044 盗賊さん、呼び出される。
ボクは倉庫の監視をすることなく、錬金術ギルドに戻ることにした。ボクが城門でポーションを大量に並べて衛兵と揉めていたのを、それなりの数の住人が遠巻きに野次馬していたので、没収された事実を隠すことは出来ない。だから、それを利用させてもらうことにしたのである。
近いうちに衛兵隊にポーションを無償提供する契約を、変に行動的なラビィなら午前中のうちに衛兵隊長辺りに話を持ちかけるくらいはしていたはず。これに関してはラビィを信じるしかないけれど、思い立ったら即行動に移す彼女なら大丈夫だろう。
城門で没収されたポーションを納品予定だった品だということにすれば、倉庫内を検められるだろうし、その数が減っていれば問題になるのは間違いない。あれだけ派手にやっていたのだから証言にも事欠かないだろうから、対応に当たった衛兵に後ろ暗いことがないかくらいは調べられるんじゃないかな。ただでさえ領に属する公的な組織の派遣騎士が問題を起こしていて、住民から冷ややかな目を向けられているのである。ここでなんの対応もしないなんてことをすれば、どうなるかなんて火を見るよりも明らかだからね。
錬金術ギルドに帰り着く頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。中から光が漏れ出ているのでグレンはホールに居るらしいとわかる。玄関扉を開いて中に踏み込むと、いつも食事を摂っているテーブル辺りから話し声が聞こえて来た。どうやら客が来ているらしい。目を凝らしてみると、グレンの対面に座しているのはストロベリーブロンドの少女だとわかった。
「ただいま、グレン。それといらっしゃい、ラビィ」
ふたりに対して声をかけると、なぜかグレンはボクに不審げな目を向け、こちらを振り向いたラビィはきょとんとしていた。
「あんた誰だ」
険のある顔でグレンにそんなことを言われたところで、ボクは認識阻害の腕輪を着けっぱなしだったことに気付いた。即座にそれを外すとグレンは驚いたように目を見開いていた。
「ヒイロだったのか」
「悪いね。認識阻害の腕輪を着けたままだったよ」
「あー、あれか。ここまでわかんなくなるもんなんだな」
「そうだね。ただ腕輪を着け外ししてるところを一度でも見られたら効果はなくなっちゃうみたいだけどね」
ラビィの腕に腕輪が着けられているのに、ボクには彼女が腕輪を着ける前の姿のままで見えていたので、この推測は間違ってはいないはず。
「それより彼女はなんの用でここに?」
「あ、あぁ、そうだ。どうやら例のポーションを衛兵隊に納品するとかいう話で来たらしいんだが……」
昨日の今日でポーションを納品することになって対応に困っていたらしい。ボクはグレンからラビィに視線を移して訊ねる。
「どのくらいの数あればいいですか」
「え、あ、はい。40本もあれば充分かと。東西南北それぞれの詰所に10本ずつ試供することに決まりましたので」
「40本ですか、困りましたね」
わざとらしいくらいに困った表情を見せると、なぜかラビィはおろおろとしていた。
「あ、もしかして準備に時間かかりそうですか」
「いえ、既に数は用意出来てたんです。ですが東の城門で全て没収されてしまいましてね」
「え、なんでそんなことに」
「薬草を採取して、そのまま城壁外でポーション製作したのが原因ですね。薬師ギルドの証印が入っていない薬瓶を使っていたのが問題だったらしくて」
「ど、どうしましょうか」
「既に納品したような物ですし、東の詰所から他の詰所にそれを配布してもらうことって出来ないですか。今日、東の城門を出入りするときに錬金術師免許で身分証明してますからすぐにわかると思います」
「わかりました。グランツさんとお父様に話を通してみます」
「助かります」
「あの、それとは別件なんですが……」
ポーションに関する話がまとまったと思ったらラビィはなにか言いにくそうにそう切り出して来た。
「なんでしょう」
先を促すとラビィは、ごくりと喉を鳴らし、深く息を吐いてから口を開いた。
「領主様があなたにお会いしたいそうなので、領主邸まで御足労いただけないかと」
「昨日お渡ししたポーションの件ですか?」
「あ、はい。そんな感じです」
ラビィの言葉が足りていないので、いまいち状況を把握しきれないけれど、悪い意味で呼び出されているわけではないかな。
「それは今すぐにでしょうか」
「出来ればそうしていただけると助かります」
「わかりました。グレン、そういうことらしいからちょっと行ってくるよ」
「あぁ、なんかよくわかんねぇが、わかったよ」
困惑しながらもグレンは今の状況をどうにか飲み込んでいた。
「遅くなるかもしれないからきっちり戸締りしといてくれ、杞憂かもしれないけど、ボクが錬金術師で大量にポーションを保有していたと話が伝われば、向こうも動くかもしれないからね」
「わかった」
真剣な表情に切り替えたグレンは、つかつかとボクに歩み寄り、ラビィに聞こえないように囁く。
「悪ぃが、地下の隠し部屋に入れてもらえねぇか。オレにはまだ開けねぇしよ」
グレンの頼みに無言で頷く。
「ラビィ、悪いけど少し待っててもらえるかな」
「わかりました」
ラビィの返答を受けて、ボクらは地下工房に行き壁に穴を空けた。
「戸締りはボクの方でやっとくよ」
「手間取らせちまうな」
「今は仕方ないさ。それより、もしここを発見されたときに逃げ場がないから護衛付けとくよ」
「護衛?」
「そ、護衛。プル、起きてるなら出て来てくれないかな」
どこへともなく、そう呼びかけるとウエストポーチからプルがひょこりと出て来た。
「プル、彼を守ってくれるかな」
プルはボクの肩の上に登ってぷくりと膨れ、任せろとばかりにぽよんと一度身体を震えさせた。
「それ、スライムか。なんでこんなとこに」
「ボクの使い魔みたいなものかな」
「本当になんでもありだな、ヒイロは」
最初こそ驚いて見せたけど、グレンは呆れたようにそんなことを言った。
「もしボクの帰りが遅くなり過ぎたようなら、この子に頼んで壁を壊してもらってくれるかな。そのくらいなら出来るはずだからさ」
「あぁ、わかったよ」
「それじゃ、プル頼んだよ」
頼みを聞き入れたらしいプルは、ボクの肩からぴょこんと跳ねてグレンの頭の上に着地していた。




