れないように床に敷く物はないかと手荷物の中から丁度よさそうな物を探した。すると大きさ的に使えそうな物がひとつあった。
ボクは目的の物が格納された[アイテムキューブ]を取り出し、魔力を込める。直後、床の上には綺麗に切り開かれたグラスボアの皮が、若葉色の毛並みを床面に向けて広げられていた。
その上に比較的重量の軽い部位を複製する。複製されたヒレ肉は、ボクより少し軽いくらいの重量はあったので、たぶん45から50㎏くらいなんじゃないかな。これだけの量があれば、何人分くらい賄えるだろうかと考えながら調理しやすそうな大きさに切り分けていった。
ヒレ肉の切り分けが済んで、次のお肉を複製しようとしていると玄関扉が開閉する音が耳に届いた。
振り向くとグレンとアンジーの姿があり、そのふたりの後ろには、ちいさなお客さんの影が見え隠れしていた。
「おかえり、グレン。それとアンジーいらっしゃい」
「あぁ、ただいま」
「ヒイロ、お邪魔させてもらうね」
「うん。それより、そちらのお客さんはどちらさまかな」
ちらりとふたりの背後に目を向けながら訊ねる。グレンとアンジーは顔を見合わせ、背後を振り返ってこそこそと子供達に話しかけていた。するとアンジーの後ろに隠れていた子は、ひょこりと顔を出し、ボクと目が合うと緊張に強張らせていた表情を、ぱっと緩めた。
「ヒロくん」
そういうや否やボクにたたたっと駆け寄って来たのは、レッドグレイヴからの乗合馬車で同乗していたユーナちゃんだった。ボクは手にしていた刃物を置き、体当たりするように抱き着いて来たユーナちゃんを、汚れた両手で触れないように両腕を上げた状態で受け止めた。
「ユーナちゃん、久しぶり。元気だったかな」
「うん。元気だよ。ヒロくんは元気だった?」
「もちろん」
満面の笑顔で返答をしながら、疑問符を浮かべる。グレンとアンジーは孤児院に行ったはずなのに、どうしてここにユーナちゃんが居るのだろうか。それを問うようにグレンに目を向けると、どこかバツが悪そうに彼は後ろ頭を掻いていた。そんな彼の横にもうひとりちいさなお客さんの姿があり、その男の子は口を引き結んでボクを睨んでいた。初対面だというのに相当に嫌われているらしい。
「キミのお名前を聞かせてもらってもいいかな」
目が合ったので、そう問いかけてみたけれど、男の子は答えたくないと意思表示するようにそっぽを向いてしまった。そんな男の子の頭をグレンは、雑にガシガシとなでて髪を乱していた。
「こいつはアレだ。ユーナ嬢ちゃんの付き添いだよ」
「ユーナちゃんの騎士さんってことでいいのかな」
ツンとした男の子は、キッとボクを睨み付けると声を張り上げた。
「そうだっ」
そんな主張に対してユーナちゃんが「違うよ」と口をはさむと、男の子は目に見えてしょんぼりとしてしまった。
ボクは苦笑しながらグレンとアンジーに目配せした。するとアンジーが空気を変えるべく、腕捲りして提案する。
「みんなお腹空いたでしょ。私がとびっきりのご飯つくってあげる」
それに便乗するようにボクも話を繋げる。
「それなら、このお肉使ってくれないかな。狩ってきたのはいいんだけど、量が多くってさ」
「それ、なんのお肉なの?」
「グラスボアのヒレ肉だよ」
「それならカツレツがいいかな。グレン、必要な材料はある?」
「パン粉と卵はあるが。付け合わせに出来るもんがなんもねぇぞ」
「じゃあ、市場までひとっ走り買って来て。キャベッジ1玉なら大銅貨2枚もあれば買えるよね」
アンジーは懐から財布を取り出して、大銅貨を数枚グレンに差し出していた。グレンはそれを疲れたように肩を落としながら受け取っていた。
「いや、まぁ、別にいいんだけどよ。んじゃ、行ってくるわ」
それだけ言い残すとグレンは、キャベッジを買いに行ってしまった。




