001 盗賊さん、円満追放される。
実家を追放されることになった。
理由は単純、ボクの天職が王家が忌み嫌っている『盗賊』だったから。そりゃ領主としては廃嫡して追放するしかないよねって感じなんだけど、パパはなかなか納得してくれなかった。
過保護が過ぎるパパは、王命に背いてボクをひっそり匿おうとしていたけれど、王都から密かに派遣されていた監察官にあっさりバレた。パパは抵抗を試みたけれど、騎士団を領都に差し向けられそうになり、泣く泣く諦めていた。
その後、滂沱の涙を流しながらパパは、ボクの廃嫡手続きの書類にサインさせられていた。
そんなわけでボクはレッドグレイヴ家の人間ではなくなった。
ただパパも図太いもので、廃嫡されたボクを一個人として支援することは問題ないはずだ。と勝手な独自解釈を展開した。
まずは生活資金として毎年金貨30枚の給付に、空間拡張の魔術が施されたパパお手製のウエストポーチに、身分証として初級錬金術師の免許証が用意された。
ボクは幼い頃から魔術師となるべく教育されていたので、その一環としてポーション作製なども学んでいた。その過程で初級錬金術師程度の技能は有していたので、天職が錬金術師ではなくとも免許証の発行自体は特に問題なかった。
さらに錬金術師としての就職先も斡旋してくれたみたいだけど、天職が違えばポーションの作製自体は出来ても、効力は一段落ちたものしか作れないので、一生下働きさせられるのは容易に想像出来た。
それなら錬金術ギルドや商人ギルドに登録だけして、たまにポーションを持ち込むくらいでいいような気がした。
それか冒険者になって自分でポーション使っちゃうとかね。
そこまではまだいいんだけど、パパはボクに騎士や魔術師の護衛を付けようとまでしていた。
もちろんそれは断らせてもらった。
他にも女の子のひとり旅は危険だから、変な男に目を付けられないようにと男装させられ、長かった髪は短く切り揃えられた。そのとき切った髪は遺髪でも扱うように、状態保存の付与魔術が施された鍵付きの小箱に入れられ保管されていた。
それでパパが満足してくれるならいいかと、諦めてその後も出来る限りの要求には応えていった。
そんなこんなで1週間近くパパのわがままに付き合って、やっと領都から出奔する日を迎えた。
隣の領まで馬車を出してくれようとしたけど、どう考えても悪目立ちしかしない。なので自分で乗合馬車の手配するからとお断りさせてもらった。
別れを渋るパパに別れを告げる。完全に涙目のパパをこのまま放置していくのも考えものだったので、希望を持たせるように、ひとこと残すことにした。
「ダンジョンから天職を変えることが出来るアイテムが出ることあるらしいから。それ見つけたら一度帰ってくるよ」
「本当かい?」
「本当だよ。ボクの盗賊としてのユニークスキル【トレジャーハント】って、ダンジョンでのアイテム入手率が他の天職より高くなるらしいから、そのアイテムを手に入れる可能性はなくはないんじゃないかな。それで天職が盗賊でなくなれば廃嫡取り消しはされないまでも、領都に戻るくらいは許してもらえるかも」
たぶん無理だろうけど、適当にそんなことを言ったらパパの顔は、ぱっと晴れやかになった。
「そうだね。きっとそうだ。私の方でも情報を集めてみよう。定住先が決まったら連絡してくれるかい」
「うん。生活が落ち着いたら手紙送るよ」
「あぁ、首を長くして待ってるよ」
「それじゃ、いってきます」
「いってらっしゃい、ヒイロ」
そんなこんなでパパや使用人のみんなに見送られ、やっとボクはレッドグレイヴ邸を離れることが出来た。