嫌われ王女の息子のその後
『嫌われ王女の一生』を読んでいないと分からないかもしれないのでそちらから読んでいただくことをオススメします!
私はある国の女王の息子である。この国は女王が政治を取り仕切ることになっており、私には王位継承権が無い。
だから、今までの王族の男性のように宰相などの女王を支える国の重鎮となるため臣下に下るのが一般的である。私はそのことに対して何も思ったことがなかったが、幼い頃は母上に愛されていたのか不安になっていたことを覚えている。
母上が亡くなったのは私が13歳のときである。そのときまで、母上は私にとってとても怖い存在だった。
いらないものは切り捨て、少しでも反抗したものにはすぐに重い罰を与えた。そして、私が何かを褒められ良い成績を残したときには冷たい目をしながら臣下たちがいる前で「良い成績をとるためにそのような酷い怪我をしたのならば、王族としては褒められたものでは無いわね。」と言い捨てて私の横をサッと通り過ぎて言ったのを幼いながらも覚えている。
その頃の私は母上のことが苦手ではなく嫌いだった。それとは逆に父上は何かにつけ褒めてくれた。母上と違い父上はとても表情が豊かだった。……今思えば、母上はそうせざるおえなかったのだがその当時の私はまだ幼すぎて何もわからず、ただただ母上に嫌われていると思い込んでいた。
幼少期の頃1番思い出に残っているのは馬術大会のことだ。
その日は、私が初めて大会に出るということもあって周りは色々な人でいっぱいだった。勿論、父上も来ていたし何故か母上も来ていた。
初めての大会ということもあり凄く緊張していた私は、馬の操作を誤り馬の背から頭から落ちてしまったのだ。当然の如く、王子である私が落ちたことにより周りの人達から悲鳴が飛び交った。すぐに医療班の人達が駆けつけてきてくれ、私は担架に乗せられ医務室へと運び込まれたのだった。
その時にチラッと見た母上の顔は今でも忘れられない。凄く心配そうに、それでも女王としての何かのせいで我慢しているような、上手くは言えないが今まで見てきた母上の顔の中で1番母親らしい顔をして私を見つめていたのだ。
その事件から母上の行動を注意深く見るようになった。よく見るようになってからきづいたことがいくつもあった。
まず、母上は意外とドジなこと。よく母上は何も無いところで躓き書類を散らばらせてしまったり、ペンをインク壺につけたつもりが侍女が用意してくれた紅茶の中に入れてしまったりと色々とやらかしていたのだ。
そのどれもが母上らしくない1面だった。
ただ、それが日常茶飯事なのか侍女も手馴れたようにそれらを片付けていた。
それからもう1つ、母上の表情についてだ。普段から無表情に見える母上はよく見るとかすかに表情が動いているのだ。
よくよく観察してみてわかったことだったのでとても嬉しかったのを覚えている。
母上の観察を続けて1週間ぐらいたった頃だろうか。父上からお茶をしないかと誘われたのだ。私は久しぶりの父上とのお茶会に嬉しく思い、王族としてはどうかと思うが少し小走りで父上の元まで行った。
父上のいる部屋の扉を開けるとそこにはニコニコと笑っている父親と無表情の母上がいた。
母上がいた事に少し驚いていると、父上から「家族団らんでお茶をするのもいいだろう」と言われた。私は別にいいと思うが母上はどう思うだろうと不安になっていると、母上から躊躇いがちにおずおずと私に話しかけてきてくれたのだ。
その日のお茶会という名の家族団らんの場は1番楽しかったと思う
。そして、母上とも仲良くなれたと思った私はまだ幼いながらもこの関係がずっと続くものだと思っていたのだ。
あの時までは……。
母上が『国民の敵』として処刑された時、私は父上に詰め寄った。
なんでこんなことをしたんだと、母上はきっと、いや、絶対、処刑されるべき人では無かったのだと、何故、父上は母上を処刑したのだと。初めて私が父上に反抗したときだった。
何も言わない父上に苛立ち、父上の顔を見ると、
泣いていたのだ。
それを見た瞬間、一瞬で理解してしまった私を呪いたくなった。
父上は母上を失いたくなかったのだと、そして父上と母上は愛し合っていたのだと。
父上は静かに泣きながらぽつりぽつりと私の知らない、いや、本当は知るべきではなかった父上と母上のことを話してくださった。話し終えた時、父上は私のことを思いのほか強い力で抱きしめてきた。私はその時、ようやく泣いていたことに気づいたのだ。
本当は、母上は私にこれから生きていくためにわざと厳しく接していたこと、母上と私を不仲だと周りに思わせ、私に対する危険を減らすために冷たくしていたこと。
そして誰よりも私を愛してくれたことを、今更ながらに分かったのだ。
それからの私は変わった。全ては母上のように悲しい女王を生み出さないために、ありとあらゆる言語を習得し、ありとあらゆる歴史書を読み、国民たちとこれからの女王のために力を付けていった。
父上は母上がいなくなったことで私にさっさと宰相の座を譲り離宮へと移り住んでいたが、母上の後を追うように父上も若くして眠った。
空席になった王女の座は、母上の妹の子供がそこにつくことになった。その子はとても利発で明るく、王女としての仕事も難なくこなしていたのでひとまずは安心した。
今では私は30に届くぐらいの年齢になってしまったが、妻も子供もいて幸せに暮らしている。
母上と過ごした時間はとてつもなく短かったが、それでも母上といた時間は色褪せることの無い私の人生においての宝物である。私自身母上のような強く、そして愛に溢れた人になれているのかどうかは分からないが、ただ一つ言えることは『賢王』と呼ばれた母上を私は誇りに思っているということだ。
今なら母上と父上に言えるだろう、この国は素晴らしい国になっているのだと。
読んで下さりありがとうございました!!