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緋色の島  作者: 都月 敬
1日目
8/46

招待

「完璧な策が破られたのは、なぜだと思う?」

修人

「『朝の HR で』というアドバイスによって、『じゃあ帰りの HR でもいいじゃん』と想起させてしまったためだろうな。ついでに言えば、その際に『帰りはオレが言うからダメだ』とかバラしたバカがいたせいでもある」

「なるほど。すべては運命による必然、というわけか」


いや、すべてはお前がバカだからだよ。

ともあれ、目論見通りにバカは失敗し、帰りの HR 後の教壇では、ゆかり先生が女子生徒に囲まれている。

お望み通り、明日はみんなで仲良く、ごはん少なめのお弁当を囲むのだろう。

幸せそうで何よりだが、放課後まで保つのかが心配だ。

そんな微笑ましい光景を、オレは教室の遥か後ろの方から、バカとともに眺めている。


修人

「帰ろう」


すごく、時間を無駄にしている気分になった。


「ダメだ」


即座に引き止めるバカ。


修人

「なんだよ」


わかってる。こいつから身のある話は出ない。そう知りつつも聞き返す。我ながら難儀な性格だ。


「転校初日という日はもう帰ってこないんだぞ。こんなに早く終わらせてどうする」

修人

「転校二日目という日が来るだけだろ。そうして日常に埋没していくんだ」

「馬鹿野郎、そんな無気力なことでどうする。今日がお前の特異点だろ」

修人

「特異点って言葉使いたいだけだろ。厨二にもなれてないわ」

「気づいてないなら、オレが気づかせてやる。この島のスポット、いや特異点を案内してやろう」

修人

「だから特異点を安売りするなってば。単なる観光案内だろうが」


納得する間も与えられず、無理やり教室を引きずり出される。

ゆかり先生と目が合った。優し気な微笑みが送られてくる。

違います。これは貴女の思う正しい友情ではありません。


玄関では工藤さんとすれ違った。見向きもされなかったけれど。

考えてみれば、今日の収穫は、この二人と会話する程度に知り合えたことくらいか。

そう思えば、もう少し転校初日を過ごしてみてもいい気がしてきた。

特異点、ってのはよくわかんないけど。



——下って、登って、30 分。


「どうだ! まさに島を一望って感じだろう!」


デジャヴではない。それはこの悲鳴をあげる両足が教えてくれる。


「ほぅら、来てよかっただろう。なぁ、修人」


要の思考、行動が読みやすい理由がよくわかった。

似てるのだ、うちのバカに。


「こう、山を登れば、海も拝めるというのが、島のいいところでな————」

修人

「わかった。わかったから、一回黙れ、この野郎」


バカを黙らせ、場所も構わず足を投げ出し、座り込む。

30 分の山歩きもさることながら、早いのだ、バカのペースは。どっちとも。

とりあえず息を整える間にも、島渡る海風が吹き抜けていく。

悔しいけれど、何度来ても、ここは気持ちがいい。


修人

「よく来るのか、ここは」

「よくは来ないだろ、こんなとこ」


吐き捨てるような言い草に軽く殺意も芽生えるが、せっかく連れてきてくれたのだと押しとどめる。

それに気づく風もなく、立ったままの要が眼下に見える一角を指さした。


「あれが港だ」

修人

「知ってる」

「フェリーが着くのが東側、灯台がある方。西の方が漁港になってる」

修人

「それも知ってる。要ん家もその辺なんだろ」


見える景色をいちいち指さしながら、要が島を説明していく。


「港は島の北東にあたる。そこから南へ、扇形に住宅地が広がってる」

修人

「半分以上、畑に見えるけどな」

「だいたいの家は自分で食う程度の畑はやってるからな」

修人

「家庭菜園のレベルじゃないぞ」


オレは茶々を入れつつ聞いている。


「あの辺から畑が田んぼに変わる。少しだけだけどな。そして山だ」

修人

「やっぱり学校は山の中なんだな」

「ここを除けば、一番高い辺りだよ。そこから南へ下ると、だいたいみかん畑になる」

修人

「日当たりがいいからかな。じゃあ、あの辺りにちらほらあるのは、みかん農家の家か」


漁業とみかんの島。

連れられたり、迷ったり、ついていったり。

よくわからず歩いていた島が、頭の中で徐々に形を成していく。


修人

「じゃあ、あの辺りはなんなんだ?」


オレが指したのは、ここから真っ直ぐ先。島全体で言えば、北西にあたるのだろうか。

漁港のさらに西。湾状になった海岸が海面から徐々に高くなり、断崖のように切り立っている。

海へ突き出した岬の突端に、何か建物のようなものも見える気がするが。


「あ〜、あっちは何もない」

修人

「何も?」

「何も。道はないし、船もつけられないし、行ったところで、岩ばっかで意味ないし」

修人

「なるほど」


狭い島だとはいえ、覆い尽くすほど人がいるわけもない。何もない区域があっても当然か。

一通り説明したところで、要がオレの方へ振り返り、両手を広げた。


「そんなとこで、これがオレたちの島だ」


オレたちの島。

オレも、この島で生きていく。

そういう思いが、ようやくはっきりとした気がした。


「ようこそ、近見 (ちかみ) 島へ」


差し出された手を、わざと乱暴に握る。


修人

「おう。参考になった。サンキュ」

「これで、ゆかり先生と間接握手だな」

修人

「バ〜カ」


握った手を強く引いて、立ち上がる。

あっちのバカも、このために連れてきたんだろうか。

そう思うと、なんだか余計にムカついた。


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