意外な稼ぎと新しいボス
ゾンビになってからしばらく経つと、またあの冒険者達がやって来た。
「なあ、こんなに細かく調査に来て、少し慎重すぎやしないか?」
スケルトンだった俺を倒した戦士が言った。
「そうは行きませんよ。これだけの規模の墓地ですからね」
僧侶が慎重そうに言った。
「あとさ、ちょっとザコが多すぎやしないか?」
別の奴が言った。
「少し掃除して行くか」
戦士がそう言うと、俺に向かって来た。
(おいおい。俺は草むしりしてるだけだぞ)
しかし、相手が向かって来る以上、反撃しない訳にも行かない。俺は戦士に向き直ると掴みかかったのだが、ゾンビの動きでは普通の人間ならともかく、鍛えられた冒険者にはあまり通用しない。
俺の手は空を切るばかりで、戦士に触れる事も出来無かった。反対に、戦士の攻撃で少しづつ体を削られて行く。痛みを感じない事が有り難かったが、多少タフでも少し情けなかった。
「ゾンビは無駄にタフだから面倒くさいんだよ!」
戦士がそう言うと、俺は袈裟がけに斬り付けられた。相変わらず痛みは感じないが、ボロボロに崩れ落ちた体では、もう動く事が出来無かった。
俺はまたもや倒されて、魂だけがベリアルの所へ戻った。
「よう、ゾンビはどうだった?」
ベリアルが俺に言った。
「確かに、スケルトンよりはマシだったけどな」
俺はベリアルに言った。
「しかし、見境いが無いな、あいつらは」
俺がそう言うと、
「そりゃそうだろ」
と、ベリアルが言った。
「あいつらは、お前と同じだからな」
それを聞いて、俺はぎくっとした。
「確かに。ゾンビを見たら普通は襲って来るもんだと思う。あいつらは冒険者としては、何も間違っちゃいない」
俺がそうつぶやくと、ベリアルが言った。
「まあ、そこらへんは知識の違いってやつだろ。主人が居るアンデッドってのは、命令に無い限り勝手に戦う様な事はしないもんだ。そこらを勝手にうろついてる、野良アンデッドとは違うからな。お前だって、攻撃されたから反撃しただけだろ」
確かにその通りだった。俺はボスの命令通りにしていただけで、好き勝手に動いていた訳じゃない。
「それでどうする?少しは粘ったからスケルトンよりはマシだけど、まだ全然ポイントは足りないぞ。」
ベリアルがそう言うと、俺は、
「今度は火の玉でもやってみる事にする」
と、ウィルウォーウィスプを望んだ。
「そうか。あれは退屈だぞ。まあ、やり方によっては今までより稼ぐ方法があるけどな」
ベリアルがそう言ったので、
「それは何だ?」
と聞いたら、
「まあ、自分で考えろ」
そう言って教えてくれなかった。
そんな訳で、俺は火の玉になると、ボスの墓の明かり役として毎日同じ場所でうろうろしていた。いつもふわふわと宙に浮かんでいて、ある程度は自由に動く事が出来たが、ボスの墓からはあまり離れない様に言われていた。
簡単に言うと、俺の役目は迫力を出す事だった。ボスの墓のお飾りって訳だ。
そして、しばらくすると、またしてもあの冒険者達がやって来たのだった。
先頭の戦士が言った。
「今度こそ、これで終わりなんだろうな?」
「ええ、これで最後ですよ」
と、魔法使いらしい仲間が答える。
「ところで、ここのボスはどこなんだろうな?」
もう1人の別の仲間が言った。
「たぶん、そこの一番大きくて立派な墓だと思いますよ」
僧侶が答えた。
「何だ、あんなに目立つ目印があるじゃないか」
戦士が俺を剣で指して言った。
「なあ、ここのボスってどういう奴なんだ?」
別の仲間が僧侶に聞いた。
「確か、生前は少し名の知れた魔法使いたったんですけど、そのうちに、ありもしない財産が自分にあると思い込む様になって、死んでからはずっとそれで迷っているそうなんです。その思い込みの為に、アンデッドを下僕にして、自分の墓を守らせているそうですよ」
「はた迷惑な奴ですね。早く退治してしまいましょう」
と、魔法使いが言った。
それを聞いて俺は、
(は!?)
