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ロンリー・ウルフ(※20170117改稿)

 

 ***

 

 プライマリー・スクールに通っていた頃、ウルフ・ピジョンの仇名はロンリー・ウルフだった。厭世的な皮肉屋の少年は、プライマリー・スクールのシステムを、不自由で、窮屈で、退屈、心が倦むものだと考えていたのだった。


 この閉塞感は、たとえるなら、小瓶にぎゅうぎゅうに詰め込まれたキャンディになった気分、と言ったところか。子供たちかは右の通り左の通りにお仕着せのパラフィン紙に包まれて、透き通る閉鎖空間に犇めく事を強要される。

 ただし、どれだけ密集していようとも、角が立つウルフの周りには隙間が生じていた。


 ウルフは正規品の中に紛れこんだ不良品なのだ。だから、子供たちの王国の礎石にすら組み込まれなかった。子供たちの間で、ウルフはまるでゴーストみたいだと噂されていた。井戸の底のように暗い顰め面をしてむっつりと黙りこむ少年は、子供たちが共有する、陰険なゴーストのイメージにぴったり当てはまったらしい。にこやかに愛想を振り撒くのも、楽しいお喋りも大の苦手、というウルフを陰気だと言う子供たちは、間違ってはいなかった。


 頬杖をついて、窓の外に広がる空を眺めるウルフを指差して、子供たちは、ひそひそと噂話に花を咲かせた。注目される煩わしさにうんざりしたウルフだったけれど、注目の的になったのは束の間のこと、子供たちはすぐに退屈なゴーストの噂に飽きた。やりたいことが山ほどあるこどもたちにとって、時間は慢性的に足りないのだ。退屈なゴーストのことなんて、あっという間に忘れてしまえる。


 ウルフは暇とエネルギーを持て余すこどもたちのことを、別世界の奇妙な生き物のように感じた。スポーツの勝ち試合で興奮して仲間ともみくちゃになったり、取っ組み合いの喧嘩をしたり、失恋して涙の河に沈んだり、冗談を言って笑い転げたりすることに、ウルフは夢中になれなかった。なりたいとも思わなかった。喜怒哀楽を全力で表現するこどもたちを、甘やかされて育ったお気楽な連中だと決めつけて、そば目にかいていた。


 ウルフは孤立を回避する努力をしなかった。だからと言って、孤独を望んだ訳ではない。ウルフの飲み物に睡眠導入剤がわりのウイスキーを混ぜ、ウルフの意識が混濁するや否や男を連れ込むシッターがお払い箱になって清々していたが、誰もいない家でひとりぼっちで過ごすことに虚しさを覚えていた。駆け足で下校する子供たちを尻目に、だらだらと学校に居残り時間を潰し、最終のバスで帰宅する毎日だった。


 ウルフの父親のジャックは、世間一般の父親と比べると、我が子への関心が希薄な様子だった。だが、多くの親がそうであるように、我が子の心を見透かす特別な能力を備えていた。


 ジャックはセントラル・アベニューにオリジナル・ブランドのジュエリー・ショップを構える成功者であり、成功した分だけ仕事に時間を費やしていた。ジャックは自分のスケープゴートとして息子にサモエドの仔犬を買い与えた。ウルフの八歳の誕生日プレゼントだった。


「うまくやって、手懐けるんだ。お前が良い主人になれば、犬がお前を守ってくれるからな」


 ジャックは綿の花のようにふかふかで丸い、小さな仔犬を息子に抱えさせ、慌ただしく仕事に戻った。ぽかんと呆けるウルフの腕の中で、仔犬は独特のサモエド・スマイルを浮べ、主人となった少年を見上げていた。

