第七話 勇者の師匠は正式に邪神になるようです。
「それにしてもソウゴ君の師匠ねぇ。そんなちっこいけど本当に強いの?」
ベルが目を細めて邪神ちゃんを見つめる。それに対して邪神ちゃんは胸を張りながら
「あたりまえじゃろう。というかわしより強い奴などおらんわい」
邪神より強くなれるのは勇者だけじゃからの。と、心の中で加えてベルを見つめ返す。
「確かに、ジェノさんより強い人がいるなら人間じゃねぇな」
邪神ちゃんに賛同するようにしてソウゴがそう言ったことに対してベルが頬を膨らませる。
「む、ソウゴ君がそんなことを言うならそこのちっこいのと私が勝負するわ!私はこれでも冒険者ランクはSなのよ!ええ認めないわ。こんなちっこいのがソウゴ君の師匠だなんて認めないわ!」
「なんじゃおぬし、めんどくさい奴じゃのう」
「それにベルお前、勝負だなんて何をする気だよ?」
「ふっふっふ。ソウゴ君、そんなの決まってるじゃない。この街で勝負と言ったら‥‥」
「‥‥‥別に決まってないと思うんだけど?」
「うるさいわね。とにかく!この街で勝負と言ったら『決戦』でしょ!」
「ほほう、『決戦』か。それは楽しそうじゃのう。それで、どっちが勝ったらどうなるのじゃ?」
「私が勝ったらソウゴ君の師匠は私です!あなたが勝ったらソウゴ君の師匠と名乗ることを認めましょう」
「‥‥それわしに利益がないのう」
「‥‥そしてベルはなぜかってに俺の師匠になろうとしてんだ」
「二人ともうるさいわね!」
ムキーッっという効果音が付きそうなベルの音が街の中にこだましていく。
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「この腕輪が勝敗を判断する道具になってるわ。殺傷性のある攻撃を受けそうになると勝手に魔法の盾が出現するの。つまり、この腕輪が発動したら負けってことよ」
邪神ちゃんは『決戦』をするために連れてこられ、ベルが貴族の権力を使って無理やり決戦を成立させた。そして決戦場に入るときにもらった腕輪に関してベルの説明が入る。
「それでジェノちゃん、あなた武器はどうするの?」
「む?わしは武器は使わんのじゃい。まだ作っている途中でな」
「作ってる‥‥?まあいいわ、ないなら貸すこともできるわよ?」
「別にいらんのじゃ。おぬしぐらいなら武器は必要ない」
「‥‥ちょ、ちょっとお姉さん起こっちゃうなぁ」
邪神ちゃんの発言に反応して周りからごちゃごちゃと声が聞こえてくる。そう、この決戦場は一般人が見れるようになっているため、暇なこの街の住民が決戦をのぞきに来ていたのだ。
「それより早くはじめんか」
「‥‥ええいいわ!ソウゴ君、始めの合図をちょうだい!」
「なんで俺が審判なんだか‥‥ものすごく『私のために争わないで!』って言いたい」
「変なこと言ってないで早く始めなさいよ!」
「ああはいはい、それじゃぁ‥‥はじめ!!!」
始めの合図と同時にベルが白と黒の直剣を鞘から取り出す。そして腰を低くしたまま、二人とも相手の動きをうかがう体制に入る。
「‥‥‥‥散撃弾!!」
先に邪神ちゃんが動き出し、指を拳銃の形にして魔力の弾丸を放つ。その弾丸は空中で五つに分裂をし、ベルへと襲い掛かっていく。
「はぁ!」
ベルは迫りくる弾丸を自分にあたる分だけ双剣で切り落とす。そしてその勢いを殺さず、邪神ちゃんに向かって駆けだす。
「(弾丸を切るってこの世界のやつらはどういう神経しとるのじゃ!)」
「‥‥‥『蒼く光るは夜空の煌めき』」
邪神ちゃんが心の中で悪態をついていると、いつの間にか間近まで接近していたベルが左の黒い剣を振りかざし、何かをつぶやく。それと同時に黒い剣が青い炎を纏う。
「食らいなさい!」
「え、爆裂弾!」
邪神ちゃんがぎりぎりで放った爆裂弾がベルの剣に直撃し、爆発を起こす。その爆発の爆風により、二人の距離がまた離れる。
「くっ‥‥変な魔法使うのねあなた」
「‥‥それを言ったらおぬしも変な魔剣をつかっとるではないか。あの炎、魔力を吸収しとるな?」
「あら、わかっちゃった?そう、この剣が纏う炎は魔力を吸収するの。じゃあその吸収した魔力は、どうすると思う?」
「‥‥‥そっちの白い剣で開放、とかじゃないじゃろうな?」
「うふふ、それが正解よ。さっきの爆発で吸った魔力、たっぷり使わせてもらうわ」
「‥‥‥では、わしも少し本気を出させてもらうかのう」
「あら、なにをするの?」
「なあに、ちょっとした遊びじゃよ」
そういいながら、邪神ちゃんが両手を拳銃の形に変える。そしてベルへとは向けず、明後日の方向を捉える。
「‥‥‥『混合弾丸』跳躍弾の性質を付与、透明弾、追尾弾、軌道弾、暗殺弾、散撃弾、閃光弾、爆裂弾」
「はい!?」
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混合弾丸
ほかの弾丸に指定した弾丸の性質を付与できる魔法。付与できる性質は一つが限界。
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「『赫き光は朝日の輝き』!!」
ベルは壁に反射しながら迫りくる弾丸を迎え撃つため、即座に右の白い剣の魔力を開放する。黒い剣とは違い、赫い炎が白い剣を包む。
「ハァッ!!」
炎に包まれた件をベルが振るえば、ためられた魔力を消費して炎が飛び出し、次々と弾丸をかき消していく。
「ふむ、だがその弾丸はどう対処するのじゃ?」
「え?」
よけられる弾丸はよけながら少しづつ炎で弾丸を落としていたベルが、一つだけ飛ばした炎をすり抜けるようにして迫ってきた黒い弾丸に顔を強張らせる。
「ッ!?」
左の黒い剣を地面に突き刺し体を回転させることによりどうにか避ける。その瞬間、一瞬だけだが、周りが見えなくなっていた。
「しまいじゃ」
ベルがとっさにほかの弾丸の対処をしようと周りに視線を戻すと、黄色い弾丸‥‥閃光弾がまばゆい光を放ち始め、ベルの視界を奪う。
「きゃ!?」
閃光弾により目が見えなくなっていたベルに強い衝撃が走り、決戦場の壁へと吹き飛ばされる。
「ふっふっふ、わしの勝ちじゃな」
「へ?‥‥あ、腕輪が発動してる」
Sランクという高ランクのベルが無名である邪神ちゃんに負けたということが理解できていない観客たちはシンと静まってしまっている。
「‥‥勝者、ジェノさん!」
ソウゴの声であっけにとられていた観客たちが一斉に騒ぎ始める。「なんだあのチビ!」「最近のちびは強いのか…?」「ょぅじょっょぃ」という言葉が聞こえてくるたびに、邪神ちゃんの顔が引きつっていた。
すごく自分の中で何かが違う感じがしています‥‥(*´Д`)
少しだけ話が変わることがあるかもしれないので、そこはご容赦を(´・ω・`)