第01話 運命の出会い
拙作「カット&ペーストでこの世界を生きていく」のスピンオフ作品です。
本作を読んでいなくても、話は読めると思いますが本作を読んでいる事を前提で書いております。ご理解の程、宜しくお願いします。
成人を迎えると神様からスキルを最大で三つ授けられる世界。
……これは英雄と呼ばれ、後に一国の王となった男とその仲間達の物語。
「おぉっ!!奇跡だ……奇跡が起こった!!」
俺が神から授かったスキルを見て、神官が大騒ぎする。
神殿にのみ設置されている“確認の宝玉”に映し出されているスキルの名前は二つ。
すなわち【片手剣・聖】【腕力強化・大】だ。
片手剣の上位二位の“聖”の位を持った優秀なスキル。
滅多に授かる者はいないレアスキルである。
そして、更に腕力強化という武器を操るのに優秀な補助をしてくれるスキルも授かった。
このスキルもなんと上位二位の“大”の位が付いている。
優秀な組み合わせのスキルを得て、かつ二つとも上位二位ともなると滅多に見る事が出来ない筈だ。
神官が騒いでいるのも理解出来ない事もない。
何とも神様は大判振る舞いをしてくれたようだ。
俺の名はファーレン。
しがない流れの傭兵の息子だ。
傭兵だった親父はオーガスト王国の貴族に雇われて、迷宮に潜り、そこで命を落とした。
何でも逃げ延びた傭兵仲間が言うには、貴族の盾にされて逝っちまったらしい。
こんな因果な職業を生業にしていたのだ。
いつかこんな日が来るのでは無いかと思っていたが、現実の物となってしまうとやはり寂しくなるもんだ。
相手が貴族で、今回の雇い主というのならば、文句を言ったところで無駄足に終わるだけだろう。
……傭兵の命なんざ、この世界じゃ安いもんだからな。
俺達、最下層を生きる人間には泣き寝入りをするしか、手段は無いのが現実だ。
早々に親父の事は諦めて、俺は自分がどうやって生きていくのかを考える事にする。
薄情だと言われても、生きていくためには仕方がない事だろ?
俺も親父に鍛えられ、多少は荒事にも自信はある。
だが、俺程度の力では腕っ節を頼りにした仕事は無理だろうさ。
親父に連れられて各町を転々としていた俺は成人を迎えているのにも関わらず、まだスキルを授かってはいない。
スキルを授かる為には神殿に足を運ぶ必要があるのだが、成人を迎えてから図ったように神殿が無い町にばかり、滞在していたのだ。
だが、今滞在している此処ルナワンの町には神殿があった。
そこでスキルを得て、今後の指標を定めるべく、神殿に向かった訳だが……。
先に話したように神様の熱烈な歓迎を受け”戦う”事に特化したスキルを得る事が出来た訳だ。
「ふん、戦闘に特化しているとは言ってもな……。
傭兵を続けていたら、いつか親父みたいになっちまうだろう」
……一体、何を成すべきか、神様から授かったこの力を何に使うべきなのか。
俺はしばらく考えをまとめる事にしたのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「此処が、冒険者ギルドか」
結局、俺が出した答えは冒険者になる事だった。
じっくりと考えた割に無難な選択になってしまったと自分でも思う。
己の命を掛けるという点では、傭兵も冒険者もどちらも同じなんだがな。
だが、冒険者は傭兵と違って、実入りに波はあるが、大きな依頼をこなせば即座に大金を手に入れる事が出来る。
そして、依頼をこなし実績を積み重ねれば、いずれ貴族や王家からも個別の依頼が来るようになるかもしれない。
身分ある物達から信頼を得れば、俺自身が貴族となる事だって夢では無いだろう。
だが反面、大成するには傭兵と違いコミュニケーション能力が大いに求められるだろう。
