表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘違い勇者だった俺が、モンスターとなって復活して立身出世  作者: 夜の狼
第一章 犯した罪と背負った罰
9/30

計略と計算

 俺は、とりあえず相棒に選んだゴブリンと一緒に、コボルドから徴収した食べ物を持ち帰った。

「何だこれは?ずいぶんと少ないな」

 1日ぶりの食糧に、オークは文句を言った。

(やっぱりこいつも、満足という言葉を知らないのか)

 俺は心の中で軽蔑した。

「まあ、お前らも数が減ったから、その分食べ物が少なくて済むな」

 オークはそう言いながら、下卑た笑いを浮かべた。

(あのなあ、動く数が減ったらその分だけ集まる食糧も減るんだよ)

 やはり、こいつら下等なヒューマノイドは、目先の事しか考えられないらしい。ゴブリンも同じ様なもので、食糧の保存なんて事は考えないのだろう。

 取れるだけ取り、持てるだけ奪い、喰えるだけ食う。何て、非合理的な生活だ。しかし、今はそれを何とかしなければならない。

 コボルド達が駄目になれば、奪う対象が無くなってゴブリンも飢える。そしたら、オークはまたどこかに行ってしまうだろうけど、それでは遅すぎる。

 コボルド達から奪わずに、ゴブリンも生活出来る様にしなければならない。それにはまず、この厄介者のオークを何とかしないといけない訳だが、もちろん戦って勝てる相手でも無い。当然だが、話して解る相手でも無い。

 俺はとりあえず、ここらの食糧事情を調査する事にした。コボルドは今の所アテに出来無いし、ゴブリンは数が少なすぎて使えない、っと言うよりは動かせない。

 明日またコボルドの所へ徴収に行く前に、出来る限りの手は打っておこうと思った。まずは、これまで俺がコボルドにやらせていた、どんぐりと山芋の様子を見に行った。

 今の所だが、コボルドは蓄えに頼り切っていて食糧を探しに出るつもりはないらしく、採られた感じは無かった。

 しかし、こんな調子だと蓄えが無くなれば、すぐに乱獲を始めてしまうだろう。山芋はともかく、どんぐりは山の動物にも貴重な食糧になる。コボルドに独占させる訳には行かない。

 次に俺は、魚を獲る為の小川の様子を見に行った。こちらへも来ていないらしく、魚や水棲生物を集める為に沈めた沈礁ちんしょうは、触られた形跡が無かった。

(結局、全部駄目だ……)

 俺はその場を離れると、人間の集落がどうなっているか見に行った。ただし、今はまだ日が高い。俺は川を挟んだ対岸の山の中から、姿を見られない様に様子を探った。

 ただ、昼間のゴブリンはあまり目が良く見えない。元々が闇の存在であるゴブリンは、日光に弱いのだ(弱いと言っても、吸血鬼ヴァンパイアの様にダメージを受ける訳では無いが)。


 とりあえず目の前の川を見ると、川が石や木の板などでV字型に仕切られていて、V字の狭くなったその先端に、袋状の網が設置されていた。これで魚を獲っているのだ。しかも、獲りすぎない様に、仕切ってあるのは川の半分だけで、魚の逃げ道も用意してある。さすがに人間の作った仕掛けは見事なものだ。

 集落を見ると、畑を耕したり草刈りなどの農作業をしている人や、山から切り出した木を荷車で運んでいる人も居る。そして、鶏を外へ出したり豚に餌をやるなど、家畜の世話をしている人も居た。

 後は、所々でしゃがんで何かをしている人も居たが、昼に弱いゴブリンの目では解らなかった。

(とりあえず、危険は無さそうだな)

 そう判断すると、俺は山の中を再び見回った。他に食糧になりそうなものや、利用出来そうなものが無いか考える為である。

 ただし、必ず除外しなければならないものがある。それは「きのこ」だ。見るからに毒茸だと俺でも解るものもあれば、さっぱり見分けが付かないものも多い。

 野生動物の中には、本能で毒茸だけを食べないものも居るが、ほとんどは見境いが無い(もっとも、大抵の動物は茸を食べないけど)。

 それと、幸いな事にコボルドは雑食性が高い。あまり食べ物を選り好みする事は無い。しかし、ゴブリンやオークは肉食性が高い。肉や魚が少ないと機嫌が悪くなる。だが、こんな状況で満足な獲物など、とても期待出来る訳は無い。

