第四話 邪神ちゃんは勇者を支援します。
「ぐっ!?」
そこはとある森の中。とある少年が、息を荒げて必死に森を駆け抜ける。
「ギュエェェ!!」
森が終わり広い草原に出ると、少年を追いかける者たちの姿が明らかになっていく。否、それは人のようで、人ではない。
「ギュエ!」
「ギュエエ!ギュエ!!」
人のような体のつくりでありながら豚の顔を持つ生物。同族とともに、獲物がいれば狩って食う。それしか能のない生物、それは『オーク』である。
「お前らマジでうぜえ!どんだけ俺がおいしそうなんだよぉ!」
集団で追いかけてくるオークたちをバックに少年は走り続ける。
「はぁはぁ‥‥うわっぷ!?」
ここで少年はやらかしてしまった。ファンタジーではよくある、あれをだ。そう‥‥‥何もないところで転ぶというあれを。
「ギュエエ・・・!!」
「ひい!?」
少年に食べた人間から奪ったと思われる錆びた剣が振り下ろされるが、少年は身を転がしてとっさに避ける。しかしそれは、絶望を長引かせるだけ。
「ギュェェェェェ‥‥‥」
「ギュギュ‥‥」
何匹ものオークがへたり込む少年にゆっくりと寄ってくる。まるでこれからメインディッシュだといわんばかりに。
「(・・・・ああ、俺の人生もここで終わりか。せっかく、異世界にこれたってのによぉ)」
リーダーのようなオークがこれで終わりとばかりにその剣を振り上げたとき‥‥‥
「‥‥連撃弾!」
突如として、鈴の音のような澄み切った少女の声が響いた。
「ギュェ!?‥‥ガッ!?」
どこからか飛んできた何かはオークたちの頭にクリーンヒットしてその頭を粉砕していった。
「は!?いったい何が!?」
少年が現実世界に引き戻され周りを確認すると‥‥‥
「‥‥‥大丈夫かの、勇者よ。ちょっとお主弱すぎはせんか?」
人差し指と親指を出し拳銃のような手の形を右手で作り、まるで年寄りのような喋り方をする少女がそこに立っていた。
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「君はだれなんだ?どこかの国の‥‥巫女さん?」
少年は目の前の少女に問いかける。桃色に近い瞳に、金とも銀ともいえる髪を伸ばし、そして巫女服という神秘的な姿の少女。
「いや、別に巫女というはわけじゃないのじゃよ。これ以外の服を隠されてしまって仕方なく着ておるんじゃ‥‥跳躍弾」
少年の真横をものすごい速さで何かが通り過ぎる。
「そ、そうなのか」
「さて、わしはここで名乗っていいのかのう・・・・? 跳躍弾」
少女が後ろに向かって何かを放つ。
「せめて名前だけでも教えてくれないか?俺が勇者だってことを知ってたけど、うちの国以外知ってる国はないはずなんだ」
「むむ、しょうか。まあお主が名乗ったらわしも名乗ってやろう‥‥跳躍弾」
少年の股の間を何かが通り過ぎる。
「‥‥そ、そうかい。なら俺から名乗ろう。俺は未宮壮吾。この世界に勇者として召喚された異世界人だ」
「では、わしも名乗るとするかの。‥‥わしの名は邪神ジェノサイド・ファフニール!!!日本で定年退職をして死んでこの世界に転生させられた爺じゃ!‥‥‥跳躍弾」
少年の頭上をぎりぎりで何かが飛んでいく。
「‥‥へ?邪神?てか日本人?‥‥‥‥ていうかさっきからなんで俺に撃ってくるの?」
「は?おぬしなどうっとらんわい。周りを見てみよ」
「?・・・・・・は!?めっちゃオークが倒されてる!」
ソウゴが周りを見渡せば、見事に頭を撃ち抜かれたオークが何匹か倒れていた。
「跳躍弾、目的以外は跳ね返るわしの自信作じゃよ。感謝するのじゃ」
「おお邪神様、感謝感謝‥‥邪神‥‥‥邪神‥‥‥‥邪神!?」
ソウゴがやっと目の前にいる少女が邪神だと気づく。そして、勇者の前にラスボスがいるという状態に混乱し始める。
