第03話 気難しい狩人
大変お待たせしました。
「なあ、気難しいって一体どんな感じなんだ?」
受付嬢さんに紹介してくれるという狩人の事を改めて質問してみる。
俺の持論じゃ、パーティメンバーの選定ってのは、非常に重要な事だからな。
パーティの話を乱すような輩だと、いくら腕が良くたって遠慮したいって訳だ。
俺の探るような視線を受け、受付嬢さんは……ふぅとため息をついて狩人について話を始める。
「いい人よ」
だが、彼女の口から出てきた言葉は俺の予想を大きく裏切った物であった。
そんな事は聞いてない……!あ、でもいい人って評価は参考にはなるのか?
「……それは、いつから気難しいを説明する言葉になったんだ?」
俺と受付嬢さんのやり取りを聞き、ガーネットとユキノが口に手を当ててクスクスと笑っている。
畜生、なんだって俺が笑われなきゃならんのだ?……ほんとにこの受付嬢さんはやりにくい相手だな。
「まあ、そう言うわよね……。あれをなんて言うのかしらねえ……。気難しいがわかりにくいと言うのなら、訂正するわ。そう、気が向いた時にしか口を開かないの、彼」
ああ?駄目じゃねえか……パーティを組んでいるのに大事な意思の疎通方法である会話がないだと?そんな奴をパーティに入れろって言うのか?
「駄目だ、駄目だ、駄目だっ!そんな奴をパーティに入れれるかよ!他に誰か居ないのか?冒険者ギルドってのは人材の宝庫なんだろう?」
「うーん、居ない事も無いけれど……もっと難がある人になるけど、いいのかしら?」
形の良い顎に右手の人差し指を当てて、にやりと笑いながら彼女はそう言い放つ。
……この女、いい度胸しているぜ。
「……いいわけ無いだろうが!!」
さて、どうする?彼女からは“いい人”との評価があるが、意思の疎通が出来ない可能性がある。それは戦闘において最も致命的な欠点となってしまう。
……まてよ、おかしいぞ?ギルドだって戦闘に於ける意思疎通の重要度は分かっている筈だ。それなのにやたら俺たちに意思の疎通が出来なさそうな人間を宛がおうとするんだ?
それは一体、何故だ?何のために?……俺たちを騙して全滅するように仕向ける。もしくはその狩人を始末するために俺たちを利用する。
……いや、自分で考えておいて何だが……恐らくそれは無いだろう。この依頼は受付嬢さんの話じゃ随分未消化だって言うじゃないか。あまりに受け手がいないようだとギルドの信用問題になりかねない筈だ。事実、報酬金をかさ上げしてまで受ける人間を探している。
それにそんな事をギルド主導で行ってたら、ギルドに所属してる人間があっという間に居なくなってしまうだろう。
……おっと話が少しそれたな。とにかくそんな不人気極まりない依頼を俺たちは受けると言ってるんだ。そんな俺たちを彼らギルドの連中が邪魔をするメリットが無い。という事は、懸案の狩人というのも本気で俺たちに推薦している……と考えられるわけだ。
!!
