恋でも愛でも無い
久しぶりに投稿します。待っていて下さった方や、そうでない方も、前回からものすごく時間が開いてしまい、大変に申し訳ありません。
今回は、一気に連続5話を掲載します。それでは、どうぞお楽しみ下さい。
※不自然になる部分を修正いたしました。
警備兵の詰め所を出てから、ミルダが言った。
「それにしても、最初は本当に盗賊みたいな扱いかと思ったわ」
「俺も、巻き添えで牢屋行きは御免だと思ったさ」
「私は盗賊なんかじゃないわよ。第一、こんな美人な盗賊が居る訳無いでしょ」
「自分で言うか、自分で」
俺はそう言ったが、彼女は割と美形な方だと思う。だが、年齢的にどちらかと言うと、まだ子供っぽさが抜けてなく可愛い方だと感じる。
ただし、人間の年齢で言うなら、彼女は明らかに俺より年上だが……。
「いいのよ。女性において、美しさというのは何にもおいて優先されるものなの!」
「はいはい」
「ところで、リオンは何歳なの?」
「あ、ええと……」
今思っていた事を見透かされた様で、俺は少しあせったが、
「人間の年齢で言うと、15歳だ」
俺は素直に答えた。
「そうなんだ。私より年下なんだね。でも、爬虫類ってすぐ大人になるからなあ。リオン君は、意外とオジサンだったりする?」
「失礼だな。俺からすると、ミルダの方がよっぽど子供だぞ」
そう言いながら、君付けで呼ばれた仕返しに、彼女の頭をわしゃわしゃと少し乱暴になでた。
「あ、こら!レディの頭を気安く撫でるな!年上を子供扱いするんじゃないわよ」
彼女は少し赤くなりながら、自分の頭に置かれた手を両手で掴んで外そうとする。
ミルダは必死で手を外したが、俺は笑っていた。
「全くもう。髪は女の命なんだからね!」
彼女は、少しふくれっ面でそう言った。
「そう言えば、リオンはあそこで何やってたの?」
不意にミルダに聞かれた。彼女が言うあそことは、街道の事だ。
「ああ、そうだったな」
そこで俺は、改めて自分の目的を思い出した。聞かれて話そうとすると、
「ねえ、その話って長くなりそう?」
ミルダに尋ねられたので、
「長くは無いけど、余り人には聞かれたくないかもな」
俺はそう答えた。
それを聞いて彼女が、
「じゃあ、場所を変えない?」
「変えるってどこへ?」
「そうね、とりあえず安心して話しが出来る場所が良いわね」
彼女の提案で、俺達はとある宿屋に入って部屋を取った。人目を引くのは店内に入った時だけで、部屋に篭ってしまえば後はどうという事も無い。
「それで、リオンの目的って何?」
部屋に入ると、早速ミルダが聞いて来た。
「リザードマンが住処を離れるなんて、よっぽどの事だもの」
旅の吟遊詩人となれば、ある意味で当然かも知れないが、どうやら彼女はモンスターの事にも少し知識がある様だった。
「俺の目的は、こいつだ」
そう言いながら、ミルダへ向かって金貨を弾いて寄越した。
「……これは?」
金貨を受け取った彼女はそう聞いた。
「良く見てくれ」
俺がそう言うと、ミルダは親指と人差し指で金貨を縦に挟み、眼の前でしげしげと眺めた。
「う~ん、見た事が無い金貨ね。現在流通している物とは違う様だわ」
「俺が考えるに、かなり年代物だと思うんだけどな」
「それで、この金貨がどうかしたの?探しているの?」
彼女はベッドに腰掛けると、金貨をまじまじと見ながら言った。
「いや、その逆さ」
「逆って?」
「俺は、その金貨を山程持っている」
「へえ~。リザードマンって結構お金持ちなのね。それともリオンが特別なのかしら」
その言葉にも余り驚かずに、片目を閉じて金貨を見たままミルダが立ち上がって、部屋の中を少しうろうろしてから今度は椅子に座ると、足をばたばたさせながらおどけて言った。
「まあ、正確には俺個人の所有物という訳でも無いんだが……」
「どういう事?」
そう尋ねる彼女に、金貨の出所とそれについての話をした。
「それって、凄くない?」
