紛失
土日になにがあろうとも、月曜は変わらずやってくるもので。
修人
「……だりぃ」
心身ともに疲弊しきったオレからすれば、遅れずに登校しているだけで表彰してくれてもいいと思う。
まぁ、ゆかり先生の様子も気になるし、工藤さんにもひなの話をしなければならないし。
修人
「ということで、今日も一日、がんばろ〜」
気の入らない気合を自らに入れたところで、正門についた。
修人
「あれ、工藤さん」
初めて、靴箱の前に立っている工藤さんを見かけた。
というのも、工藤さんが通学に使っているフェリーの時間では、学校に着くのはずいぶんと早くなる。そのせいで、オレは通学中に工藤さんを見かけたことはない。残念ながら。
でもなんだろう、少し困っているような。
杉崎
「なんでだろうね〜。最近、よく物がなくなるよね〜」
高良
「ね。なんだろう、七不思議的なヤツかな」
少し離れた廊下で話をしているのは、クラスメイトの杉崎さんと高良さん、だったはず。
個人的には、七不思議的なヤツはしばらくご遠慮願いたいのだが。
杉崎
「どこかにはあると思うんだけどね〜」
高良
「そうそう、いつの間にか戻ってたりするよね」
それは、工藤さんを心配するような、でもどこか楽しんでいるような口調で。
杉崎
「ん〜、だから、あんまり気に病まないよう方がいいかもよ〜」
高良
「時間が解決してくれるよね。あ、そろそろ教室行かないと!」
二人は笑い合いながら、教室へ向かって行った。
前の学校でも聞いたことのある、ざらりと感じる笑い声で。
工藤さんはそんな声を聞くともなく。
二人がいなくなるまで、その場で靴箱の中を見つめ続けていた。
修人
「工藤さん」
椎
「おはよう」
声をかけるなり、挨拶が返ってきた。どうやらオレがいたことには気づいていたらしい。
修人
「今の」
椎
「気にしないで」
そう言って、片方だけの上履きを取り出す。
修人
「わかりやすっ」
椎
「オリジナリティは、ないね」
そう毒を吐くと、工藤さんは来客用のスリッパを片方だけ持ってきて。
揃わない両足のまま、手近な女子トイレに向かう。
なんだろう。
ただのトイレなら、先に行った方がいいんだろうけど。
そう、悩んだのも束の間。
工藤さんは片手に上履きを持って出てきた。
修人
「うわ。」
手にした上履きはぐっしょりと濡れていて。
椎
「洗ったの。勘違いしないで」
修人
「いや、してないけど」
いずれにしろ、今日一日は履けたものではないだろう。
しかし工藤さんは意に介した様子もなく、不揃いな足音をさせて教室へと向かう。
すぐにオレも後に続いて。
修人
「先生とかには?」
椎
「大丈夫」
取りつく島もないのはいつもの工藤さんだけど。
修人
「じゃあ、反撃する?」
椎
「やめて」
やっぱり、元気がないようなのは当然で。
椎
「慣れてるから」
そう言って、濡れた上履きを片手に教室へと入っていった。
中からはすぐに『あ、あったんだ』、『よかったね〜』などという声が聞こえ。
またすぐに、いつもの朝の雑然とした空気に戻っていく。
修人
「————ったく、八人しかいないってのに」
恨みごとは廊下へ捨てて、オレも教室の中へと入っていった。
それでも、家を出たときよりも遥かに重くなった肚を抱えて。