と思った。
(おいおい、それじゃ墓荒らしって何だよ。ここのボスの妄想だったのか?)
そのうちに、俺の主人であるボスがお出ましになった。
「貴様達は誰だ~?私の財産を狙う愚か者共め~」
その声に、冒険者達は身構えて言った。
「この、すっとぼけた死霊を、さっさと成仏させてやろうぜ!」
レイスというのは中級のアンデッドモンスターで、「エナジードレイン」と言って生きている者の生命力を吸収する事がある。退治するには魔法で攻撃するか、一時的にでも魔力のかかった武器が必要だ。
「我が下僕共よ、この不埒者共を排除せよ!」
俺のボスが命令すると、スケルトンやゾンビが、わらわらと冒険者に群がり始めた。
「だから、この前に邪魔者を少しでも掃除しといて良かっただろうがよ!」
戦士がそう言いながら、モンスターを切り倒して行く。
「そっちは任せますよ!」
僧侶と魔法使いが、俺の主人に向かって行く。レイスに対しては、こういう職業の方が有利だからだ。すかさず、俺のボスも魔法で応戦するが、戦士と別の仲間が上手く盾になっている。
ただの明かり役である俺には、これといった攻撃手段が何も無いが、せいぜいうるさく飛びまわって、奴らの邪魔をするくらいだ。
「うるせえな、このウィスプは!」
戦士が、盾を振り回しながら俺を追い払おうとするが、俺は上手く攻撃を避け続けた。かわすだけなら、そんなに難しい事では無い。
そのうちに、魔法使いの攻撃魔法と僧侶の神聖魔法で、ボスが押され始めた。
「おのれ、我が財宝は誰にもやらんぞ~」
(文字通り)だいぶ影が薄くなったボスがそう言った。雇い主が負けてしまうのは困るので、俺は何とかしようと思ったが、生憎と方法が無い。
「お前達は邪魔なんだよ!さっさと成仏しな!」
戦士が言ったその言葉に、何だか妙なムカつきを感じた俺は、戦士に向かって体当たりをした。
「うわっ!!」
俺がぶつかった瞬間、予想以上の衝撃が走って戦士がよろめいた。しかし、結局ボスはやられてしまい、その墓地は清められてアンデッドも全滅してしまった。
もちろんだが、戦士にぶつかった俺も消滅して、ベリアルの所へ戻された。
「よう、火の玉はどうだった?」
戻った俺に、ベリアルが言った。
「割と面白かったな。飛べるってのはいいもんだ。ただ、ほとんど同じ場所から動けなかったけどな」
俺はそう答えたが、実際は以前にベリアルが言った様に、死ぬ程--もう死んでるが--退屈だった。
「ところで、今回の働きで少し変化があったぞ」
ベリアルが言った。
「え、本当か?」
俺が言うと、
「ああ。あの体当たりが結構ポイント高くてな。新しいモンスターになれる様になったぞ」
「一体どんなのだ?」
俺が聞くと、ベリアルが、
「コボルドだ」
と言った。
「はあ!?コボルドだって?」
思わず俺は聞き返した。コボルドってのは、2足歩行する犬の様なモンスターで、大きさはせいぜい1mくらいだ。前足が変化した様な手は簡単な道具を使う事が出来るが、知能もあまり高いとは言えず、人間の子供よりは多少マシな程度しかない。
「どうする?なってみるか?それとも、違う場所でアンデッドを続けるか?しばらく慣れた事をやるのも、ポイント稼ぎの手だぞ」
ベリアルはそう言った。
「なあ、ベリアル」
「何だ?」
「お前、本当は良い奴なんじゃないのか?」
「何!?」
「だってさ、俺が地獄へ落ちない為に罰を受ける様に仕向けたり、復活するモンスターの手配もしてくれるし。アドバイスだってしてくれるだろ」
俺がそう言うと、ベリアルがわめいた。
「ア、アホかお前は!?これは、あくまでもアタシの仕事だからだ!悪魔ってのはな、お前らが思っているよりも勤勉で勤労なんだよ!」
そう言ったものの、何だか少し顔が赤くなっている気がする。
「どうでもいいから、次に復活する奴を選べ!」
少し動揺した感じでベリアルが言った。なんか、やっぱりちょっと可愛い。
「じゃあ、そのコボルドで」
俺がそう言うと、
「解った。今度は少し厳しいからな、覚悟しておけ!」
と、ベリアルが怒った様に言った。
「おいおい……」
俺は少しびびった。
しばらくしてから俺が気が付くと、そこはどこかの洞窟の中だった。
(どこだ、ここは……?)
