025 盗賊さん、錬金術ギルドを改修する。
【奪取】と【施錠】を複合したボク独自の錬成で、なにが出来るのかを検証していたら夜が開けていた。
閉じられた窓の隙間からは陽の光が差し込み、外からは爽やかな早朝の訪れを告げる小鳥の囀りが聴こえていた。ボクは眠気覚ましの飴を舐めながら、椅子に座りっぱなしで凝り固まった身体をほぐすように大きく伸びをした。すると自然と欠伸が口から漏れ出た。
徹夜は脳に悪影響が出そうだからと控えていたというのに、昨晩は自制が出来なかった。
作業机の上には夜通しで錬成した成果物が雑然と散らばっていた。その過程で新たな発見もあった。
短剣などを縮小化させるように【奪取】で圧縮して【施錠】したものを【解錠】すると縮小前の形状に復元されたのである。この技術を応用すれば空間拡張された収納袋の代用品として使えそうだった。
ただ縮小化するだけでは管理しにくいというのもあって、試行錯誤の末に縮小化させた物品を、同じく圧縮した空気の立方体の中に封入して【施錠】した。すると透明な立方体の中に縮小化された物品が綺麗に収納されたのである。しかも【施錠】した空気は普通に掴むことが出来た。
これの問題点としては縮小化させるには大量の魔力なのと、元に戻すのに【解錠】スキルが必須なので、盗賊以外使えそうもないのが難点ではあった。
あとまだ未検証な点として、食品を縮小化してから元に戻すと味は変化するのか、また保存期限はどうなるのかなどがあった。
その辺りは追々検証することにして、他にも物品へのスキル付与も成功したりと昨晩はかなり充実した成果を上げられた。
まだ試せてないこともあるので、それはグレンに許可を取ってから実行させてもらうことにして、眠気を拭うために浴室に行って水で顔を洗った。
気分がしゃっきりとしたボクは部屋を出て1階のホールに向かった。すると奥の台所から包丁がまな板を叩く音や、なにかが焼けるような音と、お腹の虫を刺激する匂いが漂って来た。
ひょこりと台所に顔を出すとグレンが朝食の準備をしている姿があった。
「おはよう、グレン」
「おはよう、もう起きてたのか」
グレンはフライパンを火から外しながらボクの挨拶に応じ、皿に料理を盛り付けていた。
「昨日は眠れなくてね。気付いたら朝だったのさ」
「なにか気になることでもあったのか? 枕が変わると寝られねぇってわけでもないよな」
「ちょっと錬金術に関する研究が捗ってね。いろいろと試していたんだ」
「そりゃどんなものなんだ」
そう訊ねながらグレンは料理を盛った皿を両手にホールに運んで行く。その後にボクも続いて、昨日夕食を食べたのと同じテーブルに着いた。
「そのことでちょっとグレンに許可をもらいたかったんだ」
差し出された朝食を受け取り、少なからず感じていた空腹感を満たしながら話を続ける。
「オレに許可?」
「そう、ちょっとボクに錬金術ギルドを改修させて欲しいんだ。その代わり、新たに地下室を増設させてもいいかな」
「まぁ、この建物もボロっちくなってやがるし、近いうちに改修工事頼まなきゃとは思っちゃいたから別にかまわねぇけどよ。地下室を増設ってどうするんだ。地上の建屋を増築ってんならわかるけどよ」
「そこはボクが昨晩やっていた錬金術の研究成果でどうにか出来るはずなんだよね。実証実験やってないから絶対とは言い切れないけどさ」
「錬金術の研究ってのも気になるし、その作業見ててもいいか?」
「いいけど、見てて面白いものではないかもよ」
「本当の意味での錬金術に触れる機会が今までなかったからな。実際にはどんなものなのか、この目で一度見てみたかったから問題ないぜ」
ボクがやるのは盗賊スキルを応用した錬金術と似た別のなにかだけど、見た目的にはわからないし、見られてても大丈夫かな。
「じゃあ、朝ごはん食べ終わったら早速作業に取り掛からせてもらうよ」
「あぁ、わかった」
朝食を片付けたボクらは、一旦錬金術ギルドの外に出た。建物の全体像を把握するために周囲をぐるりと一周して、周辺の住民の目に触れない位置に足を運んだ。そしてウエストポーチから【治癒】スキル持ちの薬草を両手いっぱいに取り出した。
「薬草なんてどうするんだ?」
「この建物全体に【治癒】スキルを付与するんだよ。それが出来れば、ちょっとくらい傷んでも魔力を流し込めば修復出来るようになるはず」
「うちを丸ごと魔導具にするってのか。さすがにそれは無理なんじゃねぇか」
「やってみなきゃわかんないさ」
そう言ってボクは錬金術ギルドの建屋の木造部分に限定して、魔力を全体に浸透させていった。かなりの時間をかけて魔力を建屋に染み込ませ、薬草にも同様の処置を施した。最後の仕上げとして【奪取】スキルの対象となっている建屋を引き寄せることなく、その場に残したまま傷んだ外観を軽く整え、それと同時に薬草と一緒に空気中の魔素を木造部分に混ぜ込んだ。するとボロボロだった建物の外観は新築と言っても差し支えないくらいの見た目になっていた。
最終チェックとしてボクはナイフで壁に軽く傷を付けた。そして傷付けた場所に手を触れて魔力を流し込んでみると、治っているのがはっきりとわかるほどの速度で傷は修復された。
建屋改修から今までの一連の流れを見ていたグレンは、呆けたように口を大きく開けてことばをなくしていた。




