028 盗賊さん、再びダンジョンに向かう。
最終的にグレンの中でボクは【アイテムボックス】持ちの凄腕錬金術師で、それが原因でレッドグレイヴを離れざるを得なくなった人物として認識されるに至った。
ボクとしては都合がいいので、グレンにはそのまま勘違いしててもらうことにした。
そんな彼はボクが壁に空けた扉型の穴の向こうに目をやりながらつぶやく。
「この奥ってどのくらいあるんだ。真っ暗でなにも見えないが」
「その空間の広さは、錬金術ギルドの外壁直下が壁になってるから大体の広さはわかるはずだよ」
「その広さだと光の魔石がいつく必要になるかわかんねぇな」
「それなら心配いらないよ。ボクの方で代替品を用意するからね」
「そりゃありがたいが、いいのかそこまでしてもらって」
「ボクの都合で増設させてもらった地下だしね。そのくらいやらせてもらわないとさ。とりあえずその照明の試作品を部屋から取ってくるからここで待っててもらえるかな」
「わかった」
今思い付いたばかりの理由を述べてボクは工房を出る。地下空間を補強するのに工房内にあった魔素のほとんどを消費し尽くしてしまっていてので、それを補充すべく地上に出て、そのまま二階の部屋へ。
部屋に戻ったボクは【奪取】と【施錠】を使って空気と魔素で3㎝角の[アイテムキューブ]をつくり、その中に別途盗み取った太陽光を[アイテムキューブ]に格納した。
すると太陽光を収めた[アイテムキューブ]は、光の魔石とは比較にならないほどの光量を宿していた。
ボクはそれを複数個つくり、それらをウエストポーチに入れて地下工房に持ち込む。
「持って来たよ」
そういいながらまばゆい光を放ち続ける[アイテムキューブ]を手渡す。
「光の魔石よりもよっぽど明るいな」
「そうだろう。それ、かなり長持ちするはずだから交換の手間もかなり減らせると思うよ」
「それはありがたいな。にしてもこれなんで出来てんだ。見たことねぇ素材っぽいが」
「結構身近にある物でつくったよ。数を用意しなきゃいけなかったしね」
「オレもスキルを使いこなせるようになれば、これと似たような物はつくれそうか?」
「上手く素材同士を【縫製】スキルで縫い合わせられるならいけるんじゃないかな」
「ユニークスキルが必須ってわけじゃねぇんだな」
「まぁね。それじゃ、早速照明を配置して行こうか」
ボクはウエストポーチから新たに照明用の[アイテムキューブ]を取り出し、真っ暗な地下空間を聴覚強化系の探査魔術『エコーロケーション』で把握しながら壁の隅まで足を進める。起点となる位置に到着したボクは、2面の壁両方から1mのところにひとつ目の照明を天井の一部として【奪取】と【投擲】を併用して混ぜ込み、再度【施錠】し直した。
「あれ、落ちてこないか」
「大丈夫だよ。天井と一体になってるからね」
「どうやったらそんなことが……いや、ヒイロのユニークスキルならそれも不可能じゃないか」
割と突飛なことをしても、グレンは独自解釈して納得してくれるので助かる。
ひとつ目を設置が済み、そこからボクは縦横1m間隔で次々と照明を配置していった。
そこまで照明の数は用意してなかったので、すぐに照明が足りなくなり、照明設置作業は打ち切りとなった。
「今日はここまでかな」
「オレに手伝えることはなにもなかったな」
作業の様子を見ていたグレンは力なく笑う。
「今は仕方ないんじゃないかな」
「オレとしちゃ世話になりっぱなしだから、すぐにでも力になりてぇんだがな」
「生活環境を用意してもらってるボクの方も世話になってばかりだと思うけどね」
「それはそうかもしれないが」
「まぁ、お互い様ってことだよ。それよりさ、ボクはこれから昨日のダンジョンに行ってくるよ。魔石の数もまだ充分とは言えないしね」
「それはこっちとしても助かるが」
「それでひとつ頼みごとがしたいんだけど、いいかな」
そう告げるとグレンは満面の笑みを浮かべた。
「任せてくれ、それでなにすりゃいいんだ」
「携帯出来る食事を1食分お願い出来ないかな」
「わかった。すぐに用意するぜ」
グレンは先を急ぐように駆け足で地上に上がって行った。その後をボクはゆっくりと追いながら、空けっぱなしだった地下空間への扉を塞いでから階段を上った。
グレンからさまざまな具材をパンで挟み込んだもの(グレンの曽祖父さんが考案したサンドイッチという料理らしい)を何種も詰め込まれたバスケットを受け取ったボクは、それを[アイテムキューブ]に格納してからウエストポーチにしまい込む。
「ありがとう。それじゃ行ってくるよ」
「やっぱりオレも」
「無理はしない方がいいよ。グレン、昨日の今日で全身筋肉痛なんじゃないかな」
「隠してたんだが、わかってたのか」
「昨日のあの様子を見てたらね」
「恥ずかしい限りだな。ちょっと走ったくらいでこのザマなんてよ」
「普段から身体動かしてないとどうしたってそうなっちゃうよ。魔力循環で多少は疲労の回復も早まるし、今はそっちに専念するといいよ」
「あぁ、そうさせてもらうぜ。そんで1日でも早く自力で隠し扉開けれる程度にはならねぇとな」
「その意気だよ」
グレンに見送られて錬金術ギルドを出たボクは、冒険者ギルドに行ってダンジョン探索の手続きを手早く済ませ、スライムダンジョンに急ぐ。
昨晩、検証したくともダンジョン外では調べようもなかったことがいろいろとある。だからそれを一刻も早く確かめようと心が逸っていた。