周囲を見回すと、まるで馬小屋の様に藁が引いてある。どうやら寝床だと思われた。
「さしずめ、塒って所だな。」
俺は自分の体を眺めた。全身に茶色い毛が生えていて、両手足の指先までもびっしりと毛に覆われている。
手の感触を確かめる為に、俺は両手を握ったり開いたりしてみた。特別不自由は感じないが、本当に犬の前足みたいだ。細くて長い爪と肉球も付いている。
顔を触ってみると、そっちもまるで犬みたいだった。針金の様な髭もあるし、鼻と口も突き出している。
俺は出口を探して、洞窟の中を歩き始めた。洞窟は狭くて明かりも無かったが、コボルドの体は小さいし暗闇でも目が見えるので不自由は無い。それに鼻が効く。俺は自分と同じ様な臭いを辿って歩いた。
少し歩くと、すぐに広間の様な所へ出た。そこだけは松明で明るく照らされていて、俺と同じコボルドが沢山居た。
「おい、ずいぶんのんびりだな」
俺を見つけた1匹が声をかけて来た。犬の吠え声みたいだが、俺にはきちんと理解出来た。
「一体どうしたんだ?」
俺が言うと、別の1匹が少し怒った感じで言った。
「最近、人間が俺達の縄張りを荒らす様になった。木はどんどん切って薪にしたり、炭にする為に燃やしちまう。お陰で、獲物となる動物が居なくなってしまった」
「それだけじゃない。奴らは何でも根こそぎ持ってってちまう。川からは魚が居なくなるし、森からは果物や茸が消えた。このままでは、俺達は生きて行けなくなる」
コボルド達の悩みは深刻だった。
「こうなれば仕方が無い。こちらも人間の村から奪って来るしか無いだろう。このままでは俺達が滅びてしまう」
誰かが言ったが、賛同する声は無かった。
「それは危険だぞ。奴らは家を一杯作って住んでいるし数が多い」
「では、どうすればいいんだ?」
そうやって相談をしていると、別の声が聞こえて来た。
「おい、お前ら。一体何をやっている!」
コボルドとは違う声の方を振り向くと、そこにはゴブリンが居た。ゴブリンと言うのは、コボルドよりも20cmくらい大きい人型のモンスターだ。体の色は緑で体毛は無く、頭の上までつるんとしている。尖った耳と鼻を持ち、爬虫類の様な目をしている。
「全く。今日の分はどうしたんだ?さっさと食べ物を集めて来い!」
ゴブリンはそう怒鳴った。
「何だ?あいつらは?」
俺が近くの奴にそう言うと、そいつは声を潜めて言った。
「あいつらも、人間に追われて来たんだ。俺達を脅かして食い物を集めさせ、自分達は楽をしやがるのさ」
「何とかならないのか?」
俺がそう聞くと、そいつは首を振って言った。
「数はこちらが多いが、あいつらの方が強い。俺達ではどうにもならない」
(全く、今度のボスはゴブリンって訳か……。これじゃ、しばらくアンデッドをやってた方が良かったかもなあ……。)
俺はそう思いながら、毛むくじゃらの手を握り締めた。