104 盗賊さん、手分けする。
地面の陥没跡から超大型魔物の後を追うのは容易だったが、今は追ったところで得られるものは少ないと、直接の追跡は後回しにした。それにある程度の行き先の検討は付いている。超大型魔物が南南東に進路をとっていたことから、先日ボクが発見したダンジョンに向かった可能性が高かった。
「サク姉、追跡は?」
「大丈夫、きちんと追わせてるわ。地中と空との両方でね」
「たぶんボクらが明後日調査予定だったダンジョンに向かったと思う。もしそこから移動するようだったら改めて教えて」
「わかったわ。それより、これからどうする?」
「一度、孤児院に戻ろうかな。【施錠】した空気の殻の中に閉じ込めたままだしね」
「そういえばそうだったわね。錬金術ギルドの様子は確認してなくても平気?」
「あっちも建物事態は【施錠】してたから問題ないはず。それよりも急ぎ仕事で半端な状態のまま【施錠】しちゃった孤児院を修復しておきたいところだね」
「時間な余裕はなかったんだし仕方ないわよ。それよりも魔力の方は大丈夫なの。かなり消費しちゃってると思うんだけど」
「それなら平気だよ。今、ここら一帯の魔素濃度が高まってるからね。魔力回復の速度は通常の比じゃないくらいに効率よく行えてるからさ。サク姉もそうじゃない?」
「んー、どうかな。私の身体はそれほど魔素を効率よく魔力に変換出来ないみたいだからね」
上空で今後の方針を固めていると地上から声をかけられた。視線を地上に向けると、見知った顔がいくつか目に入った。
「サク姉、降りよう。一応、非常事態は去ったし、これ以上目立つのはまずそうだしさ」
「それもそうね」
大災害に見舞われ、自身の生存や身の回りの人間の状況を把握するのに注力していた人々も、災厄の根源となっていたモノが去った以上は、野次馬根性を発揮するものが少なからず出てくる頃合いでもあった。
そんな状況下にあっても、なんのしがらみもなく、興味本位に原因を探ろうと動き回っている人物も少なからず存在していた。
地上に降り立ったボクらはアンズーから降り、サク姉はアンズーを南南東に向けて単独で飛翔させていた。
「アッシュ、状況の把握はどの程度出来てる?」
ボクに問いかけられたアッシュは、さっぱりだと示すように肩をすくめてみせた。
「全くだね。大地が突き上げられるような衝撃に襲われたとき、冒険者ギルドに居たんだが、住人はみな混乱するばかりだったからね。ここでも珍しい現象だったらしい。地震と呼ばれる自然災害なのかとも思ったが、違ったようだね」
ボクはアッシュの斜め後ろに控えるようにして立つ細身の男性に、ちらりと視線を向ける。それに気付いたアッシュは、彼の紹介をする。
「あぁ、彼はノイト・ナトリアルト氏。昨晩、意気投合してね。夜通し意見交換をしていたんだ」
「ご紹介に預かりましたノイト・ナトリアルトです。以後お見知り置きを」
うやうやしく一礼した男性は、線が細く華奢で肉体労働とは縁遠そうな身体付きをしていた。
「ボクはヒイロ。アッシュ、彼とは古い馴染みだよ」
「私はサクラ。そいつとは同僚みたいなものね」
素性の知れない人物相手に、ボクとサク姉は簡素な自己紹介をさっさと済ませた。
「アッシュ、冒険者ギルドが今回の件の調査に乗り出すようなことは?」
「今のところまだだったが、ここの様子を見る限りだと、そうも言ってられないだろうね。ダンジョンが失われてしまったんだから」
「かもね。北部にあるスライムダンジョンと北西部の野菜などがドロップしていたダンジョンも破壊されたようだしね」
「噂に聞くダンジョンイーターってやつなのかな」
「どうかな。なぜか2番目に襲われたの共同墓地だったんだよね」
「なんだってそんな場所を」
「さぁ、ボクにはわからないけど、タラッサ聖教のひとならなにか知ってるんじゃないかな。あそこは公共設備とはいってもタラッサ聖教の施設だったようだし、地下に宗教的な意味合いのある特殊なアイテムでも保管してたのかも」
遺砂を取り込んだ可能性が高いという話は、ノイトの手前では伏せた。ノイトの立ち位置をいまいち掴みかねて対応に困る。
「ありそうな話だ」
「そういうことでしたら僕が調べてきましょうか」
そう申し出て来たのはノイトだった。
「頼めるかな」
「えぇ、かまいませんよ。以前からタラッサ聖教には興味がありましたが、なかなかきっかけがなく、門戸を叩くことが出来ませんでしたからね」
アッシュと二言三言交わしたノイトは、あっさりとこの場から立ち去っていった。そのふたりのやり取りからは、長い月日を経た関係を思わせた。
「出会ったばかりで、随分と親しいようだけど、素性を明かしたりはしてないよね?」
「まさか。ありえないさ。彼とは知的好奇心を刺激し合う同志というだけのことだよ」
「まぁ、アッシュの友好関係のことは置いておくとして、冒険者ギルドの被害状況は?」
「周辺の建物が倒壊してる中で、全くの無事だよ。あの副ギルド長がなんらかのスキルでどうにかしていたようだね」
もうあの副ギルド長が得体の知れない力を使うのはわかりきっているので、そこまでの驚きはなかった。
「それならアッシュは冒険者ギルドに向かってくれないかな。今回の原因となった魔物のスケッチと簡単な特徴や使用していた能力などを書き添えておくから、それを副ギルド長に渡してもらえないかな」
「あぁ、わかったよ」
快い返事をもらったので、ボクはウエストポーチから植物紙と筆記具を取り出して、ささっと超大型魔物の姿を描いていった。