 それじゃなくても、最近は人間のせいで森の中に動物が減っている。人間も獲物として動物を狩るからだ。木を切って動物の住処すみかを奪った上に、数が減った動物をさらに狩るのだから、人間というのは実に業が深い。

(俺も、その人間だけどな……)

 そう思いながら、俺は森の中をうろついた。しかし、困った事は他にもあった。

「腹が、減った……」

 俺も空腹だったのだ。何か食べ物を探さないといけない。とりあえず、その辺のつるをちぎると以前の様に簡単なかごを編んだ。

 コボルドに比べると、ゴブリンの手は人間に近い。少し尖った爪が伸びている程度で、あまり違いは無かった。お陰で、コボルドの時よりはずっとましな篭が短い時間で出来た。

「後は、中身だな」

 俺はあちこちを探し歩いて、そのうちに小さな沢を見つけた。水中の石を起こしてみると、その下には小さな沢蟹さわがにが居た。

「こいつは食べられる」

 しかし、調理する方法が無い。俺はとりあえず、下準備を考える事にした。しかし、それには時間が必要だった。今すぐこの沢蟹を食べる事は出来無い。それに、さすがに生でかじる事は俺には無理だった。

「別の物を探さないと」

 山芋やどんぐりには、出来れば手を付けたくは無い。コブリンにだって食べられるだろうけど、なるべくならコボルドの為に残しておいてやりたかったからだ。

 しかし、今はやむを得なかった。俺は小川で山芋を洗って食べた。肉食向きのゴブリンの歯は尖っているものが多い。少し山芋が食べにくかったが、一応それで腹を満たすと、そのままそこで石を拾って石同士を打ちつけた。そうやって石を割ると、鋭そうな破片をいくつか持って、木の枝を払ったり細い木を切った。

 そう、俺の目的は石器を作る事だったのだ。細い木や枝の先端を割って、そこに石の破片を挟んで蔓で縛ると色んな石器の完成だ。かなり粗末な物だが、何も無いよりはずっとマシだった。犬の様なコボルドの手では、とても出来無い事だ。

 

 俺は、手製の石器のうちで石斧を持つと、今度は30cm程もある太い木を切り倒しにかかった。石斧を使うと、手で石を持って使うよりもはるかに簡単に切る事が出来る。切った木を今度は10cm程の厚さの輪切りにすると、中を別の小さい石器でほじくってくぼみを作る。これで食器の完成だ。

 しかし、そろそろ日が暮れてしまいそうだった。俺は作った石器や食器などを隠すと、ゴブリンの住処すみかへと戻った。

 次の日になると、俺はまた仲間のゴブリンを連れて、コボルドの所へ食糧の徴収に出かけた。

(やっぱりこいつらは……)

 昨日5日分くらいだった食糧は、3日分になっていた。俺はその中から適当に拾い上げると、住処へ持って行ってオークに差し出した。

「何だこれは?昨日よりひどいな」

 オークは文句しか言わなかった。

(ほざいてろ)