 ジャックはサモエドの仔犬の世話をウルフに一任した。ウルフは仔犬に名前をつけ、餌を与え、躾を施し、散歩に連れて行かなければならなかった。


 ウルフはこのプレゼントにショックを受けた。父が自分の相手をペットに押し付けたのだと考えたのだ。ウルフの心が軋んでいた。

 ウルフは仔犬をジャックと呼んで、父への腹いせに、一週間、ほったらかしにした。父はわかってくれないから。せめて犬のジャックに思い知らせてやろうとしたのだ。 


 ところがこの仔犬のジャックは、不思議とウルフに馴染んだ。おとなしく、浮ついたところがない。生まれてそんなにたたないのに、年輪を重ねた老犬のように落ちついている。少年のように好奇心旺盛でお喋りなジャックとは対照的だった。


 ウルフは仔犬をジャックと呼ぶことがナンセンスだと考えた。悩みに悩んで、ウィルと名付けた。ありふれた名前だけれど、良い名前だとウルフは思った。


 ウルフは何気なく、子犬の名付け親のなった。知らず知らずのうちに、特別な絆を結んでいた。


 かん高くきんきんと、ハウリングのように耳障りな声で喚き散らすこどもたちを相手にするより、この寡黙で利口な仔犬と過ごす方が、有意義な時間の使い方だと気付くまでに時間はかからなかった。


 ウルフは寄り道せず真っ直ぐに、帰宅するようになった。家では、ウィルが彼の帰宅を待ちわびているからだ。 


 ウィルの存在は、ウルフの心にぽっかりとあいた穴を埋めてくれた。仔犬には時間がたっぷりとある。つまらないこどものつまらない話しに我慢する忍耐と、暖かい体温を持ち合せた、優しい犬である。ジャックでさえ、妙に慣れた手つきで、ウィルの素晴らしい毛皮の触り心地を、わしゃわしゃと撫で回して、堪能するくらい、ウィルを気に入っているのだ。


 こどもたちが胸を弾ませるサマー・バケーションのシーズンが到来したとき、ウルフもまた浮き足立った。ウルフはジャックと、六月いっぱい、ルイジアナ州にあるバイユーの田舎町に住む祖母の家に滞在する予定だった。勿論、ウィルも一緒だ。


 ところが、どたんばになってジャックが一緒に行けないと言いだした。またか、とウルフは肩を落とした。ジャックは何かと理由をつけて、故郷を避けている。


 楽しみに水をさされたものの、だからと言ってウルフは、駄々をこねたり拗ねたり出来るような、素直で可愛げのあるこどもではなかった。可愛いげよりも、必要なのは諦めの良さだ。ウルフは他の子供たちとは違って、鬱陶しい真似をする子供ではいられない。


 ジャックが運転する黒いセダンの後部座席にウィルと隣合わせで乗り込んで、ウルフは出立した。ジャックがハンドルをとったのは仕事の都合で、刷毛ついでに息子を祖母のところに押し付ける胸算用だ。


 ジャックは休憩もとらず車を走らせ、ドライブの時間のべつまくなし、ペラペラと喋り倒した。親子水入らずの時間に、ジャックは好きな話を好きなように好きなだけする。この機会に息子の近況を聞き出そう、なんていかにも父親らしい発想に至らないのがジャックらしい。


 ウルフとウィルは、祖母宅の最寄りのバス停でおろされた。ジャックは、息子を実家に送り届ける手間は愚か、ギアをパーキングに入れる手間すら惜しんでいた。


「着いたぞ。さぁ、さっさと、行った行った。急げ、雨に降られないうちにな。サマーバケーションに風邪をひいて寝込むなんて馬鹿げてるぜ」


 ウルフはジャックに急かされて、ウィルを抱えて転がるように降車する。ドアを締めると同時に、ジャックはアクセル・ペダルを踏んで発進した。そのまま挨拶もなしに走り去るのだと思われたが、セダンは忘れ物を思い出したように急停車する。


 パワーウインドウが開く。続いて、端正な顔がウルフを振り返った。


 洒落っ気たっぷりにセットしたアキレスのような金髪を饐えた臭いの風に嬲られ、ジャックはすっと通る高い鼻梁の先に皺を寄せた。バイユーの湿気たっぷりの陰気さを嫌っているのかもしれない。きりとした精悍な眉根を寄せて、少年のように笑った。


