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緋色の島  作者: 都月 敬
6日目
24/46

仮説

次はオレの番だ。

オレはゆかり先生に、ひなのことを全部話した。

もちろんオレの知ってることだけだし、整理し切れていないこともたくさんあるけど。

それでも先生はしっかりと、真剣にオレの話を聞いてくれた。


修人

「七年間姿が変わってないっていう前提ではあるけど、似てるよね。おかっぱで、消える女の子」

ゆかり

「……う〜ん、外見は似てるけど、中身は似ても似つかないような」


聞き終わった先生が頭を抱える。

手がかりを求めていたのだろうけど、余計混乱しちゃった感じだ。


修人

「中身って、能力的なこと? オレはひながそんなことするのは見たことないけど、消えるのだって、昨日初めて見たくらいだし」

ゆかり

「ううん、能力じゃなくて、性格。修人くんの知ってるひなちゃんが、人を連れて行ったりするかな?」


そこを突かれてしまうと、オレにはなにも言えない。

ゆかり先生が見たおかっぱは、神隠しを起こして人を連れ去る妖怪。

だけど、オレにとってのひなは、普通の子ども、っていうか、妹みたいな存在だ。

ひなが七年前からあの姿、っていうのはもう信じられるけど、ひながそんな悪いことをした、っていうのは考えたくもない。————だけど。


修人

「でもそれって、そのおかっぱが、友だちを神隠しに遇わせた場合の話だよね?」

ゆかり

「そうだけど、そうじゃない可能性ってある?」


なにを今さら、という風のゆかり先生。

でもオレは、考えを反転させている。


修人

「確かに、その裂け目を作ったのは、おかっぱの仕業だと思う。でも先生の話では、友だちは無理やり裂け目に連れ込まれたわけじゃなくて、自分から入ってる」

ゆかり

「う。うん、まぁ、そう、かな?」


素直に認めたくないのか、ゆかり先生は口ごもりながらも、結局頷く。


修人

「もうその時点で意識はなかった可能性もあるけど、最後に先生の方を見たのなら、それも違うと思う。だったら、神隠し自体がその友だちの願いだった、ってことにならない?」

ゆかり

「そう、でしょうね。もうこの世界にはいたくなかったのかもしれない」


再び募る自責の念。

原因がゆかり先生だったのかは、オレにはわからないけれど。


修人

「神隠しを、その友だちの願い、って捉えたなら、ひなの仕業でもおかしくはないかも」


そう認めたオレの顔を、ゆかり先生が意外そうに見つめる。


ゆかり

「願いって。人がひとり、消えてるんだよ? 親だって友だちだっていたし、学校だって————」


それは、至極真っ当な考え方。でも、今の場合には通用しない。


修人

「彼がそういうのについてなにも望んでいなければ、きっと関係ない。ひなは彼の願いを叶える」

ゆかり

「その結果、なにが起ころうと?」

修人

「彼が、その結果についても、なにも望んでいなかったなら、ね」


後のことや周りのことは一切意に介さず、ただ自己の消失だけを強く願う。

そんなことが本当にできるとは、オレには思えないけれど。

でも彼は、そう願ってしまったんだろう。

たまたま、ひながそれを感じ取った。

そして、彼の願いは叶った。

ゆかり先生を残して。


ふぅ、と。

重いため息をついて。


ゆかり

「なるほど、ね」


神隠しが純粋に彼の願いによるもの、と認めることは、ゆかり先生には重い。

その原因、あるいは、きっかけ、は自分だと思っているから。

ゆかり先生が空を見上げる。

そして、どこにいるかわからないものへ。


ゆかり

「だったら、私の願いも叶えてくれないかなぁ」


それは本心。でも、きっと、本気の言葉ではなかっただろうから。


修人

「訊いてみるよ」


これは、ただの安請け合い。


ゆかり

「でも、見つからないんでしょ?」

修人

「見つからなかったね」


軽い口調のオレに呆れたように、ゆかり先生がくすりと微笑った。


修人

「見つかったら連絡する。連絡先教えて」

ゆかり

「見つかったら、ね」


半分も期待してない口調で、ゆかり先生がケータイを取り出す。

まだ確信はない。だから今はただの安請け合いにするしかない。

でも仮説は立った。


答えは、最初から目の前にあったのかもしれない。



ゆかり先生は、あの時の記憶を元に、彼が消えてしまった場所を探しているのだそうだ。

それが手がかりになるかはわからないけど、と言いながら。

それでも、もう少し探してみると言う先生と別れて、オレは自宅へ急ぐ。荷物が邪魔だった。


家に着いた頃には、もう陽が傾き始めていた。

珍しく家にいた父親に手にした瓶を押しつける。予想と違うサイズに、思わず顔がほころぶバカ父。

だが、ただ喜ばせる義理はない。


修人

「差額の代わりに、大至急、教えて欲しいことがある」


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