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朝の日が森に差し込む頃。
彼方此方と動く人影が一つ。
美しい黒髪をなびかせながら歩く山道は、人が通る度に風が吹き、草が揺れる。
____此処は小さな田舎町『ノエリア』。
古き物に守られた歴史の城であると同時に、何処の国にも属さない唯一の町である。
「エルシーお姉ちゃん!もう朝だよ!」
激しく揺さぶられて起こされることは毎日。
その度に頬を伸ばされ叩かれる。少しのくすぐったさと痛みで目が覚めると、可愛らしい顔が目に入る。
私が住まわせてもらっている教会の子供達だ。毎日飽きずに起こしに来てくれてる。
目を擦る間も無く、顔には彼らの濡れた手がバチンと音を立てて水飛沫が飛んできた。
猫だましのような行動に最初は驚いたが今では彼らの水飛沫を浴びるのも習慣にもなって来ていた。
「おはようございます、ソーンにレイラ」
「お姉ちゃん。もう僕達の名前覚えてくれたんだね」
「神父様がご飯作ってくれたの!エルシーお姉ちゃんも行こう」
手をぐいぐいと引っ張れられ、強引にベットから立たされる。服を着てから行くと言えば「先に行ってるね」と部屋を出ていく。
動きやすい服は教会のシスターのお古で、少し大きく袖が余る。一時期無くしてしまおうかと切ろうとしたが、貰い物だったので断念。今ではもう気にしない。
部屋から出るとき以外は常に身につけている剣は、そこら辺の武器屋で買った安物で、最近は狩にしか使っていない。それほど平和なのだ、この町は。
早く行こうと靴を履き部屋を出る。
寝坊でもしたのか数人の子供達が後ろから走ってきた。
「おはよう!チェルシーお姉ちゃんも寝坊?」
「・・・違うよ、ちょっと準備が遅れただけ。一緒に行く?」
「うん!」
笑顔で笑う子供達を見て、少し安心した。
・・・まだ変化はない。
食事はいつも協会の人達と摂る。賑やかな部屋はいつだって暖かかった。
「今日はどこまで行くのですか?」
シスターは場所を聞いてはバスケットにサンドウィッチやら食事を入れて持たせてくれる。
「そこまで遠くには行かないつもりです。山から薬草でも採って帰ります」
「そうですか、気をつけてくださいね。最近だと山も物騒ですから」
心配そうに告げるシスターは、此方を見て微笑んだ。