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緋色の島  作者: 都月 敬
0日目
1/46

迷走

省吾

「どぉだ〜、いいところだろう」


————ひぃ、ふぅ。はぁ、ふぅ。


省吾

「こういう緑はいいなぁ。公園のもいいが、やっぱり自然そのものには勝てん」


————はぁ、ふぅ、ひぃ。


省吾

「お、海が見えてきたぞぅ。どうだ、いっちょ走るか?」


うるせぇ、バカ親父。。。


怒鳴りつけるだけの元気もなく、それでも精一杯の恨みを込めて、前を行く背中を睨みつける。

目指す道のりはまだ半分。しかし慣れない土と石の坂道がさらに膝を笑わせる。

生まれてこのかた十七年、住み慣れた街を離れたのは、まだ昨日の話だ。

海を前に一泊し、朝から生涯初の船移動。さらに新居の整理、近所への挨拶回り、そしてこの山登り、と。

日ごろ運動らしい運動もしていない高校生が一日でこなすには、無理すぎる激務だった。


しかし日々の運動量では、オレに劣りこそすれ勝っているはずのないおっさんはなお意気揚々と、


省吾

「おお、海だ、海だ。こう、山を登りながら、海も拝めるというのが、島のいいところだな」


などとバカ笑いを浮かべながら、すいすいと坂を登っていく。

まだまだやんちゃな坊やならともかく、そろそろ四十になんなんとするれっきとしたホワイトカラーのはずなのに、自然の中に放り出した途端に溢れ出す、この謎のやる気と生命力はなんなのだろう。


省吾

「いやぁ、来てよかったなぁ。なぁ、修人」


溢れ出すどころか、枯れゆく一方のオレからは、返す言葉は何もない。

そもそもオレは一言たりともこんなところへ来たいと言った覚えはないし、思ったこともない。相談すらもされてはいない。

されたのは、ある日突然の移住宣言 (拒否権なし) だけ。


省吾

「おおぅ! まさに島を一望って感じだなぁ!」


結果、30 分も登れば全体が見渡せるような、この小さな小さな島へと拉致されることとなったとさ。

めでたくなし、めでたくなし。


省吾

「お、あれがお前の通う学校だな」


鉛玉でも引きずってるかのような運びがたき足を運びきり、指されるままに目をやると。

鬱蒼と茂る森の中、いかにも古めかしい石造りの、年代物の建物がのぞいていた。

完全に洋風な造作は由緒正しき教会のようで、尖った屋根に十字架がないのが不思議なほど。

ついここが日本であることを忘れてしまいそうな眺めではあるが。


修人

「——なんで、目的地を見下ろしてるんだ、オレたちは?」


そう。今の目的は、明日から通う高校への転入手続き兼ご挨拶。

そのためにえんやこらえんやこらと延々坂を登ってきたはずだろう。通り越してどうする。


省吾

「いや、ついでだから、島全体を見渡してみたいと思ってな」

修人

「ひとりでやれっ !!」


——下って、登って、また 30 分。

改めて、目指す高校に辿り着いた。


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