第02話 パーティ結成、そして初依頼!
「なるほど、……では用事とやらを聞こうか?」
俺がそう言うと、彼女は大きく息を吸い込んで予想通りの言葉を俺に掛けてきたのだ。
「わ、私達とパーティを組んでください!!!!」
ああ、予想通りの内容だったな。……しかし、パーティか。
渡りに船といえば、確かにその通りではあるのだが、問題は彼女達とパーティを組むメリットが俺にあるかと言う事だ。
何度も言うが、冒険者にとって固定のパーティメンバーという物は何にも代え難い財産と言える。
パーティの構成員がどうなるかで、今後の稼ぎが決まってくると言っても過言ではない。
俺が求めている人材……。
そうだな、まず俺が攻撃役なわけだから、どちらかと言えば後衛職がありがたい。
腕の良い魔法使い(キャスター)、治癒師辺りならベストだと言えるだろう。
彼女達……ガーネットとユキノと言ったか?
職業次第では、この申し出受けるのもいいかもしれんな。
まあ、先程のやり取りを見れば、前衛職とは考えづらいがな……。
「パーティか、考えなくは無いが……君達の職業は何だ?」
「は、はい!私は魔法使い(キャスター)、彼女は……ユキノは治癒師です!」
ビンゴッ!最優の組み合わせだ!後は彼女達の実力次第では、あるが……。
取りあえず、お試し期間という感じで付き合ってみるか。
「そうか、見ての通り俺は攻撃役だ。バランス的には問題ないだろう。
仮という形で良ければ、一度パーティを組んでみるか?」
俺がそう言うと、ガーネットと言う女性が満面の笑みを浮かべて、頭を下げてくる。
「あ、ありがとうございます!……ほらユキノもちゃんとお礼を言って」
「……あ、ありがとう……」
二人に頭を上げるように言って俺は改めて名を名乗る事にした。
「さっき受付嬢さんが言っていたが、俺の名前はファーレンだ。よろしく頼む」
「はい、私はガーネットです!彼女は……さっき言いましたがユキノです!」
俺達がお互いの名前を名乗り合っていると、背後から受付嬢さんが声を掛けてきた。
「あら、話はまとまったかしら?」
「ん、ああ……見ての通りだが?」
突然、声を掛けられた事で不審に思った俺は思わず愛想も無く答えを返す。
だが、そんな俺の態度にも全く気にした様子も見せずに彼女は話し始める。
「あなた達でパーティを組むのよね?ならパーティ登録しなきゃね!」
ああ、なるほどな。パーティ登録か、確かにやっておかなければ不味いか。
しかし、この受付嬢さん……さっきから見てると中々のやり手だな。よく周りを見ている。
俺がそんな事を考えているのを知ってか知らずか、素知らぬ顔で俺達のパーティ登録に必要な書類の準備を続けている。
「さあ、この書類の必要事項を書いてもらえるかしら?……ああ、ファーレンさんは私が代筆するわね」
どうにも調子が狂うな、この人(受付嬢)の前だと。
その後、俺は彼女の質問に答えを返していき、何とか書類を完成させた。
ガーネットとユキノも問題なく完成させたようだ。
「はい、書類は……二人とも大丈夫ですね。あと各自のギルドカードを貸りますね」
俺達は素直にギルドカードを取り出して、彼女に手渡した。
「では、少しお待ち下さいね。パーティの登録証を発行してきますから!」
そう言って俺達からギルドカードを受け取ると受付嬢さんは席を立ち、先程同様に裏手へと歩いていく。
「ふぅ、何だか調子が狂ってしまうな」
「なんか、凄い方ですよね……。私達の考えている事の先へ先へと回りこんでいる感じで……」
「……彼女は出来る人です」
俺達が思い思いの感想を口にしていると、何故か急ぎ足で噂の受付嬢さんが戻ってきた。
うん?さっきと比べてかなり早いが……もう終わったのか?
