113 盗賊さん、提案する。
「正直なところ、事態がここまで進んじゃってると領主に対する領民の印象を今更覆すのは無理なのは明白だし、難しいところだよね」
「そう、ですね」
苦渋に満ちた表情でラビィは、それを肯定した。
「それに政変に成功させて領主を失脚させたとしても、すぐに王家がなんらかの反応を見せるだろうから嫌な予感しかしないんだよね」
「それならその辺りのことを話して説得してみるっていうのは……」
不安を抱え込みながらラビィは意見する。
「今回の件を実行するにあたって、その中心として動いている相手になら多少の牽制くらいにはなるんじゃないかな。感情的になった民衆に対しては効果は薄いかもしれないけどね」
そんなボクの返答に対してサク姉が一言付け加える。
「まだ民衆の感情も暴動するまでには至っていない今ならまだ間に合うんじゃないかな。ただそれも覚悟の上での行動だったとしたら無意味かもしれないけどね」
ボクらの言葉を受けたラビィの顔色は、ますます悪いものに変じてしまった。
政変を起こそうとしている人達と同じステージ上で立ち回っても効果が薄いと考えたボクは、別方向からどうにか出来ないものかとボクも思考を巡らせる。
今現在、民衆の大半は例の魔物による災害で生活を構成する大きな要素のうち食と住に不安を抱えた状態にある。それならそれらを解消してやれば、多少の不満は残るだろうけれど自身の生活環境を整え直すことを優先するのではないかと思えた。暴動を起こしても空腹のお腹は膨れないし、住む場所が手に入るわけでもない。ただ怒りの感情が解消され、一時的にスッキリするだけなのである。そんなものより優先すべきものが目の前に現れれば、そちらに注意が向くはず。そう考え至ったボクは、ふたりにひとつの提案をした。
「地下に集合住宅ですか?」
「そう。ダンジョン跡地付近に居住可能な小空間の集合体を地下に用意するんだ。例の魔物の一件でダンジョンそのものが失われたのは、徐々に噂として広まりつつある。ただまだ不明な点は多いままなのも事実。それならそれを利用してやろうかなと思ってね」
地上につくれなくもないけれど、突然そんなものが出現したとして、説明出来るとも思えないからダンジョン跡地付近に存在していたことにすればいい。
「どうやるのかはわからないのですが、それを用意したとして今の状況がどうにか終息するのでしょうか」
「まぁ、領主に対する不満は解消出来ないだろうけど、住居を失った人達の感情の矛先を、一時的にでも別のところに向けさせるくらいは出来るんじゃないかな。まぁ、その場凌ぎの時間稼ぎに過ぎないよ」
「確かにそれはそうかもしれませんが、ダンジョンだった場所に住みたがるひとなんているでしょうか」
「魔物がでないとわかれば、よりよい空間を求めて先を競うんじゃないかな」
「それって奪い合わせるのですか」
サク姉から受け取った錬金術ギルドの創設者カネナリ・トキハ氏の冊子の中にマンションと呼ばれる箱型の集合住宅が存在していた。安易な考えかもしれないが、それを真似て地下に用意してやれば、最初こそ戸惑われるだろうけれど、安全が保障されれば住処を求めてみんなそちらに意識が向くはず。
「奪い合わせるというか、必然的にそうなるんじゃないかと思ってね。地下に用意する居住空間の広さや階層の違いで、好みが変わってくるだろうし。地中深くなれば日当たりなんかも違ってくるだろうからね」
「日当たり、ですか。地下なのに」
「発見されやすい場所に用意する必要があるからね。例の魔物が開けた大穴の外周に沿って、下へ下へと居住空間を階層ごとに用意するつもりなんだ。下に行けば行くほど居住空間は広いけれど、日当たりは悪くなるし、地上へ上がるまでの労力も増える。などといった差を付けてやれば、自身の生活スタイルに合わせて選んでくれるんじゃないかな」
もしこれを実行するなら住民の怒りの感情煽られ過ぎていないうちに実行に移す必要があった。なのでボクはすぐにでも動くつもりでいた。
「試しに小規模なものをスライムダンジョンの跡地付近に用意して様子を見てみるよ。最後に例の魔物が居座っていた場所に大規模なものを用意するにも時間はかかるし、それを用意するまでの間、ひとの目を逸らすためにもね」
「それなら私が冒険者ギルドに行って噂を流してこようか。避難所にいる人達なら興味を示すでしょうし」
サク姉がそう申し出てくれたので、ボクはウエストポーチから認識阻害の腕輪の予備を渡した。
「それ付けて行って、認識阻害の効果があるからさ。顔を知られると後々面倒だろうしね」
「それもそうね」
などと話を進めていると、ラビィが声を上げた。
「わ、私も行かせてください」
「それなら地下集合住宅の噂はふたりにお願いするよ。鐘ひとつ分の時間もあれば、簡単なものは用意出来ると思うから、折を見て噂を流してもらえるかな」
「わかったよ」
「任せておいてください」
ふたりの返事を得て、ひとつ言い忘れていたこと付け加える。
「最初、噂は単身者相手にしてもらえるかな。居住空間の構築に慣れるまでは簡素で小規模なものを大量に用意するだけになるだろうし、家族での入居は難しくなるだろうからさ。慣れてきた深層辺りにいくつか家族向けの居住空間も用意するけど、数は少なくなるだろうからね」
「最初の希望人数は? ヒロちゃんの魔力次第だとは思うけど、そんなに大量に用意出来そうなの」
「サク姉もわかってるだろうと思うけど、例の魔物の影響で魔素が溢れかえってるからね。ボクの魔力変換効率が高いのか、今なら魔力切れを起こすことはまずないよ。だから魔力に関しては心配しなくても大丈夫。それで最初の入居者数だけど、30人くらいでお願い出来るかな。部屋数はその6倍くらいは用意するつもりだけど、空き部屋に関する噂も彼らの仲間内で流して欲しいしね。今の状況下で何部屋も占拠するような人間がいた場合は、対処するつもりだけど、そればっかりは未知数だね」
「それならなるべく実直そうなのを選んで噂を流しておくよ」
「うん、お願い。それじゃ、行ってくるね」
ふたりに必要事項をすべて伝えたボクは、スライムダンジョン跡地を目指して駆けた。