「ばあさんには上手く言っといてくれ。いつも約束通りにいかなくて、すまないと思ってる。今月の中旬にはこっちに来るから、そのときに埋め合わせするよ」


 珊瑚礁の海に通じるような碧眼は、落っこちてきそうな曇天の下にいても、灼熱の太陽に漣を煌めかせるようにきらきら輝く。


 多くの人間がこの瞳の輝きに眩んで、妥協や譲歩をしてきただろう。ジャックは道を譲られることに慣れきっていて、己の愛嬌が神様からの特別な贈り物だと言う事を知らない。だから、拍子抜けするほど悪気がないのだ。ウルフは錆び付いたブリキ製のねじまき人形のように肯いた。ジャックは満足気に頷くと、ウルフの足元で行儀よく控えるウィルに視線を向けた。


「ウィル、ウルフを頼んだぞ。ウルフ、森には入るなよ。化け物に脳みそを引っこ抜かれるからな」

 

ウルフは思いっきり顔をしかめた。


「またそれ? 信じないよ」


 物心つくより前から、祖母の家に預けられる度に、ジャックはこの決まり文句でウルフを脅していた。脳みそを引っこ抜かれる、という、グロテスクな表現が幼いウルフにはとても怖くて、森に近寄ることはおろか、祖母の家から出ることさえ、恐ろしくて堪らなかった。今では、そんなことはないけれど、泣き叫んで祖母の手を焼かせたという、不名誉な過去は消し去れない。


 ジャックは言うだけ言って、ウルフの抗議なんて聞く耳持たず、泥を跳ね散らかして去って行った。

 ウルフは肩ベルトが肩からずりさがったダークグリーンのバックパックを背負い直した。隣に凝然と佇むウィルを見下ろす。


「なんだよ、あれ。バカみたい。なぁ、ウィルも、そう思うだろ?」


 ウルフが乗ったソリをひいて雪原を走る事が出来そうな程に成長したウィルのサモエド・スマイルは、仔犬の頃から変わらない。


 ウルフは腰を屈め、丘陵を縁取るなだらかな曲線のような、頭から背にかけてのカーブを撫でた。


「今月の中旬にはこっちに来るんだってさ。第三日曜日には、きっと間に合うよな」


 ウィルの丸い目がウルフをじっと見上げている。ウルフはダークグリーンのバックパックを今一度背負い直した。図書館で借りた本の、見返しの頁に挟んだカードを思い浮べる。小指の先程の大きさの、陶器でできた白い薔薇が飾られたカードだ。

 ウィルは濡れた鼻をひくひくさせている。ウルフはウィルの鼻面を軽く掻いて言った。


「たかがカード、されどカードだ。結構、値が張ったんだぜ。無駄にしたくないよ」


 ウルフはウィルの首輪に括られたリードを手に一巻きして、腰を上げた。バス停の標識は、赤く錆び付いていて、きつつきに抉られた枯れ木みたいにいたましい。


 草木にずっしりと重く圧し掛かる霧の中を、ウルフは慎重に進んだ。毎度のことだから、目隠しをされても祖母の家まで辿りつけるだろう。 


 ウルフは赤頭巾のような寄り道をすることなく、言いつけどおりまっすぐに祖母の家へと向かった。ここの大人たちは、分厚い霧のヴェールが太陽を隠す日に、こどもが鬱蒼とした暗緑の森に近寄ることを許さない。


 森の奥で蠢くなにかが乳白色のヴェールに不吉な影を落としている。森に潜む魔犬がけいけいと眼を光らせて、こちらを見張っている気がする。霧深い森は、黒い仔山羊の森と呼ばれ、人々に恐れられている。迷信家いわく、黒い仔山羊の森は、そのものが冒涜的な怪異であり、その深みでは魔犬を従えた悪魔と魔女が夜な夜なサバトを開き、夥しい生け贄の血を流しているのだとか。