待てよ?こう考えたらどうだ。件の狩人、意思の疎通というデメリットがあったとしてもそれをデメリットとしないほどの能力を持っているとしたら?なるほど、そう考えればこの受付嬢さんの妙な自信も頷けるという物だ。
……ふん、乗せられた気もしないでは無いが、いいだろう。
その思惑に乗ってやろうじゃ無いか。どちらにせよ、この依頼を達成するにはその狩人の力がいるのは間違いないんだからな。
「……いいだろう。あんたの思惑に乗ってやるよ」
「あら?私は何も言ってないわよ?」
……ち、つくづく食えない女だよ。
「そんな訳だ、ギルド推薦の狩人とやらに会ってみようと思うんだが、いいか?」
いくらリーダーを任されたとはいえ、パーティに人を入れるっていう話だ。
なんの相談もしないと言うのは良くないだろう。
特に俺以外は女性だしな、見知らぬ男をパーティの仲間としていきなり受け入れろって言われても抵抗があるかもしれない。
「大丈夫です!ギルド推薦の方なんですから変な人のわけがありません!」
何故か、この依頼に強くこだわっている感のあるユキノがそう答えを返す。
……ギルドが推薦するって言ったって、所詮は冒険者だ。
どこまで信用出来るかなんて、会ってみなきゃ分からないんだがな。
「……と、ユキノは言っているが。ガーネット、君はそれでいいのか?」
「はい!ユキノとファーレンさんが良いと言うなら間違いないと思いますから!」
やれやれ、随分とこのお嬢さん達に信用されたもんだな。
願わくば、その気難しいって奴が、まともな奴であってくれ……と言うところか。
「じゃあ、改めて受付嬢さん。この依頼を俺たちが受けさせて貰うぜ。その腕がいいが気難しい狩人って奴も紹介してくれ」
俺がはっきりと依頼の受諾を口にすると、受付嬢さんは満面の笑顔で礼を述べてくる。
「了解しました!すぐに依頼の手続きをさせて頂きますね!」
……ほんとに食えない女だ。
◆◇◆◇◆
「……ほ、本当にこんな場所に住んでいるんですか??」
今日知り合ったばかりの見た目麗しい女性が2名、ぎゅっと俺の両腕に縋り付いている。
俺も男だからな。こう、なんだ……色々な所が当たったりすると集中出来ないというか何というか……。
だが、本当にこの二人は大丈夫なのか?
確かに暗く気味が悪い場所ではあるのだが、この程度でこんな萎縮した状態になるようでは、正直言ってこの先が思いやられる。
冒険者として活動するという事は、こんな場所での行動などは日常茶飯事になるのが当たり前なんだからな。
きっと、この二人はどこかのお嬢様だったんじゃないのだろうか。
戦いも何もない平和な町で暮らしていたのかもしれんな。
今後、これが改善しなければパーティの解散も考えなきゃならん。
個人的にはせっかく組んだパーティだ。何とか、解散なんかしなくてすめばとは思うのだが……。
そんな訳で俺たちは今、ギルドから紹介された凄腕(ただし難あり)の狩人に会うため、対象のロイヤル・ビーが住むというゼルの森に来ている。
何でもその狩人はこの森に住んでいるらしい。この事も今回の依頼には大きなメリットなのは間違いない。当然、森の中の状況を把握しているだろうからな。
だが……この時点で気難しいというのが本当なんだろうと確信してしまう。
いくら狩人だっていっても何故わざわざ森に住むのか!?俺には全く理解出来んよ。
色々不便な事だって多いだろうに……。
まだ、それほど奥に進んでいるわけではないのだが、辺りは薄暗く、樹木のにおいが濃厚に感じられる場所だ。二人の美少女がこれほど萎縮してしまう気持ちもまあ理解は出来ない事もない。
「お?あの小屋かな?」
受付嬢さんから、渡された地図に記された場所にたどり着くと、大きくは無いがそれなりにしっかりした造りの小屋が建っているのが目に入ってくる。
ほぉ……、魔術結界を張っているのか。
簡易的な物だが、きちんと動作をしており、小屋の周りに魔物が入り込めないようになっている。市販品だが、それなりの価格がする中々良い魔道具だ。
これを使っていると言うだけで、件の狩人の性格や腕前をある程度予測出来る。
「……受付嬢さんが言っていた通り、中々の腕前のようだな。そして、生真面目な性格だろうという事も分かる……変わり者だという事もな」
「え?なんで、そんな事がわかるんですか?」
ガーネットが不思議そうに俺に質問をしてくる。
この魔道具、基本的には冒険者が泊まりがけの移動をする際に用いられる物で、この小屋で使われているような日常的に稼働させるような物では無いのだ。
