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緋色の島  作者: 都月 敬
8日目
30/46

紛失

土日になにがあろうとも、月曜は変わらずやってくるもので。


修人

「……だりぃ」


心身ともに疲弊しきったオレからすれば、遅れずに登校しているだけで表彰してくれてもいいと思う。

まぁ、ゆかり先生の様子も気になるし、工藤さんにもひなの話をしなければならないし。


修人

「ということで、今日も一日、がんばろ〜」


気の入らない気合を自らに入れたところで、正門についた。


修人

「あれ、工藤さん」


初めて、靴箱の前に立っている工藤さんを見かけた。

というのも、工藤さんが通学に使っているフェリーの時間では、学校に着くのはずいぶんと早くなる。そのせいで、オレは通学中に工藤さんを見かけたことはない。残念ながら。

でもなんだろう、少し困っているような。


杉崎

「なんでだろうね〜。最近、よく物がなくなるよね〜」

高良

「ね。なんだろう、七不思議的なヤツかな」


少し離れた廊下で話をしているのは、クラスメイトの杉崎さんと高良さん、だったはず。

個人的には、七不思議的なヤツはしばらくご遠慮願いたいのだが。


杉崎

「どこかにはあると思うんだけどね〜」

高良

「そうそう、いつの間にか戻ってたりするよね」


それは、工藤さんを心配するような、でもどこか楽しんでいるような口調で。


杉崎

「ん〜、だから、あんまり気に病まないよう方がいいかもよ〜」

高良

「時間が解決してくれるよね。あ、そろそろ教室行かないと!」


二人は笑い合いながら、教室へ向かって行った。

前の学校でも聞いたことのある、ざらりと感じる笑い声で。


工藤さんはそんな声を聞くともなく。

二人がいなくなるまで、その場で靴箱の中を見つめ続けていた。


修人

「工藤さん」

「おはよう」


声をかけるなり、挨拶が返ってきた。どうやらオレがいたことには気づいていたらしい。


修人

「今の」

「気にしないで」


そう言って、片方だけの上履きを取り出す。


修人

「わかりやすっ」

「オリジナリティは、ないね」


そう毒を吐くと、工藤さんは来客用のスリッパを片方だけ持ってきて。

揃わない両足のまま、手近な女子トイレに向かう。


なんだろう。

ただのトイレなら、先に行った方がいいんだろうけど。

そう、悩んだのも束の間。

工藤さんは片手に上履きを持って出てきた。


修人

「うわ。」


手にした上履きはぐっしょりと濡れていて。


「洗ったの。勘違いしないで」

修人

「いや、してないけど」


いずれにしろ、今日一日は履けたものではないだろう。

しかし工藤さんは意に介した様子もなく、不揃いな足音をさせて教室へと向かう。

すぐにオレも後に続いて。


修人

「先生とかには?」

「大丈夫」


取りつく島もないのはいつもの工藤さんだけど。


修人

「じゃあ、反撃する?」

「やめて」


やっぱり、元気がないようなのは当然で。


「慣れてるから」


そう言って、濡れた上履きを片手に教室へと入っていった。

中からはすぐに『あ、あったんだ』、『よかったね〜』などという声が聞こえ。

またすぐに、いつもの朝の雑然とした空気に戻っていく。


修人

「————ったく、八人しかいないってのに」


恨みごとは廊下へ捨てて、オレも教室の中へと入っていった。

それでも、家を出たときよりも遥かに重くなった肚を抱えて。


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