「……ごめんなさい、聞き忘れた事があったわ……パーティリーダーは誰にする?」
聞き忘れた事が恥ずかしいのか、どこか照れた表情を見せながら俺達に確認してくる。
「「……リーダーはファーレンさんで!!」」
受付嬢さんの問いに間髪いれずにガーネットとユキノがそう答えた。
「おいおい……俺はリーダーって柄じゃないぞ?」
「大丈夫です!ファーレンさんは立派なリーダーになります!私が保証します!!」
……今さっき出会ったばかりの人間に保証されてもな。
俺が苦笑をしていると、受付嬢さんはいい笑顔を浮かべて、俺をリーダーにして登録してきます!と言い残し、再び奥へと消えていった。
「……まあ、構わないが……知らんぞ、どうなっても……」
「大丈夫です!私の勘がファーレンさんは、いずれ誰からも認められるリーダーになると告げています!
私の勘って良く当たるんですよ!ね、ユキノ!!」
ガーネットが自信満々にそう言うと、ユキノもウンウンと大きく頷いて、その言葉を肯定する。
一体、その自信はどこから湧いてくるのやら……。
俺が呆れて大きな溜息をつくと、ガーネットは頬をぷくっと膨らませて怒り出す。
まるで、リスの頬袋みたいだな。
そんな事を脳裏で考えていると、ジロリとこちらを睨み付け「なにか言いましたか?」と聞いてくる。
なんで、俺が考えている事が分かるんだ?と思いながらも「何でもない」とごまかしておく。
そんな俺とガーネットのやり取りを“微笑ましい物を見てます”みたいにニコニコと微笑みながらユキノはこちらを見ている。
むぅ、この子達といると何だか妙に調子が狂うな。
「と・に・か・く!ファーレンさんは絶対に立派なリーダーになりますから!いいですね!」
「……ああ、分かった、分かった」
取りあえず、きりがなさそうだ。適当に話をあわせておけばいい。
しばらくそんな不毛な話し合いが続いたが、受付嬢さんが戻ってきた事で不毛だった時間が終わりを告げる。
「は~い、お待たせしました!パーティ登録が完了しました!!
本当はパーティ名も決める所なんだけど、今度でいいわ。すぐには決まらないでしょうし」
俺とガーネットさんの顔を交互に見ながら、そう言って俺達に渡していたギルドカードを返してきた。
「へえ……」
ギルドカードの裏側に、先程は何も書かれていなかったが、今はパーティメンバーの名前が刻まれていた。
この一番上の空白になっている部分が、恐らくパーティ名が入る場所だろう。
俺達がまじまじと新しくなったカードをみていると、受付嬢さんが訪ねてくる。
「で、ガーネットさんとユキノさん……あなた達、パーティを組んでやりたい依頼があったのでしょう?」
ほう?受けたい依頼?なるほどな、それでパーティを募集してたのか。
確かに前衛職がいなければ、大体の依頼を受ける事が出来ないからな、当然と言えば当然か。
「一体、どんな依頼を受けたかったんだ?」
そう俺が二人に尋ねると、ユキノがすくっと席を立ち、依頼が貼り付けてある掲示板へと走っていく。
「なんだ?掲示板に貼ってあるのか?よく今まで残ってたな……。
受けたいとわざわざ言う位だ、結構人気があったりする依頼じゃないのか?」
俺がそう言うと、ガーネットは苦笑いをして、受付嬢さんは視線を背ける。
……ん?何だ??俺、今何か変な事を言ったか?
