奉納
夕焼けの残滓も消えた薄暮の頃。
人気も見えない小道の向こう。小さな祠が見えてきた。が。
修人
「————え〜っと?」
約束した『ここ』まで戻ってきたが、少女は待っていなかった。
念のため、祠の裏から中まで、舐めるように見回して。
修人
「いねぇし」
まぁ、みかん探しにたっぷり時間を使ってしまったわけだし、こんな時間まで子どもがうろうろしているというのも、昨今の情勢を鑑みると大層アレなわけだが。それはわかっているのだが。
修人
「どうしろってんだよ、このみかん」
せっかくゆかり先生があんなに協力してくれて、ようやくゲットした貴重なみかんなのに。
時期外れなだけに、受け取り手がいないと、なんだか間抜けなものに見えてくる。
修人
「いっそ、食ってやろうか、オレが」
うまいかまずいかなんて、もうどうでもいい。
独り言をつぶやきまくってることも、もうどうでもいい。
ぶつけどころのないやるせなさを込めて、みかんを強く握りしめ。
修人
「——やめた」
せっかくあの子のために取ってきたみかんだからな。いないけど。
改めて、食べるのをやめたみかんの処遇に頭を悩ませようとしたところ。
茂みに隠れていた、先ほどは見かけなかったピンクのビニールボールが目に入った。
修人
「なんだよ。ちゃんと確保してたんじゃねぇか、ボール」
あの時に、ちゃんと渡せていたことに、少しだけホッとしたりして。
茂みから拾い上げて、祠の隣に寄り添うように置き直す。あの子がしゃがんでいた位置に。
そして、円い石蓋をお盆に見立てて、中央にみかんをそっと置いた。葉っぱもきれいに見えるように。
修人
「よし。」
こうしておけば、明日にはあの子が取りに来るかもしれない。ボールもあることだし。
修人
「ちゃんと美味しく食われろよ」
みかんに一つ、無茶を言って。
修人
「じゃあな」
誰にともなく別れを告げて、オレはそっとその場を離れた。
きっと意味のない、充実感を胸に。夕焼けの残滓も消えた薄暮の頃。
人気も見えない小道の向こう。小さな祠が見えてきた。が。
修人
「————え〜っと?」
約束した『ここ』まで戻ってきたが、少女は待っていなかった。
念のため、祠の裏から中まで、舐めるように見回して。
修人
「いねぇし」
まぁ、みかん探しにたっぷり時間を使ってしまったわけだし、こんな時間まで子どもがうろうろしているというのも、昨今の情勢を鑑みると大層アレなわけだが。それはわかっているのだが。
修人
「どうしろってんだよ、このみかん」
せっかくゆかり先生があんなに協力してくれて、ようやくゲットした貴重なみかんなのに。
時期外れなだけに、受け取り手がいないと、なんだか間抜けなものに見えてくる。
修人
「いっそ、食ってやろうか、オレが」
うまいかまずいかなんて、もうどうでもいい。
独り言をつぶやきまくってることも、もうどうでもいい。
ぶつけどころのないやるせなさを込めて、みかんを強く握りしめ。
修人
「——やめた」
せっかくあの子のために取ってきたみかんだからな。いないけど。
改めて、食べるのをやめたみかんの処遇に頭を悩ませようとしたところ。
茂みに隠れていた、先ほどは見かけなかったピンクのビニールボールが目に入った。
修人
「なんだよ。ちゃんと確保してたんじゃねぇか、ボール」
あの時に、ちゃんと渡せていたことに、少しだけホッとしたりして。
茂みから拾い上げて、祠の隣に寄り添うように置き直す。あの子がしゃがんでいた位置に。
そして、円い石蓋をお盆に見立てて、中央にみかんをそっと置いた。葉っぱもきれいに見えるように。
修人
「よし。」
こうしておけば、明日にはあの子が取りに来るかもしれない。ボールもあることだし。
修人
「ちゃんと美味しく食われろよ」
みかんに一つ、無茶を言って。
修人
「じゃあな」
誰にともなく別れを告げて、オレはそっとその場を離れた。
きっと意味のない、充実感を胸に。