 俺は腹の中でそう思うと、再び昨日の作業場へ向かった。作った篭と石器を持って沢へ向かうと、沢蟹をたんまりと獲った。

 そして、木で作った食器に水を汲むと、周囲に何も居ないのを確認して、木と木をこすり合わせて火を起こしてき火をした。

 ただし、食器を直接火にかけたりはしない。俺は焚き火で石を焼くと、水で満たした食器に沢蟹を入れて、そこに熱した石を枝で挟んで放り込んだのだ。

「ブシュー、ブクブクブク」

 熱した石を放り込んだ水が沸騰して、中の沢蟹を赤く茹で上げた。十分に熱が通ったところで、茹でた沢蟹を食べた。

「ちょっと生臭いけど、十分いけるな」

 俺は、ゴブリンの強い歯で沢蟹を噛み砕いて食べた。ゴブリンの体も、使い方次第では十分に役に立つ。運動性などを除けば、コボルドよりも使い勝手が良い。

 食事が終わると、俺は焚き火を消して次の行動へと移った。それは、ある物を探す為だった。俺はそれを手に入れると、食器と一緒に隠して住処へと戻った。

 夜になると、俺はこっそりと住処を出て川へと向かった。そして、人間達の罠から少し魚を失敬した。ただし、食べる為では無い。俺はその魚をそのまま川へと逃がした。

 次の日になると、俺はさらに減っていたコボルド達の食糧の中から、わざといつもより少なめに食糧を徴収した。そして、お供のゴブリンに荷物を全部持たせて先に行かせると、自分はまた火を起こして沢蟹を煮た。ただし、今度は違う物も一緒に、だ……。そうやって、一杯のスープをこしらえた。

 それを持って、俺は住処へ戻った。

「お前、何やってたんだ!今日は少なかったじゃないか!」

 案の定、食べ物が少ない事でオークは怒っていた。しかし、これも計算のうちだ。

「代わりと言っては何だけど、これを持って来た」

 俺はそう言うと、自分で作ったスープを差し出した。

「何だ、これは?」

 オークはそう言うと、俺が差し出したスープの匂いを豚の様な鼻で嗅いだ。そして、俺の手から食器を取り上げると、そのまま飲み干した。

 バリバリ、ガリガリと沢蟹を噛み砕く音がして、最後にごくりと飲み込む音がした。

「なんだ、うまいじゃないか。ゴブリンのくせにやるな」

 オークはそう言うと、満足そうに目を細めた。しかし、それも俺の計算のうちだった。

 その日の夜になると、オークが苦しみ出した。

「一体、これはどういう事だ!?頭がぐらぐらする、目が回る。誰か、何とかしろ!!」

 実は、俺が作ったスープには特殊な茸が入れてあったのだ。それは毒では無いが、ある食べ方をすると、美味くなる代わりに奇妙な感覚に襲われるという性質があった。

「ああ、それは薬を飲まないと駄目だ」

 俺はオークに言った。

「なら、取って来い!」

 オークは怒鳴ったが、

「それは無理だ。一緒に行かないと」

 と、俺は言った。

「どういう事だ!?」

 オークが言うので、

「それを治す薬とは、産みたての鶏の卵をその場で飲む事だ」

 と、俺は答えて、苦しむオークを無理矢理引っ張って人間の集落へと向かった。もちろん口から出任せの嘘っぱちだ。しかし、苦しんでいるオークには俺を疑う余地など無い。 

「こっちだ」

 俺はオークを誘導して、いつかの鶏小屋へと向かった。

 しかし……、


「しまった!」

 迂闊うかつだった。俺が以前偵察に来た時に、しゃがんで何かをしていた人間は、これを仕掛けていたのだった。

 俺はオークと一緒に網にくるまれて、宙吊りにされてしまった。どうやら、以前に俺がゴブリンを罠にはめた時にそれを考慮してか、より大型の罠を作っていたのだった。全く、人間というのは実に用心深い。俺が昨日の夜に魚を逃がしたのは、人間の警戒心をあおる為だったのだが、必要が無かった様だ。

「この野郎が。何度もしつこくやって来るなんて、ゴブリンって奴は実に欲深いな。しかし頭が悪い」

「今回はオークも一緒か。おそらく、こいつがボスだろうな」

 宙吊りになったままの俺達を取り囲んで、人間達が相談をしている。

「降ろせ、人間め!このクソ共が!」

 オークは口汚く悪態をついているが、人間にはオークの言葉が解らない。

「おい、こいつ武器を持ってやがるぞ!」

「危ないな。先にやってしまえ!ついでにゴブリンもだ!」

 そう言うと、人間達は俺達を網に包んだ状態のままで地面に降ろし、長いの付いた農機具で滅多打ちにしたり、石を投げたりして来た。俺とオークの体のあちこちで、骨が折れる音や肉が潰れる音が聞こえる。最後は、鈍い音と共に直撃した石に頭蓋骨を砕かれた。

 オークを始末出来た事はいいが、俺も一緒にお陀仏になってしまった。とんだ巻き添えだ。しかし、今回は少し俺も間抜けだったな。薄れ行く意識の中で、俺はそう思った……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