「俺もそう思う」
「でも、リザードマンって欲が無いのね」
彼女が少し不思議そうに言うので、
「欲が無いと言うよりは、興味が無いのさ。何せ、基本的に金が無くても生活に困る事が無いからな」
「それって、人間には考えられない事だわ。っと言うより、やっぱりリオンが特殊なのね」
「俺もそれは否定しない」
「あら、意外に素直ね」
彼女の言葉に、
(元人間だからな)
そう心の中で言った。
「でも、いくら価値があっても、流通していない金貨を使う事は難しいんじゃないかしら」
「しかし、仲間の話だと行商人はそんな事は言わなかったらしいぞ」
「う~ん……。きっと、欲しがる人が居たからじゃないかしら。そういう人に売りつければ、もっと儲かるから。それに純度が高い金は、他に使い道もあるもの」
「例えば?」
「……そうね。方法の1つとして、鋳潰して混ぜ物をすれば、今の金貨なら少し多目に出来ると思うわ。もっとも、5枚や10枚じゃとても足りないけど。何百枚、何千枚と使えば、1.5倍くらいには増やせると思うわ。でも、あまり混ぜ物を増やすと粗悪になるから、2倍は無理ね」
「それじゃ、余り儲からないなあ」
「ええ、手間を考えると余り賢いとは言えないわ。だから、別の品物に加工する方がまだマシね。ネックレスやブレスレットなどの装飾品や、後は美術品なんかに」
「なるほど」
「まあ、でも。この金貨自体が美術品みたいなもんだし、コレクターなら欲しがりそうな人が居るかもね。アンティークコレクターと言うのは、どこにでも居るものだから」
「どれくらい古いか解るか?」
「さあ?さすがにそこまでは。代替わりなどで王や領主が変わると、貨幣のデザインを変える事があるわ。その時に古いお金は回収して、それを材料にして造り直される事があるのよ。だから、ちょっと解らないわ」
「なるほどな」
「ただ、そういう事に詳しい人なら居るんじゃないかしら」
「例えば?」
「それこそ、そういった物を集めているコレクターよ」
「確かにそうだ」
彼女の言う通り、コレクターならば自分が集めている物に関する知識を持っているに違い無い。
「それで、そういった人に心当たりはある?」
「ん~、私はちょっと解らないなあ」
ミルダはそう答えた。
「それじゃ、そろそろ休む事にしましょう」
彼女はそう言うと、おもむろに服を脱ぎ始めた。
「ちょっとおい、いきなり何を!?」
「何をって、寝るんだから当たり前でしょ?」
「それはそうだが……」
何の違和感も無い様に言われて、俺の方が反応に困った。
「さすがに、これが人間の男の前ならやらないわよ」
彼女はあっさりそう言うと、自分のベッドに潜り込む。
「それじゃあね、おやすみ」
「お、おやすみ」
彼女の唐突過ぎる行動に、呆気に取られてそれだけを答えた。
「まあ、俺も寝るか」
しかし、今はリザードマンであるから、人間のベッドは使いにくい。だが、床に直接寝る訳にも行かないので、仕方なく腹這いになる事にした。
「まるで干物みたいだな」
何とも言えずみっともない格好で、俺はつぶやく。
「ねえ、リオン。まだ起きてる?」
隣のベッドから、ミルダの声がした。
「ああ」
短く返事をする。
「そっちへ行っても良い?」
「何っ!?」
意外な言葉に、俺は驚いた。
「な~んか、寝苦しいのよね」
そう言うと、こちらの返事を聞かずに、彼女はいきなりこちらのベッドに滑り込んで来る。
「お、おい……」
突然の行動に動揺していると、彼女はそのまま抱き付いて来た。
「あ~、やっぱりだ」
「何が?」
気まずくなっている俺とは裏腹に、彼女は明るい声で言った。
「リオンの体って、ひんやりして気持ち良いと思ったのよね」
「はあ!?」
「寝苦しい夜には、リザードマンよね」
「そういう道具じゃないぞ」
彼女の意図が解って、俺は呆れて言った。