 そんな迷信を信じている訳ではないけれど、ウルフはなるべく森の方を見ない様に注意して、足早に歩いた。


 二キロと少し歩いて、ウルフは祖母の家に辿りついた。アプローチの芝生は剥げて地面が剥き出しになり、まずい珈琲の色をした水たまりが不潔な染みのように点在している。それらをひょいと跨ぐと、賢いウィルもジャンプして水溜まりを避けた。

 水溜まりを避けても、ぬかるんだ地面にオレンジ色のスニーカーがぐにゃりと沈みこむ。作文コンクールの賞品として手に入れた履き心地満点のスニーカーだ。ウルフは物に執着しない性質だが、こればかりは惜しい事をしたと、己の迂闊さに舌を打った。


 罅割れた化粧漆喰の壁を去年の花が叩いている。ウルフの手も同じ様に、網戸の木枠をとんとんと叩いた。ベルはウルフが物心つく頃には壊れて鳴らなくなっていた。


 この干乾びたくるみのような家に、祖母のレイチェルは独りで暮らしている。傷のように深く皺を刻んだ土気色の顔もまた、干乾びたくるみに似ていた。脳天にソーのハンマーを落とされ縦に潰れてしまったかのような体型をしていて、背丈が低いのに恰幅がいい。


 ウルフはおしめがとれるまで、くるみの家でレイチェルに育てられた。その後も、ジャックの都合でたびたび世話になって来た。ウルフが成長するにつれて厄介になる頻度は減っているものの、孫の来訪はレイチェルにとって特別なイベントではない。儘ある事だ。はりきるようなことではなく、寧ろ大儀に思うのだろう。街に出て一緒に暮らそうとジャックが誘った時にすげなく断る紋切型の文句として


「四六時中、生意気坊主の面倒を見させられるなんて、御免だよ」


 なんて憎まれ口を叩くくらいだ。


 年頃の女性が寝起きから身支度を済ませるくらいの時間を置いて、レイチェルがやっと網戸を開けた。 


 拗ねたようなくすべ顔をしてむっすりと黙りこくっているレイチェルと、五秒くらい見つめ合った。レイチェルは挨拶をするでもなく、挨拶の催促をするでもなく、眉を潜めた。錆びた色の碧眼はウルフの足元に控えるウィルを凝視している。


「その毛むくじゃらは?」


 レイチェルは北風が法螺貝を吹き鳴らすような声で言った。ウルフは、尾をゆるやかに垂らし見上げてくる鷹揚なサモエドの頭に手を置いて答えた。


「ウィル。父さんが誕生日プレゼントにくれた」

「あの子が、犬を飼うってのかい? お前にねだられて」

「父さんが決めたんだ」


 レイチェルは胡乱気に目を眇めた。呆れた嘘つきだ、とウルフを責めている。


「あの子が好き好んで犬の面倒を見ようなんて考えるはずが無いね。あの子がお前くらいの年の頃、グルーにねだって仔犬を飼うことになったんだ。だけど、あの子はすぐに飽きちまったんだよ。黒い仔山羊の森の悪魔にとられたって、泣いて帰って来てね。どうせ、世話をするのが嫌になって、森に置き去りにしたに決まってる」


 ウルフは瞠目した。ジャックが犬を飼っていたなんて、初耳だ。もしも、本当に飼い犬を森に捨てたとしたら、ウルフはジャックを軽蔑せずにはいられない。悪魔にとられた、なんて、子どもの浅知恵にしても、最低な言い訳だ。


 だけど、本当のことはわからない。わからないのに、ジャックが悪いと決めつけるレイチェルに、ウルフは反感をもつ。


「父さんは一切世話をしてない。僕がひとりで面倒をみてる」


 ウルフは落ちついて説明したつもりだったけど、言葉尻に反抗的な響きが滲んでしまう。レイチェルが小さな目を疑い深く細くした。


「犬はオオカミと同じだ。悪魔の化身と同じで、後ろを振り返れない。呪われた生き物だ。黒い仔山羊の森の魔犬には及ばないとしても……悪魔の子をうちにあげろと、お前は言うのかい」


