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005 盗賊さん、後始末をする。

 男が完治したようなので、ボクは乗客の骸が満載された馬車から彼を両肩に担ぐようにして降り、後方の馬車に運んだ。

「ポーションありがとうございました。どうにか彼の一命を取り留めることが出来ました」

「あ、あぁ、それはよかった」

 引きつった顔で乗客のひとりが応対する。男が血塗れなので戸惑っているのかも知れない。

「生存者は彼と馬車の側に座り込んだ女性だけのようです。凄惨な光景を目の当たりにして放心状態に陥った彼女を、あちらの馬車に乗せるのも憚られますし、こちらにお連れしても」

「あぁ、それがいいだろう」

「ご配慮痛み入ります」

 どうにか女性の同乗許可を取り付けたボクは、へたり込む彼女の元に駆け寄り、肩を貸して自身の足で歩くように促した。ひどく脱力した様子の彼女だったが、重たい足取りでどうにか後方の馬車にまで歩き切ってくれた。


 状況がひと段落し、一連の出来事での疲労を押し隠すように深呼吸をしていると森に指笛が響いた。吹いたのは馭者のおじさんだったようで、何事かと思っているとどこかに逃げ去っていた馬が駆け戻って来た。

「おじさん、ハーネスの予備はありますか?」

「予備というわけじゃないが、前の馬車を引いていた馬のものを拝借させてもらおう。残念ながらあの子は殺されてしまったようだしね。回収するのを手伝ってもらえるかね」

「もちろん、お手伝いさせていただきます」

「すまないね」

 ボクらはハーネスを回収し、戻って来た馬に装着させる。どうにか再出発の準備が整ったところで、ボクは乗客全員にひとつの頼み事をした。

「犠牲者のご遺体の搬送と野盗の連行をあちらの馬車で行いますので、監視の人員として誰か同行してくださる方はいらっしゃいませんか」

 そう切り出すと馭者のおじさんが疑問を投げかけて来た。

「馬はどうするのかね」

「錬金術でゴーレムをつくって、それに引かせようかと。ボクはゴーレムの操作に従事することになりますので、誰か同乗してくださると助かるのですが」

 誰も手伝いを申し出ようとする様子はない中で、ユーナちゃんが声を上げようとして、それを彼女の母親が強く言い聞かせるようにして遮っていた。

「わかりました。では、野盗の骸を積み込む手伝いだけでもお願いできないでしょうか? ここに放置したままですと、魔獣の餌になるでしょうし、彼らが下手に人間の味を覚えてしまいますと、今後ここを通る馬車を餌として襲うようになりかねませんから」

「それなら……」

 渋々ながら了承してくれた中年男性が、周囲の数人に声がけをして彼らを引き連れて積み込み作業を手伝ってくれた。


「ありがとうございます」

 ぺこりと一礼すると中年男性は、髪をがしがしとかきむしり、歯切れの悪い応答をすると後方の馬車に戻っていった。

 その彼と入れ替わるように、馭者のおじさんがボクに歩み寄る。

「本当にいいのかね」

 おじさんは何がとは言わなかったが、何を言わんとするかは察することが出来た。

「えぇ、仕方がないかと。それでスケジュールの変更はなさいますか?」

「そうだね。逃げた野盗の動向も気になるし、このまま無理をしてでも今日中に領都を目指すつもりだよ。到着は深夜になるだろうから外壁の外で夜を明かすことになるだろうが、乗客の安全を考えたら背に腹は変えられないからね」

「この先、分岐などはありますか?」

「いや、ずっと一本道さ。迷うことはないよ」

「それなら少しくらい遅れても大丈夫そうですね」

「そうならないようこちらでも速度はなるべくそっちに合わせるよ」

「お気になさらず。おじさんはボクより乗客のことを第一に考えてください」

 おじさんは眉根を寄せ、申し訳なさそうにしていた。

「なんだかすまないね。命を助けてもらったというのに」

「ボクはボクに出来ることをしたまでのことですよ。おじさんにはおじさんにしか出来ないことがありますし、それを成してください」

「あぁ、わかったよ」

 顔を引き締めたおじさんは、乗客の待つ馬車へと戻っていった。

 それを見届け、ボクはボクで前方の馬車へと向かう。それからハーネスを外した馬の亡骸を道の端に運び、魔獣に喰い散らかされないように『ブレイズリキッド』で焼却処分した。そんな後始末をしていると、後方の馬車で何か揉め事でも起こっているのか、ざわついているようだった。

 何があったのか気になるところだけど、優先順位は考えるまでもなかったので黙々と次の作業に移った。


 ウエストポーチからゴーレムの核に使う土の魔石を複数取り出す。それから奪取スキルで地面から土を、空気中からは魔素を盗み取り、四足獣の形状になるように引き寄せながら、その中へと土の魔石を放り込む。ほどなく完成したゴーレムは、寸胴体型で脚が短く、丸太のように太い脚でしっかりと地面を踏み締めていた。

 見た目は鈍足そうだけれど、身体を構成する土に含有された魔素の量はそれなりに多いので、性能自体は高いはず。

 スキルで魔素を練り込んで強化したロープでゴーレムを馬車に繋いでいると、足音が近付いて来た。ちらりとそちらに目をやるとひとりの男性が、後ろ頭をかきながらばつが悪そうな顔をして立っていた。

「どうされました?」

「あー、なんだ。こっちの馬車に同乗させてもらっても構わないか」

「こちらからお願いしたいくらいでしたから、問題ありませんよ」

「すまねぇな。何から何まで押し付けちまってよ」

「押し付けられたつもりはないですよ」

「そうか、そうだよな。悪ぃ、余計なこと言っちまった」

「それより出発の準備が整いましたから乗車してください」

「あぁ、わかった」

 彼が乗車したようなので、ボクはこちらの準備が整うまで待ってくれていた馭者のおじさんに向けて合図するように、腕を突き上げてぐるぐると頭上で回して見せた。すると意図を察してくれたおじさんは、馬を歩かせ始めた。

 ボクはボクで馭者席に飛び乗り、ゴーレムに魔力の糸を繋いで歩くよう指示を与えて馬車を出発させた。

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