そんな思惑を他所に、彼女はぐいぐいと自分の体を擦り付けて来る。何やら生暖かくて柔らかい感触も伝わって来るが、生憎と言うか残念と言うか、今の俺は人間の女性には欲情しない。例え、妙齢の可愛い女の子に、裸で抱き付かれていても……だ。
「あ~、気持ち良い。これでぐっすりと寝られそうだわ」
ミルダはそう言うと、両手両足を使って俺にがっちりとしがみ付く。
「あのなあ……」
俺は再び呆れて言った。
信用されているのはうれしいが、これは余りにも無防備すぎるだろう。
しばらくすると、彼女は安らかな寝息を立て始めた。
「すーすー……」
その穏やかな寝顔を見ながら、
(やれやれ、すっかり信用されてるな)
と、三度呆れつつ思った。
だけど、こうも簡単に異種族に心を許せるのは、それだけ彼女が素直で純真だと言う事だろう。
「彼女に賭けてみるのも悪くない……か」
とりあえず、ミルダは信頼するに足る人物だと確信したので、一度彼女を住処に連れて行き、財宝の実物を見せても良いだろう。
彼女に抱き付かれたまま、俺も腹ばいになって眠った。うっかり寝返りをして、ミルダを押し潰してしまわない様に気を付ける。
次の日になると、宿を出てからまずは街の責任者に会う為に、俺達は町長の屋敷へ向かった。
「い、一体何のご用ですか?」
屋敷の警護をしている者が、俺の姿を見ると、おっかなびっくりで聞いて来た。
「町長さんにお会いしたいのですが……」
出来るだけ彼らを安心させようと、ミルダがそう尋ねた。
「ど、どうぞこちらへ……」
案内されて、俺達は屋敷の中へと入る。
「私が町長だが、ど、どういったご用件かな」
少しおっかなびっくりで聞かれたので、
「まずは、これを見てもらいたい」
俺はテーブルの上に、持って来た金貨を置いた。
「ほう……、これは一体?」
「いつの時代の、どこの物かは解らないが、俺達リザードマンはそれを大量に所持している。だけど使い道が無い。そこで、提案がある」
「ふむ?」
「こちらが望む物を提供して欲しい。支払いはこれと同じ金貨で行いたいのだが、どうだろう」
「本物の金貨であれば、どこの物であろうとこちらは構わないが」
「それともう一つ」
「何かな?」
「実は、金貨以外にも財宝がある。金貨と同じ時代のものであれば、歴史的価値があるはずだ。それをこの街で展示して欲しい。そうすれば観光名所になって、この街の為にもなると思う」
俺の考えは、そういう事だ。洞窟の奥で朽ち果てさせるよりは、街で展示してもらう。そうする事で、この街が有名になって人が集まれば役に立つ。何より、警備が付くので安全だし、宝を狙った冒険者に、リザードマンの住処が襲われる事も無くなるだろう。まさに一石二鳥、いや、取り引きで街の経済も潤うし、リザードマンの暮らしも良くなるので、それ以上だろう。
「どうだろう、考えてもらえないだろうか」
俺がそう言うと、
「しかし、肝心のその財宝がどういう物か私達は知らない。君達にとって価値がある物でも、我々にとってガラクタという可能性もある。それでは困る」
町長は、そう答える。
なるほど、もっともな話だ。
「じゃあ、俺達の住処に来て、確認してはどうだ」
「わ、私が君達リザードマンの巣にか!?」
その申し出を聞くと、町長は”ぎょっ”とした顔をした。そりゃそうだろう、冒険者でもない一般人なら、誰だってそれは怖い。
「では、こうしましょう」
「ふむ?」
不意にミルダが口を開く。
「私がまず彼と一緒に行って、その財宝とやらを確認して来ます。それで価値があると解れば、その時また話を進めるかお考えになってはいかがですか」
「……うむ、そうしてもらえるならありがたい」
彼女の申し出を、町長は快諾した。
「では、そういう事で一旦失礼します」
こうして、俺達は町長の屋敷を後にするのだった。
リザードマン編のヒロインである「ミルダ」と、いきなり急接近したリオン。彼女との関係と、人間との交流がこれからどうなるのか、予想しながらお読み下さい。