「あ、あのね……実はね……」
ガーネットが何かを言おうと俺に話しかけた時、ユキノが一枚の紙切れを持って戻ってきた。
「……これです」
俺はユキノから、その紙切れを受け取り内容を確認してみた。
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依 頼:ロイヤルゼリーの納品
依頼者:錬金術ギルド
推奨RK:E級
制 限:特になし
報 酬:金貨50枚
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ほう、金貨50枚か……。恐ろしく報酬が高いな。
だが、待て?推奨ランクがEだと?下から二番目のランクだ。
制限が掛かっていないからFの俺達でも受けれると言う事か。
……おかしくないか?最下層のFが受けれる依頼にしちゃあ報酬が良すぎる。
何か、裏があると思うべき……なんだろうな。
「なあ、おかしくないか?この依頼」
俺がそう言うと、二人は一気に暗い表情になってしまった。
「そうね、ファーレンさんの言う通りよ、この依頼は報酬と制限のバランスがおかしいの」
俺の発した疑問は、依頼を持ってきたパーティメンバーでは無く、受付嬢さんが答えてくれた。
「なんで、こんなに報酬がいいんだ?」
そう、何よりも分からないのはこれだ。どう考えたっておかしいのだ。
それにこんなに報酬がいいなら、掲示板にずっと残っている訳がない。
なのにも関わらず残っていた……しかも、この二人がパーティを組もうと浪費していた時間は結構あったはずだ。
そんなに長い時間、放置されていた依頼、何があるのかは気になって当然だろう。
「その依頼の目的を見てみて、ロイヤルゼリーの納品ってあるでしょう?
実はこのロイヤルゼリーは、ある特定の魔物からしか取れないの、ロイヤルビーって言うんだけどね」
ふぅん、やはり理由があったか。
しかし、特定の魔物って言ったって生息域さえ、分かっていれば楽に狩れるだろう?
……そんな大した理由には思えんがな。
「あ、今生息域さえ分かれば、楽勝って思ったでしょ?」
受付嬢さん、あんたは何者だ?何で俺が考えた事が分かるんだよ!
「ふふ~ん、簡単よ!あなた結構顔に出やすいわよ?」
……そんな訳ないと思うんだがな……?
そう思ってガーネットとユキノを見てみると、無言で首を縦に振る。
まじかよ。受付嬢さんを始め、今日出会ったばかりの連中に揃って言われるとは……。
「……そんな事はどうでもいい!一体何でなんだ!?いい加減答えを教えろよ」
「この魔物、ロイヤル・ビーは蜂型の魔物なんだけどね。
ここから少し離れた所にある“ゼルの森”という結構大きな森があるんだけどね。
ロイヤル・ビーは、その広い森にたった一匹しか存在しないのよ」
な、なに!?たった一匹だって?しかも、森の中で蜂型の魔物だと!?
そんなの見つける事なんて、偶然に頼らなかったら無理にきまってるだろう!
何考えてるんだ、この依頼主は……!
俺の表情を見て、受付嬢さんは言う。
「……分かったでしょう?報酬が異常に高い理由。
元々の報酬は20枚だったんだよ、けど誰も受けてくれないから……。
いや受けても達成出来ないからどんどん報酬が高くなったんだ」
ああ、納得だよ。確かにそんな理由があるなら高いのも納得出来るってもんだ。
だが、こんな話じゃ……俺が二人に加わった所で達成出来るわけないだろう!?
「理解はしたがな……これじゃあ依頼達成は無理だろう?」
「私達ギルド側としても、そろそろこの依頼は達成させてしまいたいの。
あなた達が受けてくれるなら、報酬を更に金貨10枚上乗せするわ。
そして、ギルドから索敵能力の高い人材も紹介します」
ほう、金貨を更に10枚上乗せか。余程なんとかして欲しいんだな。
それに人材も紹介してくれるときたもんだ。
ん?待て、人材を紹介するだと?
「待てよ、そこまで終わらせたい依頼なんだろう?今まで何で人材を斡旋しなかったんだ?」
俺がそう訪ねると、受付嬢さんは困った顔を初めてみせてこういった。
「……その人、腕は確かなんだけど……気難しいのよ」
はあ、何て事だ……気難しいって事は、手伝って貰えないかもしれないって事かよ。
随分とあてにならない話じゃないか、どうする?受けるのか、この依頼。
「なあ、本当に受けるのか?この依頼」
俺がそう訪ねると、ユキノは力強く頷いた。
「絶対に受けます!」
この瞬間、俺達の難解依頼への挑戦が決まったのだ。
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咲夜@小説家になろう:@ID73yQraHGjolTq
基本的にリプは行わない予定で、何かしらの報告事項があった時につぶやきます。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/03/11
・全般の誤字を修正。