047 盗賊さん、人材を募集する。
「その人員の選定はどのように」
一番重要な事だったので、真っ先にそれを聞いた。領主側にも技術取得して欲しい人材がいるだろうからね。
「そちらの意向に沿う形にしてくれていい。こちらも可能な限り助力させてもらうよ」
ボクの予想に反して領主は人材の選定に関する条件を提示する事なく、こちらに合わせてくれるようだった。
「こちらで好きに選んでも?」
「かまわない」
明確な返答が得られたので、絞り込みやすい条件から順に提示していく事にした。
「でしたら先入観のない若い子達がいいですね。それも成人の儀を受ける前の」
人材発掘の場が魔術職のほぼいないバーガンディであることを考慮するした場合、この領地の常識に染まり切っていない年齢層が望ましい。ある程度の年齢に達すると、この領地での常識などに縛られがちになりそうだし、ボクの方針に柔軟に対応出来るか難しい気がする。それに魔力の扱いなんかも、若ければ若いほど肉体への魔力固着がゆるく、魔力循環を習得しやすいからね。
「そうなって来ると集めるのは一苦労するかもしれないな」
「ここには孤児院などはありますか?」
天職を与えられる前の年齢層を対象とすると、親の家業などの関係で教育方針が既に定まっている可能性が高い。それなら孤児など、未来の職を自力で得なければならないと、早期に自覚せざるを得ない子供達ならボクが指導するに当たって都合がいいと言えた。保護者から余計な口出しをされる可能性が低くなるし、教育以外の面で対応しなければならない相手の数も大幅に減らせるからね。
「タラッサ聖教が運営している救護院がそれに当たるかもしれんな」
一応提示した条件には合致する。だけれど宗教関係施設の場合、幼いころから思想教育を受けている可能性が高く、ボクのやり方に対して折り合いが付かない部分も多くあるだろうし、少し難しいかな。
「そこは避けたいですね。薬師ギルドの二の舞にならないとも限らないですし」
そこから人材選定に関していい案がなかなか出ずに困っていると、領主の後ろで控えていた執事が発言を求めるように手を挙げた。
「旦那様、発言よろしいでしょうか」
「あぁ、なにかよい案があるのか」
「はい。西地区の外れに老婆がひとりで切り盛りしている私設の孤児院のようなものがあるのです。そちらを一度伺ってみるとよいのではないかと」
「そんなものがあるのか」
「はい。元々資産家だったらしく、ダンジョンなどで親を亡くした子供達を何人も引き取って育てているうちに、いつの間にか孤児院のようになっていったようですね。公的な施設ではありませんので、支援金などは出されていません。資産家だったのも昔の話で、長いこと資産を切り崩して、どうにか運営していたようですが、今は資金難になっているのではないかと」
彼の言っていることが事実なら、ボクが提示した条件と合致する。施設が資金難なら今すぐにでも職やお金が欲しいだろうから、少なからず希望して指導を受けてくれる子は居るはず。
「わかりました。一度、その施設を訪ねてみる事にします。もしそこで人材を集められなかった場合、再度ご相談に乗っていたただいてもかまいませんか」
「かまわない。こちらからお願いしている事だしな」
人材募集に関する話は、これでひと段落した。そこでボクはこの機会を逃さぬように、錬金術ギルドにとって今後必要になってくるであろう別の話を切り出そうとした。するとその隙を窺っていたかのように、じっとして隣で話を聞いていたラビィが自分の存在を主張するように、真っ直ぐに腕を伸ばして手を挙げた。
「はい。私もその錬金術の指導を受けさせてもらえませんか」
領主が困ったように娘を一瞥し、ボクに視線を戻した。
「娘を受け入れてくださるかどうかは、そちらの判断にお任せします。ただ娘は既に天職を得ているのですが、どうでしょうか」
ラビィの天職は武闘家だし、魔力循環を習得する過程で、呼吸などの基礎的なことはすぐに習得出来るとは思う。その後の魔力操作に関しても、ダンジョンでの戦闘時に認識阻害の仮面に魔力を奪われながらも、どうにか行えていた。それらを総合して考えたならグレンよりも早くに、ポーション作製を成功させられるだけの素地が既にあるのは間違いなかった。
「ボクはかまいませんよ。ですが、よろしいのですか。バーガンディ家の人間として、学ばなければならないことも多いでしょうに」
「そこは娘次第といったところだね。なにより今は少々落ち着きが足りないのでな。目の届くところにいるというだけで充分だよ」
領主はラビィが認識阻害の仮面と[シェイプシフター]を使って、好き勝手に外を出歩いていたことは、きちんと把握しているらしい。
「そういうことでしたら娘さんをお預かりさせていただきますね」
「ありがとう。なにかと娘が迷惑をかけるかもしれないが、くれぐれもよろしく頼む」
「わかりました」
そんなやり取りを領主と交わしていると、自分抜きで話がまとめられてしまったラビィは、居心地悪そうにしながらちらちらと領主の顔色を窺っていた。黙って外を出歩いていたことを咎められるんじゃないかと、気が気じゃないのかもしれない。
「では、マリアお嬢様。今後、よろしくお願いしますね」
そう改まった言い方をすると、ラビィは落ち着きなく泳がせていた視線を笑顔のボクに向け、こくこくと無言で頷いていた。




