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緋色の島  作者: 都月 敬
1日目
7/46

暗躍

五時限目は音楽。音楽室に移動して、クラシックの名曲に耳を傾けるらしい。当然、CD だ。

要曰く『究極の午睡』。いくら教えられる教師がいないからって、さすがに手抜きすぎだろう。


「そういや修人、昼休み、どこにいたん?」


廊下をだらだら歩きながら、隣に並んできた要が訊ねてくる。


修人

「中庭で弁当食ってた」

「なんだよ〜、誘えよ〜。友だちだろ〜」

修人

「そうだっけ?」

「ゆかり先生もいなかったから、主役不在だったんだぞ。つなぐのに苦労したわ〜」

修人

「頼んでないわ。どうせ、誰もかまってくれなかっただろ」


なぜか、知り合って半日なのに、一連の光景が目に浮かぶ。


「あ、じゃあ、ゆかり先生は見なかった?」

修人

「は?」


見ましたが。どころか、一緒にランチしてましたが。

もちろん、そう答える勇気も義理もオレにはない。


「女子が昼飯に誘うって職員室まで行ったんだけど、いなかったってさ。どこ行ってたんだろな」

修人

「出遅れて見失ったわけか。朝のうちに約束しておけばよかったのに」


そうすれば、ゆかり先生が苦悩することもなかったわけだし。

そんな何気なさを装ったごまかしに、なぜか感心する要。


「なるほどな。その手があったが。よし、明日こそはオレがゲットするぜ!」

修人

「……お前が?」

「おうっ! だから明日は三人で昼飯だな。いや、先生がどうしてもというなら、二人きりになるから、その時はお前はまた中庭でもどこでも行ってくれ。オレたちのいないどこかへ」


キラリと光る視線を夢見る明日へと向ける要。これがこいつのキメ顔か。キモいな。

さておき、さっきのゆかり先生を思い出す限り、明日も男子と昼ごはんとなれば、哀れを通り越して非常にめんどくさいことになりかねない。間違ってもコイツの企みを成就させるわけにはいかないな。

テンパりきっていた新米教師へ、わずかなりともアシストを目論んでみる。


修人

「要。作戦を成功させるためには女子たちの裏をかけるように根回しをしておいた方がいいぞ。明日は朝の HR で約束を取り付けるようにアドバイスをしつつ、お前は帰りの HR で声をかけろ」

「なるほど! そうすれば先を越されることはないってわけだな。お前、天才。よし、それで行こう! お〜い、立花〜!」


前方を歩く女子へ向けて、階段を駆け下りていく要。やっぱりバカだ。果てしなく。

まぁ、こんな小細工する必要もないとは思うが、ゆかり先生が無事に女子と仲良くなるためだしな。


「隠す、ということは、後ろめたいことがある、ということ?」

修人

「うわ、びっくりした」


唐突に、右後方。しかもオレにだけ聞こえるくらいの小さな声。心霊現象か。

しかし当の工藤さんは相変わらずの無表情で。


「驚きすぎ」

修人

「背後からいきなりで何を言う。しかも本日最初の会話がそれか」

「おはよう」

修人

「もう昼だって」

「『こんにちわ』って、なんとなく嫌いなんだよね」


なぜか不機嫌そうに目線をそらす工藤さん。


修人

「知らんわ。で、なんのことでしょうか?」


わかりきってはいるが、一応話を戻してみる。


「お昼休み、中庭で一緒に食事してたでしょ」


誰と、を伏せられると、本当に後ろめたいような気がしてくる。

とはいえ、こちらも合わせざるをえず。


修人

「してたけどね、別に後ろ暗いことは何もありませんよ?」

「ふ〜ん」


ここで本気で興味のないリアクションをされるのも悲しいのだが。


修人

「ところで、なぜにご存知で?」

「窓から見ただけ。本当に中庭で食事するのか確認しようと思って」

修人

「あ、昨日言ったっけ。で、ちなみに、その際、他に人は?」

「いなかった。徳永先生の居場所は話題になってたけど、あそこはうちのクラスからは見えにくい場所だったし、誰も気づかなかったと思う」


樹を見上げようとけっこう奥の方まで行っていたから、わざわざ確認した工藤さん以外には見えなかった、というわけか。


「入念ね」

修人

「偶然です。やましくないです」

「まだ初日なのに。さすが」

修人

「県庁所在地は関係ないぞ」

「言ってない」


と、ここで音楽室へ到着。

工藤さんは今までの会話もなかったような顔で、一番奥の席へ座る。

しっかり英語の教科書を持ってるあたり、準備万端だ。

次からは見習おう、と思いつつ、オレも適当な席に着く。

見習っても無駄なのだと気づいたのは、授業終了のチャイムに目を覚ました後だった。


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