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天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。  作者: 朱本来未


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039 盗賊さん、新アイテムを作製する。

「それなら秘密裏に活動するときは、そう名乗らせてもらうことにするよ」

「ありがとうございます、ラスティさん」

 早速、名付けた偽名を呼んでくる辺り、少女はこのシチュエーションを楽しんでいるらしい。

「あなたのことも偽名で呼んだ方がいいようだし、ラビィリオと呼べばいいのかな」

「もしよかったらラビィと呼んでください。こう咄嗟のときに呼びやすい方が、なんと言いますか。それっぽいので」

「ぽい?」

「えっとですね。こうピンチとかになるとするじゃないですか。そういったときに愛称で名を叫んでもらえると仲間っぽい感じが、より強くなると申しますか。こう『ラビィィィィィイ!』みたいな感じで絶叫してもらっちゃったり」

 娯楽小説の読みすぎなのか、ラビィは夢見がちな面が濃く、危機感が薄すぎる。拳を握りしめて熱弁する彼女はダンジョンでスライムにボコボコにされたばかりだというのに、全く懲りたような様子がなかった。

「ピンチに陥るような行動は自重してもらえると、こちらとしては助かりますね」

「あ、はい。そうですよね」

 釘を刺すとラビィは、しゅんと身体を縮こまらせた。

「わかっていただけたようでなによりです。では、話もまとまりましたし、お開きとしましょうか」

「はい。今日はありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げたラビィのハーフツインにした髪が跳ねる。彼女は深々と一礼すると、ばっと椅子を跳ね倒す勢いで立ち上がった。それらの一連の仕草はどこか落ち着きのない小動物を思わせた。

「お父様によろしく」

「ばっちり任せといてください」

 ラビィは期待に必ず応えるとばかりに、跳ねるようにステップして錬金術ギルドから立ち去った。それを見送り、深く息を吐く。すると肩に乗っかっていたプルがテーブルの上に降り、大変だったねとでも言いたげに身体をぽよぽよさせていた。


 それからの時間は、ダンジョン探索を早めに切り上げて時間的に余裕もあったので、地下1階の照明の設置と地下2階の増設に費やした。

 増設に必要な魔素は、ダンジョン2層で収集していたので余裕があり、地下1階よりも天井を数倍くらい高くして、広い空間を確保することが出来た。

 また地下2階は床に当たる部分の一部を土のままにして、薬草を栽培可能な魔素が豊富な土壌を用意した。太陽光を格納した[アイテムキューブ]を使えば、地上でなくても問題なく植物を育てられそうだしね。

 水に関しては太陽光と似た手法で確保することが出来た。ただ太陽光と違って水を格納した[アイテムキューブ]に魔力を注ぎ込む必要はあったけれど、要求される魔力量は微々たるものだった。それを創り出す過程で水の魔石を[アイテムキューブ]化したものを用意したのだけれど、水を生成するのに魔力を水属性に変換するという工程が余分にひとつ挟まれて、同一量の水を生成するのに水の[アイテムキューブ]よりも多くの魔力を必要とした。

 だからといって使えないわけではなく、[アイテムキューブ]に格納された水の魔石は、【施錠】されているからか魔素が拡散せず、簡単には消滅しなくなるという変化を起こしていた。それならと水の魔石そのものを【施錠】してみたけれど、同様の効果は得られなかった。あくまでも[アイテムキューブ]化したときのみの変化のようだった。

 消耗品でしかない魔術や魔法薬作製の触媒が、強引に長持ちさせられるという利点は大きい。しかも[アイテムキューブ]に格納させる魔石の量で属性変換効率も大幅に向上した。それを使わないという選択はなかった。

 それらを踏まえた上で、さまざまな実験を重ねて冷気や熱気を格納した[アイテムキューブ]や、魔術そのものを[アイテムキューブ]化することにも成功した。この魔術を格納した[アイテムキューブ]は[マジックキューブ]と呼ぶことにした。

 [マジックキューブ]は、発動に精密な魔力操作を必要としない。単純に魔力を注ぎ込むだけでいいのだけれど、問題点として[マジックキューブ]が魔術発動の起点となるために、手に持ったまま魔力を込め続けると自滅する恐れがあった。しかし、魔力を込めて即発動するわけではなかったので、投擲するだけの猶予は充分に確保されていた。

 ただ使用後に[マジックキューブ]が消滅するとは限らないので、敵に再利用される可能性が少なからずあった。でも、もしこれがボクの魔力でしか発動しないのであれば、かなり使い勝手のいいアイテムと言えた。その検証はボクひとりではどうにもならないので、グレンが帰って来たら試してもらうしかなかった。


 そんな感じで実験を繰り返しているうちに、かなりの時間が経ったのか空腹を覚えた。地上に戻ろうかとプルを探して辺りを見回すと、プルはダンジョンと似た環境の地下2階を元気よく自由に跳ね回ってはしゃいでいた。

「プル、上に戻るよ」

 プルは呼びかけに応じて素早く跳ね寄り、定位置のボクの方に飛び乗った。地下1階に上がって工房に繋がる壁に穴を開けると、真正面にグレンが腕を組んで悩ましげにして立っていた。彼はボクと目が合うと「おっ」と声を漏らして、普段の表情に戻った。

「下から妙な音が聞こえてくるからもしかしてとは思っちゃいたが、やっぱりそっちに居たんだな」

「思ったより早くダンジョンから帰ってくることになっちゃったからね。こっちの整備をしてたんだ」

「飯のあとで見せてもらってもいいか」

「いいよ。今日増設したばかりの地下2階のことも説明しておきたいしね」

「なんというか、仕事が早いな」

「そうでもないよ、まだやらなきゃいけないことが山積みだからね。それよりもグレン、出かけるなら戸締りくらいしておいた方がいいよ」

「あー、まぁ、そうなんだが。アンジーの店に昼飯食いに行くだけだったしよ。すぐ帰るから別に構わねぇかと思ってな。それに盗まれて困るようなもん、なんもねぇしな」

「今はそうかもしれないけど、今後のことを考えるなら今のうちから習慣づけておいてくれ。それと鍵は全て付け替えた方がいい。薬師ギルドの関係者に合鍵を勝手につくられてないとも限らないからね」

 ラビィの話を聞いて、警戒し過ぎなくらいにしておいた方がいいと思って、そう提案する。だけれどグレンはそこまでする必要性を感じていないようだった。

「それはそうかもしれねぇが、むしろそのままの方がいいんじゃねぇか」

「どういうことかな」

「いや、単純によ。持ち出されちゃ困るもんは隠し扉の向こうに移して、盗まれても困んねぇもんは今までの鍵で守れてるとオレらが思ってると思い込ませてた方が、相手を欺けるんじゃねぇかと思ってな」

「そういうことか。確かに物に関してはそうかもしれないけど、後ろ暗い人間を使って襲撃してこないとも限らないからやはり一新しよう。鍵はボクの方で用意するからさ」

「暴力に訴えるなんてことまでするとは思えねぇが、ヒイロがそこまで言うんならそうするか」

 半信半疑ながらグレンが了承を示したので、錬金術ギルドの鍵は一新することで話は決着した。


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