 迷信家のレイチェルは大面目で言っている。ウルフはうんざりしてきた。レイチェルはウィルが無駄吠えしない、控えめで利口な犬であっても、家に入れることに賛成しない。スピリチュアルな理由で毛嫌いしているからだ。犬や狼の遠吠えは、黒い仔山羊の森に住まう悪魔が使役する魔犬を呼び寄せる、とかなんとか言って。ジャックの仔犬が居なくなって、一番喜んでいたのは、このレイチェルでないだろうか、とウルフは勘ぐらずにはいられない。


 ウィルのざらついた舌で掌を舐められながら、ウルフは胸から下げたチェーンを空手で弄んだ。クリッカーをさげたチェーンだ。手すさびを怪訝そうに眺めるレイチェルを、ウルフは控えめに見返した。


「ウィルを外に放り出しておくなんて、言わないよね。ウィルを魔犬と勘違した悪魔に、連れて行かれたら大変だ。ウィルを、父さんの仔犬みたいにしたくないよ」


 この土地には、日が沈むと深淵より這い上って来る悪魔や魔物の伝承が根強く語り継がれている。閉鎖的な田舎にはありふれた話しだ。

 たまたま、ここは危険な湿地帯であり、森に迷い込んだ幼いこどもが霧に紛れて失踪する事件が後を絶たなかった。人々はそのふかかいな事件に不安を煽られ、納得できる理由をこじつけたのだ。悪魔に遣われた魔犬が、化け物の生け贄にする為に攫って行くのだなどと、荒唐無稽なおとぎ話をこねあげて。


 ウルフは怯えたふりをしてみせたが、悪魔の存在などはなから信じていなかった。あの暗い森にいる不気味な影は獣の類だ。ウルフは折に触れて、古色蒼然とした伝承を鼻先で笑い飛ばしていた。悪魔は人の心の中にしか存在しない。イエティやチュパカブラなどのUMAの方が、まだ現実に存在しそうだ。


 ジャックだって、悪魔の存在を信じてはいない。だから悪魔の伝承ではなく、彼自身がでっちあげた作り話でウルフを怖がらせるのだ。


「森の奥には、気に入ったこどもを捕まえて、脳みそを引っこ抜いてしまう、エイリアンがいる」

 

 なんて信じてもいないのに嘯いて、ウルフを怖がらせて楽しんでいたのだろう。ジャックにはそういう、子供っぽいところがある。


 ウルフのような子供が黒い仔山羊の森へ近付くことを禁止される本当の理由は、霧と野生動物の危険があるからなのだ。 


 だからと言って、ばかばかしいと口に出さないのは、土着信仰を蔑にすると、どれだけ地元民の心が毛羽立つかをレイチェルから学んだからだ。レイチェルと同じように悪魔の影に怯えているふりをした。

 レイチェルは眉をしかめる。大きく鼻息を吐いて、頭をふった。


「お前が赤ん坊だった頃、ジャックはきっと子供部屋の窓を閉め忘れたんだね。おとなをばかにする、忌々しい(ウルフ)め。お前は取り換え子にちがいない」


 小賢しい孫を突き飛ばすように一瞥して、レイチェルは踵を返した。レイチェルは、一人息子の嫁が孫にウルフと名付け、息子が賛同したことを、未だに許していない。出来る限り、ウルフを名前で呼ばないようにしているし、やむを得ずに呼ぶときも、不快感を隠さない。


 こんなやりとりは日常茶飯事だから、ウルフが反感を持つことはない。今更だ。


 ウルフは飽きることなく見上げて来るウィルのつぶらな瞳にウインクした。リードを引いて家の中にはいり、すかさず掛け金をかけた。 

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