018 盗賊さん、ユニークスキルの検証をする。
ボクらの前に出現したスライムは全部で3体。その内の2体は、ぽよんぽよんと跳ねながらゆっくりとしたペースで接近していた。だが残る1体は、他2体と違いって一切跳ねることはなく、地面を滑らかに蛇行しながら高速で迫っていた。
「グレン、あれはボクがやるよ」
「あ、おい」
若干の戸惑いを滲ませたグレンの声を背中で受けながら床を蹴り出す。ボクは長剣の切っ先が床にギリギリ触れないように下げ持ち、蛇行するスライムの目前まで駆けた。あと2歩で長剣の間合いに入るところで、スライムの挙動がほんの少し鈍った。ボクはその瞬間に合わせ、一際強い力で踏み込んで思い切り前方へと跳躍した。下げ持ったままの長剣位置はそのままに、スライムの頭上を通過しながら長剣を振り上げるようにして振り抜いた。迫るボクに体当たりすべく、わずかな溜めをつくっていたスライムは回避が間に合わず、体内を剣身が行き過ぎるのを受け入れた。
両断したスライムが光の粒子となって消滅するのを背後に、残る2体が跳ねるタイミングを見計らって着地し、跳躍の勢いを殺さぬように再跳躍した。スライムの眼前に迫り、頭上に掲げるように振り上げていた長剣を袈裟懸けに振り抜き、1体を屠る。その斬撃の遠心力を借りるようにして身体を旋回させながら着地すると、次は斬り上げた。放った斬撃は狙いを違うことなく、スライムの身体をしっかりと捉えていた。
戦闘を終え、足元に目を落とすと運のいいことにアイテムがドロップしていた。ドロップ率が低いと聞いていたがそんなことはなく、複数の水の魔石が床に転がっていた。
「どうやら幸先がいいみたいだよ」
「あ、あぁ」
戦闘に出遅れて気まずいのか、グレンはなんとも言えない複雑そうな顔を浮かべていた。
「あの数の野盗相手にひとりで立ち回ってたとは聞いてたけどよ、すげぇ身軽なんだな」
「そんなに膂力はないから動き回るしかないだけだよ」
体格的に不利だと魔力循環で身体能力を底上げしても、相手が同じことをして来たら勝てないからね。
「それよりボクらは運がいいみたいだ。今の戦闘だけで水の魔石が9個も手に入ったよ」
「そんなにドロップしたのか。オレが昔来たときは100匹倒して3・4個ドロップすりゃいい方だったんだが」
グレンの発言からボクは自身のユニークスキル【トレジャーハント】が効果を発揮したんじゃないかと感じた。意識して発動させるタイプのスキルではないようなので実感はないが、まず間違いないだろう。盗賊に発現することの多いユニークスキルだけれど、その効果量は個々人によってまちまちで、ボクの場合はどのくらいドロップ率が上がったのか気になるところ。このユニークスキルはダンジョンでしか効果を発揮しないので、今まで調べようがなかったからね。
「それなら競争でもしてみる?」
「ドロップ品の数で勝負か。いいぜ。ここはスライムしかでねぇから、お互いにひとりでも問題ないだろうしな」
「じゃあ、決まりだね」
「おうよ。んじゃ、適当に狩ったら入口で落ち合う感じでいいか」
「ちょっと待った」
早速駆け出していこうとしたグレンを引き留め、ボクはウエストポーチから小粒の光の魔石が12個嵌め込まれた腕輪をふたつ取り出した。そのふたつの腕輪に軽く魔力を流すと、嵌め込まれた魔石の中でひとつだけがぼんやりとした緑の光を放ち始めた。
「これ付けてってくれ、光が消えたら集合の合図ってことでさ」
「これ、光の魔石を時間計るのに使ってるのか」
「そうだよ。12個全部光らせたら大体半日くらいになるね」
「てことは、勝負の時間は鐘ひとつ分か。よし、わかった」
ボクから腕輪を受け取ったグレンは左腕にそれを付け、スライムを狩るべく勢いよく駆け出していった。そんな彼の背中を見送ってからボクもスライムを探してダンジョンの徘徊を始めた。
適当に気配を探りながらダンジョン内を歩き、遭遇したスライムを片っ端から屠っていった。それでわかったことだが、ボクのドロップ率は明らかに高過ぎることがわかった。
スライムを倒して水の魔石がドロップしなかったことは一度もなく、必ず水の魔石が3個はドロップするのである。これはもうドロップ率の上昇値が300%くらいあるとしか思えない結果だった。
このユニークスキルの効果量は、数%くらいで気休め程度だと聞いていただけに驚きが大きかった。
その後、ボクは最終的に181個の水の魔石を入手してダンジョンの入口に時間的な余裕を持って戻った。そこにグレンの姿はまだなかったので、彼を待ちがながらなんとなしにダンジョンの天井に対して【奪取】を使用してみた。送り出した魔力がなかなか浸透せず発動までに少々時間がかかったけれど、問題なくスキルは発動した。すると直後にはボクの手の中に1㎝角の立方体が収まっていた。盗み取ったダンジョン天井の一部は、光の魔石と見紛うばかりに発光しており、充分に照明として使えそうだった。それをウエストポーチにしまっていると、疲れたような足音が聞こえて来たのでそちらに目をやった。すると息が上がっているのか、グレンが肩を上下させながらとぼとぼと歩いて来ていた。