……では、それは何故なのか?実はこの魔道具の維持には膨大なコストが掛かるのだ。
確かに性能面では素晴らしい。C級程度までの魔物なら確実にその効果を発揮する。
だが、この魔道具……稼働させておくには当然、何かしらの動力を必要とする。
では魔道具の動力源とは何だ?そんな物は決まっている、そうだ魔力だ。
その魔力を固形化した物……すなわち魔石と呼ばれる鉱石のような物こそ魔道具を稼働させるための動力源なのである。
つまり、魔道具を稼働するには、継続してこの魔石を充填する必要がある。
魔石の入手手段は大きく分けると2点ある。
1つは簡単だ、誰でも出来る。
その方法とは……ひたすら地面を掘る、だ。
掘った場所がどのような属性を吸収しているかによって得る事が出来る魔石の種類は異なってくるのだが、六大元素(火・水・土・風・光・闇)のいずれかの属性を持った魔石が希に見つかるのだ。
ただ、これには当たり外れがかなりある。
元となる鉱石(魔力を吸収する性質を持つ)が大気に含まれている魔力を一定期間、吸収する事で魔石へと変化するのだ。そのため、その大きさ・内容量にばらつきがどうしても出てしまうのだ。大きな物もあれば小さな物もある。当然大きければ魔力の保有量も大きい。
大きな物が入手出来るか、小さな物が入手出来るか、言ってみれば運だと言う事だ。
もう1つの方法は、魔物を倒すという事。
魔物を倒し、解体をするとその心臓辺りに魔石が内包されているのだ。
ただし、これは弱い魔物だと得る事が出来ない場合がある。
魔物を倒して魔石を得る場合、魔石の属性や大きさは倒した魔物の種類、強さによって変わってくる。単純に言えば、強ければ大きな物が手に入るし、弱ければびっくりするほど小さい場合もある。
少し話がそれたな、つまりこの魔道具を今目の前で使われているような常時展開しようとすれば相当数の魔石が必要となると言う事だ。
ここにその狩人が定住しているというのなら、必要となる魔石は結構な量だろう。
それを賄う事が出来ているという事実が目の前にある。
恐らく自分で狩ってきた魔物から取り出した魔石を使用しているのだろう。
すなわち、一定の強さを持つ魔物を定期的に……それもかなりの数狩っているという証拠になるんだ。そして、魔石を都度交換するなんていうのは正直面倒くさい作業だ。
そんな事をずっと続けているんだ、生真面目な性格だと推測してもおかしくはないだろう。
……そして、何よりこんな面倒くさく金が掛かる手段を使ってまでここに住むと言うのはよほどの変わり者だと言う事だ。
ガーネットとユキノは俺の説明を聞き、ふんふんと首を何度も縦にふる。
「じゃあ、やっぱり腕の良い方なんですね!」
ユキノがパァっと顔を輝かせてそう言った。
「まあ、まず間違いないと思うがな……」
「じゃあ、急いで行きましょう!!!」
ユキノは俺の腕から手を離し、早歩きでさっさと小屋の方へと歩いて行ってしまう。
……さっきの怖がりようは一体なんだったんだ??
思わずガーネットを見ると、苦笑を浮かべながら先に進む相棒の背中を見ている。
「ユキノはいつもあんな感じなのか?」
「……そうですね、あの子は普段はおっとりとしてるんですけど、思い込んだら割と猪突猛進なところがありますね」
なるほどな、段々と二人の性格が分かってきたぞ。
ユキノは基本大人しいが興味が有る物には積極的に取り組むタイプか。
ガーネットは責任感が強く、ユキノの保護者的な立ち位置といった感じだな。
って、おい!?ユキノ!!!何やってるんだ!!!
「こんにちはー!ギルドから紹介されてやってきましたー!!」
なんとユキノの奴!俺たちが、まだ小屋にたどり着いていないのにドアをノックしやがった!?あいつに交渉なんて出来るのか!?思わず、ガーネットを見てしまう。
「あちゃ~」
ガーネットも予想外の行動だったのだろう、頭を押さえ呻いている。
慌ててユキノの元へと駆け出すが、俺たちの到着よりも早く小屋の扉は開かれるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
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基本的にリプは行わない予定で、何かしらの報告事項があった時につぶやきます。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。