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   01

 部屋は昨夜からの寒波で冷え切っていた。無音に近い状態でないと眠れない僕はエアコンも消して眠りいつも寒さが朝を知らせてくれる。

 昨日一八時頃、宿に到着し、宿の温泉に一時間ほどつかるなりしてすぐ眠りについた。東京から普通列車を使って九時間の長旅は、気を抜けばすぐにどっと疲れが僕を覆った。駅ちかで素泊まり一泊三千円、部屋は鍵なし、露天風呂付のお温泉宿。いい宿を見つけたと想いながら意識が遠のいてから、九時間後の話だ。僕は右手を肋骨の下に入れ、体全体を横向きにして朝を迎えていた。目を開けようか迷う余裕があるほど幸せな寝起きで、一度目を開け時刻を確認し、早朝の一番電車に間に合うようなら再び寝ようと試みた。そして瞼をかすかに開ける。朝日というまぶしい光は入ってこなかった。当たり前である。一二月それも朝の4時半、陽はまだ沈んでいた。しかし、目を覚まし、起きなければならない事態が発覚した。目の前には、髪の毛を口に入れながら熟睡する人の顔があったのだ。

 驚いた。そして僕の心臓が飛び起きたようだ。しかし身体は起き上がろうともせず、少ししびれた右腕が、僕のスマホを探していた。画面の時刻には朝四時を表示しており、きょうの天気は晴れだそうだ。

 僕はうずくまったままスマホの明かりを頼りに状況を確認した。昨日は一人で寝たはずなのに朝起きたら目の前に人。性別は髪の長いこととヒゲが生えていないことから、いやそれ以前に左手に胸が当たっているので女性と断定。どの段階でこの女が部屋に入ってきたかはわからず、女の上半身の服装は、毛むくじゃらの長袖を身に着けているようだ。おそらく下半身もおなじような恰好だろう。年齢はおおよそ三十歳未満。僕は自分の体に荒らされた形跡がないかと布団からゆっくりと速やかに出る。僕は部屋の明かりと暖房をつけ、部屋を見回した。

 何もなかった。というより、昨日と状況は変わらず、この女が勝ったに入り込んだだけのようだ。

 世間を鑑みて、性犯罪者と間違われるのは実に不条理で悔しいので、僕は困り果てた雰囲気を装って彼女を起こしてみた。

 あの、すみません。と何度か声をかけてみたが、眠りが深いようだ。次は、分厚い布団の上から女を四回ほど荒く揺さぶってみた。

「はいはいはいはい」

 そう口ずさんでから女は布団を勢いよく剥いだ。と思ったら、寒かったのかまた布団にくるまった。

 意識があることを確認し僕は、話しかけた。

「あの、どちら様ですか」

女は僕の声をたどり、目を合わせてきた。わぁ、と声を発するなりすぐに起き上がった。

「あの。どちら様ですか。申し訳ありませんがここは僕の部屋です」僕は残念そうに言い切ってから、僕のリュックサックから玄米茶を取り出し、自分ののどを潤わせた。女は、あぁ、と納得したかのようにつぶやき、ここは何号室かと僕に尋ねた。女は自分の部屋との位置関係を把握してから騒ぐこともなく部屋から出て行った。僕の部屋から出る前に、ほんとすみませんです、と元気よく小さな声で謝罪し、小さく手を振る僕を後にした。

 身長は僕と同じ百六十センチくらいで、髪型はショート、年齢も僕に近いのだろうと再確認し、おかしなことが起きた、可愛かったなと思いながら、私服に着替えた。

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