「ま、まじで邪神なの?しかも日本人?中身は爺さん?」
「そうじゃよ。といってもどう証明すればいいのかのう‥‥」
「あ、あれだ。邪神ってステータスプレートあるのか?」
「おお、その手があったのじゃ」
ポンと手を合わせ、邪神ちゃん‥‥ジェノちゃん‥‥ファフちゃん‥‥‥邪神ちゃんがステータスを一部表示する。
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ジェノサイド・ファフニール
職業:邪神
称号:オールバレット
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「おお!表示されたのじゃ」
「‥‥‥がちで邪神じゃん。どうなってんのぉ」
ソウゴが四つん這いになり現実逃避を始める。そんなソウゴを見ていた邪神ちゃんは何かに気づいた顔をしてソウゴに問いかける。
「おぬし、その剣は何処で買ったものじゃ?」
そう言って邪神ちゃんが訪ねた目線の先にはオークに追っかけまわされているときもずっと手に持っていた剣。
「これか?これはミスリルの剣だって言ってたな。旅に出る前に国の王様にもらったんだ」
「おぬし、気づいておらぬのか?その剣、確かにミスリルではあるが‥‥呪われておるぞ?」
「‥‥‥‥は?」
「わしは鑑定もできる。ちょいとその剣を貸すのじゃ」
邪神ちゃんはソウゴの剣に近づき、手をかざす。すると、その剣のステータスが表示される。
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呪銀の剣
勇者ソウゴが旅に出るときにとある国の王様からもらったという剣。素材はミスリルだが、剣にかかるその呪いがすべてを台無しにしている。(硬度70/100 切れ味40 呪い:成長抑制、超手加減、魔法阻害)
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「「・・・・・・」」
二人の間に沈黙が走る。それもそうだろう、邪神ちゃんが思っていたよりもそれはそれはひどかったから。
「‥‥‥おぬし、この剣で戦っていてよく生きておったな」
「‥‥‥‥一応、勇者だし?基礎ステータスは高かったからね」
「さすがに哀れじゃな」
勇者さん、敵であるはずの邪神に同情される。由々しき事態である。
「まあけどおぬし、運がよかったのじゃ。ほれ、この刀をやろう。鏡刀・黒凛という刀じゃ」
邪神ちゃんが腰につけていた刀を取り外し、勇者に山なりに投げる。それを受け取った勇者が頭に?を浮かべる。
「いやだって、お主弱いじゃろ?おぬしが弱いと魔王が倒されないからわし暇なんじゃよ。本当はわしが直々に鍛えたいところなのじゃが、うちの秘書君に追われておってな」
「え?勝手に出てきてたの?」
「うむ、そうじゃ!‥‥って、やばいのじゃ」
「どうした?」
そうソウゴが聞いた瞬間、シュン!という音とともに一人の男が出現する。
「‥‥見つけましたよ邪神様。さあ、城に帰りますよ」
ゴゴゴゴゴっと聞こえてきそうな音とともに現れたのは、苦労人兼秘書兼魔王の兄、テルートである。
「ま、待つのじゃテルート。わ、わし自分で帰れるから。そんな怖い目で近づかないでくれい!」
「っへ!?っへ!?」
「おや、勇者ソウゴではないですか。うちの邪神が失礼しました。たぶん邪神様から言われたとは思いますが、うちの弟が暇してるんで早く倒しに来てあげてくださいね。‥‥では」
「いやじゃあ!わしはまだ帰りたくないのじゃあ!」
またもやシュン!という音がして、秘書君と邪神ちゃんの姿が消える。
「‥‥まじで何だったの?」
邪神から渡された刀を見ながら、勇者は唖然としているしかなかった。