傭兵って奴は、クライアントが金に物を言わせて案件に合わせた人材をかき集めてくれる。
その集まった人材で協力して依頼を行えばいい。
それに案件だって、大概長期にわたる物が多い。
すなわち、安定して金を手に入れる事が出来るって訳だ。
しかし、依頼が達成されなければ、成功報酬が入らないのだから、自ら協力しあうし任務成功の為に全力も出す。
これに反して、冒険者は大きな依頼をこなそうとすれば、自分で仲間を捜す必要がある。
ギルドが斡旋してくれる事もあるが、性格的な部分で相性が合わないとか問題も多いと聞く。
荒くれ者が多い冒険者達の中で如何に信頼がおける固定のパーティを組めるか。
それを成す為には、やはり人を見る目とコミュニケーション能力が必須と言えるだろう。
これが出来なければ、冒険者で大成する事は出来ない。
少なくとも俺はそう思っている。
冒険者としての登録が完了したら、まずやらなければならないのは仲間探しだろう。
「すまない、冒険者登録をしたいのだが……」
早速、空いている受付に足を運び、受付嬢に声を掛けた。
「はい!ではこの書類をお書き下さい。
代筆が必要でしたら、言って頂ければ私が書かせて頂きます」
「……すまないな、代筆を頼めるか?」
親父に連れ回され、ろくに勉強などさせて貰えなかった俺が読み書きなんか出来る訳が無い。
……俺が出来なきゃ、出来る奴を仲間にするしかない。
読み書きは仲間を探す時の条件の一つだな。
「分かりました!では、私がいくつか質問を致しますので答えてくださいね」
受付嬢が名前や得意武器、常宿などを順番に聞いてくるので、答えていく。
そして書類が全部埋まった……その時だ。
「おい、そこの姉ちゃん達!
パーティメンバーを探してんだろう?
姉ちゃん達は運がいいぜえ、何せ俺達のような凄腕パーティが誘ってやるんだからなあ!」
ギルド内に下品な笑い声とダミ声が響き渡る。
眉を顰めて、声がした方を見てみると、女性二人組がやたら太った男に絡まれているのが見える。
「……ふん、屑が」
そう呟いた声がどうも太った男に聞こえたようだ。
「ああ?今巫山戯た事を抜かしたのはてめえか?」
太った男は絡んでいた女性から標的を俺に変えたようで、ノシノシとこちらに向かって歩いてくる。
……ふん、これでいい。
いかに彼女達が冒険者とは言え、女性は脅す物じゃない。
こんなゴミのような輩は排除するに限るな。
「受付嬢さん、あれを俺が排除しても問題は無いか?」
「……まだ、冒険者登録は済んでいませんから問題は無いと言えば無いのですが……」
問題が無いというなら、やってしまうか。
「なんだい?そこの冒険者にしちゃ愉快な体型をしたおっさん」
俺の挑発にこめかみをピクピクさせて……怒りからだろう、体を震わしている。
やはり見た目通り、単純みたいだな。
さて、せっかくだから【腕力強化・大】の効果の程、確かめさせて貰おうか。
「……てめえ、死にたいらしいな?」
「おっさんこそ、死にたいんじゃねーか?」
安っぽい挑発が余程、気に障ったのだろう。
片手剣を手に持ち、真っ赤な顔をして斬りかかってきた。
……ふん、偉そうな事を言ってた割には、大した腕じゃないな。
隙がありすぎて、欠伸が出そうだぜ。
最小限の動きで、剣をかわし【腕力強化・大】を使用し、そのまま腹を殴りつけてやる。
激しい打撃音と共に小太りの冒険者はまるでボールのように壁まで吹き飛んでいった。
「口だけだったな、おっさん!」
パンパンと体に掛かった埃を払いのけながら、ぴくりとも動かないおっさんに声を掛ける。
「おい、あんたらそのおっさんの仲間だろ?さっさと治療師に見せた方がいいんじゃないか?
