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天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。  作者: 朱本来未


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035 盗賊さん、少女に力説される。

「ヒーロー?」

 ボクの名前と似た響きの聞き慣れない単語に、ボクは疑問符を浮かべた。

「はい、そうです」

「そのヒーローというのは、一体どんなものなのかな」

「え、聞いたことないですか。娯楽小説なんかにもなってるんですが」

「生憎と娯楽小説とは縁がなくてね」

「そうなんですね。それならちょうど一冊手元にありますので、こちらを」

 そう言いながら少女は懐に手を突っ込んで、古びた紙束を取り出していた。それは本と呼ぶには随分と傷んだ紙束で、表紙には表題もなにもなく、素人仕事で綴じられただけの代物だった。それを受け取りながら訊ねる。

「これは一般的に出回っているものなのですか」

「どうなのでしょう。私の家に古くからあったものなのですが」

 手の中にある紙束をパラパラと流し読む。内容はマネイ・タイミーズなる人物に関する調査報告書を物語仕立てに脚色したようなものだった。

「ここに記されている人物は実在する人物なのですか?」

 そんなことを訊ねると少女は、ずいっと迫って来た。

「気付かれましたか。私もそう思いまして、家にあった古い記録文書などを片っ端から調べてみたんです。そしたらなんとその中に該当しそうな人物がひとり見つかったんですよ。その人物というのがですね、バーガンディの発展に大きく貢献してくださった錬金術ギルドの創設者カネナリ・トキハ様なんじゃないかと思うんです」

 少女がなぜ緊急連絡先として錬金術ギルドを登録していたのかが意図せずわかった。

「この中に錬金術ギルドに関することはなにも書かれてないようですが」

 斜め読みした感じだと紙束の中に錬金術ギルドなどといった単語は一切記されていなかった。そう指摘すると少女は、我が意を得たりとばかりに満面の笑みをつくった。

「その中で描かれている上下水道の整備や、毎日のように違わず時を告げる大鐘楼の魔導具。これに関して明確な土地名こそ記されていませんが、これはここバーガンディでの出来事に間違いありません。さらには現在ラーム王国全土で広く使用されている単位基準を定めた人物は、世間的には伏せられていますが、それがカネナリ・トキハ様だったのではないかと思われる記載が所々に残されていたんです。以上のことから私はマネイ・タイミーズ様は、カネナリ・トキハ様だったのではないかと確信しました。しかも当時はまだ錬金術ギルドは存在してませんでしたからね。その中に錬金術ギルドに関する記載がなくても不思議ではありません」

 少女が口にしたことが事実だとして、なぜマネイ・タイミーズは正体を隠していたのか、よくわからなかった。

「それでその人物はなぜ名を偽って活動を?」

「それはヒーローだからです」

 理解出来ない少女の発言に首を傾げる。

「そのヒーローというのはなんなのでしょうか」

「見返りを求めることなく、人々を助け、密かに悪を打ち倒す。正義の味方です」

「それはなんとも無責任な方なのですね」

 ボクは反射的にそんなことを口にしていた。

「えっ」

「なんと言いますか、好き勝手に立ち回り、責任も事後処理もすべて他人に押し付けているのでしょう。それに見返りを求めないと言っていましたが、そのせいで同様のことを成した方が正当な報酬を得る機会を損失してしまうかもしれない。しかも、それだけの力を誇示しながら正体を隠すなんて、やましいことがあるようで、疑わしいと言わざるを得ませんよ」

「それはたぶん身内に被害を及ぼさないためだったんじゃないかと……」

「確かに多方面から恨みを集めそうではありますね」

「でしょう。これだけ領内で立ち回れてるとなると権力者と繋がり自体はあったんだと思うんです。その上で派手に動くことで彼らの代わりに注目を集めてたんじゃないかと」

「そういう考え方もできますか。もしそうなら権力者から目を逸らす囮として、充分に機能しそうではありますね」

 逆に権力者が無能だと民から疎まれそうでもありますが、それに関しては言及は避けました。話が進みそうもないですからね。

「そうでしょう。だから私もヒーローとして領都を守りたいんです」

「あなたの場合は、正体など隠さずにご自身の立場を利用した方がいいと思うのですが」

 夢見がちな少女に現実的な提案をすると、途端に彼女は挙動不審になった。

「な、なんのことですか。私はただの一般人ですよ」

 少女はしどろもどろになりながら視線を宙に泳がせた。

「その上等な仕立てのメイド服、どこで手に入れられたのでしょうか。それを身に纏って、仕事をするでもなく日中から好きに出回っていること自体が不自然ですよ」

「えっと、この服は支給品で今日はお休みなんです。お出かけしようにも普段着を用意する余裕がなくて、仕方なくこの服を」

 お出かけでダンジョンに行くというのは無理があるんじゃないかなと思いながら、ボクは傍に置いていた兎の仮面を手に取って少女に示す。

「このアイテム。強力な認識阻害の効果があるようですが、簡単に手に入るようなものではありませんよね。ダンジョンの深層、それも階層守護者(ガーディアン)でもなければドロップしないような代物ですよ。どこでこんなものを」

「そ、それはおじいちゃんの形見なんです」

 もう誤魔化しようもないと思うんだけど、少女は苦し紛れにまだそんなことを言っていた。

「ひとつ質問したいことがあるのですが、よろしいですか」

「な、なんですか」

 表情を強張らせた少女は、ボクの顔色を窺うように上目遣いで返事をした。

「ラビィリオ・ラビュリントス。あなたの名前で間違いありませんね」

「あ、う、あ、それは、えっと……」

 少女は肯定することが出来ず、目を右往左往させて言葉に詰まった。おそらくこの名前は、少女が考えたヒーローとしての名前なのだろう。だからか正体を隠したい少女は、それを認めることが出来ないでいた。

「どうやら冒険者ギルドに偽名で登録されたようですね。一応、このことは冒険者ギルドに報告させてもらいますね」

「ま、待ってください。お金なら出来る限りお支払いしますから。だからそれだけは」

 涙目になった少女は、必死に懇願していた。そこまでして隠したいものなのかと、ボクはあまりの価値観の違いに嘆息した。

「別にお金には困っていませんし、お金なんて必要ないですよ」

「それじゃあ、私はどうすれば」

「もうバレちゃってるんですから、ボクを協力者として引き込めばいいと思いますよ。その方が今より立ち回りやすいんじゃないかな」

 そんな提案をすると少女は、なにを言われたのかわからないといった様子でぽかんとしていた。


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