031 盗賊さん、奇妙な冒険者と出会う。
とろけたプルをウエストポーチの上に乗せ、ボクはサンプルとして追加で3体ほどスライムを捕獲した。それをウエストポーチにしまっていると、プルがいそいそとボクの肩に登って来た。
「外に出れるようにはなったみたいだけど、2層に降りるのも大丈夫?」
2層は1層よりも魔素が濃い。普通に考えればダンジョン外に出るのと違って問題なさそうだけど、魔物って決まった階層から移ったりしないから気になってたんだよね。
プルは大丈夫と言いたげに全身をぽよぽよとさせて、問題ないと訴えかけているようだった。無理そうなら勝手に逃げるだろうし、ここまま次の階層に降りることにした。
魔石集めの際に見つけていた下階に続く長い階段を、肩にプルを乗せたまま降りていった。2層の入口には扉などはなかった。
この階層には状態異常を引き起こすスキルを持ったスライムが出現するらしいので、種別ごとに数体ずつ確保したいところ。スライムの一部を【奪取】しても素材としては微妙なので、今度はまるごと捕獲するだけでいいかな。
適当に歩いていると索敵範囲内にスライムが異様に密集している場所を見つけた。そこには魔物以外の反応も感じ取れたので、受付小屋で耳にした不審人物なのかもしれないと様子を見に行くことにした。魔物を一箇所に集めてなにかよからぬことをしている可能性もあったからね。
魔力と高密度の魔素の反応をたどって行き着いた先では、激しい戦闘(?)が繰り広げられていた。
顔の上半分を長い耳の付いた白い兎の仮面で隠し、メイド服を着た女性がスライム相手に素手で戦っていた。彼女が「はっ」「やっ」「せりゃっ」などといった気合のこもった声と同時に拳や脚を振るうたびに、ハーフツインにしたストロベリーブロンドの髪が振り乱される。そのニ房の髪の方が、仮面に付いた長い耳よりもよほど兎の耳のようだった。
聞こえる声の感じからして兎仮面のメイドは、ボクと同年代くらいの少女のような印象を受ける。彼女は黄色いスライム複数を相手に立ち回り続けていたが、攻撃手段が打撃しかないからか決め手に欠けているようで、体当たりしてくるスライム達を撃ち落とすことに徹し続けていた。
「手を貸そうか?」
ボクは余計なお世話だとは思いながらも、なんとなしにそんなことを聞いていた。
「助太刀不要っ」
返って来たのは、そんな拒絶の返事だった。けれどそのまま立ち去る気も起きず、戦闘の成り行きを見守ることにした。
兎仮面のメイドは膠着状態を打破するためか、全身へと均等に配分されていた魔力を拳や足先に集中させ始めた。ただ彼女は魔力操作が不得手なのか、その流れは遅い。それを見逃すほど相手も生易しくはなく、黄色いスライムが全身から空気中に存在するものとは反応の異なる魔素を薄っすらと噴出させた。
それに気付いていないのか、彼女は大きく踏み込んで軽く跳躍した黄色いスライムに接近し、魔力を多めに込めた拳を放とうとして突然全身が弛緩したように不自然な姿勢で地面に崩れ落ちた。
反撃することがなくなった兎仮面のメイドにスライム達は殺到し、ベキボコと強烈な体当たりを喰らわせていた。頭部こそ狙われていなかったが、彼女が攻撃に使用していた手脚は重点的に狙われ、ただの打撲と言うのは憚られるような酷いダメージを負わされていた。
さすがにこのまま傍観はしていられなかったので、兎仮面の周囲一帯にある空気から魔素だけを根こそぎ【奪取】した。すると彼女に群がっていたスライム達は危険を感じてか、慌てたように飛び退いた。
「プル。あっちの対処、頼めるかな」
肩に乗ったままのプルに訊ねると、言われるまでもないとばかりに、黄色いスライム達を目掛けて飛び出していた。
倒れ伏した兎仮面のメイドは、強烈な痛みに耐えかねてか、気絶しているようで意識がなかった。彼女の手脚は関節や骨が破壊され、通常ではあり得ない方向を向いていた。
初心者ダンジョン2層で、これほど凶悪な攻撃力を持った魔物というのは異常だとしか思えない。しかも、それが魔物の中でも最弱と名高いスライムなのである。それとも本当にこれが、このダンジョン本来の姿なのだろうか。気になって仕方がないけれど、今は目の前で倒れ伏す負傷者の治療を優先させる。
ウエストポーチからボク独自の錬成技術を用いて作製したポーションを取り出す。ただ骨折や打撲の場合、患部にポーションを振り掛けても効果はない。だから飲ませる必要があるのだが、気絶していて飲ませるのは困難だった。だからといってそのまま放置するわけにもいかないので、ボクは乱暴な手を使うことにした。
ナイフ型に【施錠】した空気で、兎仮面のメイドが骨折した箇所を斬り付け、新たに傷をつくってポーションを振り掛けた。すると切傷と一緒に骨折も治癒されていった。
そうやって全ての骨折箇所の治療を終える頃、プルは黄色いスライム達を殲滅してドロップアイテムと思われる大量の小瓶をボクの元にせっせと運んで来ていた。