手加減はしたが、放っておいたら死ぬかもしれんぞ」
太ったおっさんの仲間にそう声を掛けると、仲間達は慌てておっさんを担いでギルドを飛び出していった。
……まあ、死にはしないだろうよ。
おっさんの仲間達が全員いなくなったのを確認し、再びギルド登録の続きを受付嬢にお願いする。
「不快なゴミ掃除も終わった事だし、続きを頼めるか?」
「……はっ!?あ、はい!では登録作業をしてきますので、このままお待ち下さいっ!」
受付嬢は先程代筆してもらった用紙も抱えて、奥の部屋へと走っていく。
「……あ、あのぉ……」
ん?今の荒事を見た後で、声を掛けてくる奴がいるとはな。一体どこの勇者様だ?
そんな事を考えながら、声が掛かった方に顔を向けると……さっき太ったおっさんに絡まれていた女性二人組だった。
「……ん?ああ、あんたらか、あんな奴らに絡まれるなんざ災難だったな。
見た所、大丈夫そうではあるが……どうだ怪我とかしてないか?」
こうして落ち着いて見てみると、なるほど。……二人ともいい女だな。
あのおっさんの肩を持つ訳じゃないが、確かに声を掛けたくなってもおかしくないな。
「「あ、ありがとうございましたっ!!!」」
「ん?ああ、大した事はしちゃいない、頭をあげてくれ」
二人組の女性冒険者とそんなやり取りをしていると、受付嬢さんが手に何かカードのような物を持って戻ってきた。
恐らくあれが噂のギルドカードって奴なんだろう。
この国だけでは無く、他国でも使用する事が出来る最上級の身分証明書、それがギルドカードだ。
しかも、金もこのカードがあれば、ギルドが預かってくれるらしい。
物騒な世の中だ、現金を持ち歩くのはやはり危険だからな。
こういったサービスが受けれるというのは、非常にありがたい。
余談だが、親父は迷宮の奥地で死んだから、装備品や所持金なんかは全部無くなっちまった。
恐らく、今頃は他の誰かが拾って自分の物にしてしまっているだろう。
このギルドカードのような物があれば、装備はともかく金だけは俺の手元に来たんだろうがな。
「お待たせしました……ってあら?先程の……えっとガーネットさんとユキノさんでしたか。ご無事で何よりでしたね」
「あ、ええ。この方が助けてくださったのでお礼をと……」
「ああ、そうなんですね!……けど、もう少しだけ待ってて貰ってもいいですか?
この方、ファーレンさんの登録だけ済ませたいですから」
ほう、ガーネットにユキノって言うのか。
受付嬢さんとのやり取りを見る限り、彼女達も新人冒険者って所か。
そういや、さっきのおっさんが彼女達がパーティを探してるとか何とか言ってたな。
「あぁ、大変失礼しました!!!!」
受付嬢さんが、愛想よくそう言うとガーネットと呼ばれていた女性が慌てて頭を下げて、後ろに下がっていく。
「お待たせしました!後ろで素敵な女性が待ってますからね。急いで説明しますね!」
「……ああ、頼むよ」
なんか、この受付嬢さん……この状況を楽しんでるな?
そして、受付嬢さんの宣言通り、ギルドの説明とギルドカードの説明はあっと言う間に完了した。
説明が終わったときの、彼女のやりきった表情を見ると、どうにもイライラするが仕事はきっちりとこなしているのは間違いないので文句の一つも言えない。
苦笑しながら、受付嬢さんにお礼を述べて、彼女の思惑に乗せられたと感じながらも、俺を待っていた二人の女冒険者に声を掛ける。
「待たせてしまったな、すまない」
「い、いえ……、そんなこちらが勝手に待ってただけなので!」
ふむ、さっきの礼だけならば、既に先程受け取っている。
それなのに、わざわざ待っていたと言う事は、俺に何か用事があると言う事か?
まあ、何となく想像はつくが……一応聞いてみるか。
「んで、俺に何か用事があったのかな?」
「は、はい!」
「なるほど、……では用事とやらを聞こうか?」
俺がそう言うと、彼女は大きく息を吸い込んで予想通りの言葉を俺に掛けてきたのだ。
「わ、私達とパーティを組んでください!!!!」
お読み頂きありがとうございました。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
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