024 盗賊さん、盗賊スキルの可能性に歓喜する。
眠いけれどまだやりたいことがあったので、しぱしぱする目を擦りながらウエストポーチからダンジョンから盗み取った天井の一部を取り出す。通常であればここに存在するはずのない物体である。
というのもダンジョンの一部が破損した場合、倒した魔物と同様に光の粒子となって消滅し、即座に復元されるからである。それが今回は起こらなかった。原因はボクが【奪取】で盗み取ったからなのは明白である。
手の中のそれには大量の魔素が練り込まれている。魔物が高密度の魔素で構成されているのと同様に、ダンジョン自体も魔物と似た素材で構成されているらしい。それならこれから魔素だけを【奪取】したらなにが残るのか気になったボクは、即座に試してみた。
その結果は残念なものだった。なぜか魔素だけを【奪取】で分離して盗み取ることは出来なかったのである。
ただそれ全体を【奪取】することは今も可能で、それを構成する一部の物質だけを盗み取ろうとするとスキルが不発に終わるのだった。
なにがダメなのだろうかと頭を悩ませる。
なんとなしにそれに魔力を流し込むと、光量を増すだけで他に変化はない。その変化は光の魔石と同じものである。
他の方法で魔素に干渉出来ないかと考えたボクは【奪取】以外の盗賊スキルを使ってみることにした。
今のところボクが使える盗賊スキルは【奪取】と【解錠】だけなんだけどね。
本来なら施錠されたものを対象とするスキルだけれど、魔術と同様に魔素に干渉して事象を引き起こすことには変わりない。だからスキル使用時の魔力の流れを再現してダンジョンの一部に対して【解錠】を行使した。
直後、手の中にあったそれからまばゆいばかりの光が溢れ出し、急激に体積が膨れ上がった。その変化も一瞬のことで、すぐに光は収まった。
強い光でくらんでいた目が視界を取り戻すと、ダンジョンの一部を載せていたボクの手は大量の土で埋もれていた。
この量の土がさっき1㎤にまで圧縮されていたらしいのだと目の前の光景は訴えてくる。でも、さっきまで手の中にあった物は、ほぼ重さというものがなかった。だというのにボクの手を埋めるだけでなく、作業机の上から溢れるほどの土は、全部で5㎏くらいはありそうだった。
その大きな変化を目の当たりにしたボクは、盗賊スキルの新たな可能性に胸を躍らせた。その考えを実証すべく、【奪取】で土と空気中の魔素を混合して、1㎤にまで圧縮するように引き寄せた。その段階では魔力で無理やり押さえ込んでいるだけなので、大量の土が元の体積にまで膨れ上がろうと抵抗する力が魔力を通して伝わってくる。発動させたスキルは完了せず、魔力だけがどんどん消費されていく。ボクはそこに【解錠】スキル使用時の魔力の流れを逆転させた独自のスキル【施錠】を施した。すると抵抗感は消失し、淡く光る硬質な立方体が錬成された。しかも不思議なことに、圧縮された大量の土の重さがまるで感じられないほどに軽かった。
ボクが錬成したものはダンジョンの一部ほど光を放っていないところを見ると、まだなにか足りないものがあるのかもしれない。試しに魔力を流し込んでみても発光することはなく、ただただ魔力を吸収してため込むばかりだった。
その性質からなんとなく、ダンジョンは魔力を集めるために創られたものなのかとの考えが浮かんだ。魔物が襲うのも魔力を持った生物ばかりだしね。でも、その仮説は正しいとは限らないので、ボクの頭の片隅にだけ留め置くことにした。
とりあえずこの錬成技術を用いれば、ボクにもダンジョンと類似した地下空間を簡単に造り上げることが出来そうだ。前々からダンジョンが発生した場所の土砂はどこに消えているのか疑問だったけれど、こうして圧縮されていたのかとわかり、長年の疑問が晴れて少しすっきりした。
そこでふと思い付くことがあった。魔素を大量に含んだダンジョンの一部を【奪取】で盗み取ることが出来たのなら、ほぼ魔素だけで身体が構成されたダンジョンの魔物の一部も盗み取ることが可能なんじゃないだろうか。本来なら消滅してしまうダンジョンの一部を【奪取】したことでダンジョン外に持ち出せたのだからありえない話じゃない。倒せばドロップアイテム以外なにも残さない魔物から素材を得ることが可能なら、ボク自身の手でダンジョンでドロップするようなアイテムを、自作可能になるんじゃないだろうか。
そんな可能性に思い至ったボクは、ダンジョン探索に新たな目的を見出せたことで、眠気がどこかに消えてしまっていた。
独自の錬成技術を使えば、ポーション作製と同様に錬金術師でないボクでも劣化させずに植物のスキルを錬成物に付与させられる。加えてダンジョンの魔物の一部を【奪取】出来て、もしその魔物素材に薬草と同様にスキルが残されていれば、今までにない魔導具が造れるに違いない。
まだ仮説の段階だというのにボクは、これ以上ないくらいに浮かれていた。




