避けられぬ争い
前回の投稿から、かなり間が開いてしまい、申し訳ありません。
俺は、盗伐をしていた人間共を、オーク達が潜んでいる賊がアジトにしていた洞窟へと連れて行った。
「こいつらが、悪さをしていた人間だ」
縄で縛られたままの人間共を、俺はオーク達の前に放り出した。
「人間め、良くも今まで」
「さっさと殺してしまおう」
オーク達は色めきたっていた。もちろん、何を言っているか人間には解らない。
「まあ、待て。俺に考えがある」
すっかり震え上がっている人間を尻目に、俺は怒るオーク達をなだめて言った。
「まだ待つのか?」
「さっさと人間を殺してしまおう」
オーク達は(文字通り)鼻息も荒く猛り狂っていた。
「いいから、もうちょっとだけ俺に任せておけ」
そう言うと、俺は人間達を縛っているロープの端を持って、すくみあがって腰が抜けて座り込んでいる人間を無理矢理立たせて、出口へと引っ張って行った。
「今回だけは助けてやる。その代わり、戻って村長に自分達がこれまでやって来た事を全て白状しろ。そして村中に詫びて回れ」
俺がそう言うと、人間達は首をちぎれんばかりにぶんぶんと縦に振って頷いた。
次に縄を解いていやり、
「行け!!」
そう怒鳴りつけると、人間達は慌てふためいて走り出した。
洞窟に戻ると、俺はオーク達に言った。
「もうちょっとだけ様子を見よう。ただし、これで最後だ」
それを聞くとオーク達は、明らかに不満そうだったが、
「解った、お前が言うならあとちょっとだけ待つ」
その返事を聞くと、俺はくれぐれも先走ったりしない様にオーク達に釘を刺してから、自分の住処へと戻った。
それから何日か、俺は人間の様子を見る為に山で寝泊りをした。しかし、人間は態度を改めるどころか、それまでの遅れを取り戻せと言わんばかりに、人数を増やして伐採と乱獲を始めたのだった。どうやら、俺が逃がしてやった奴らは、何もしゃべらなかったに違い無い。逆に、いかにもモンスターが悪者とばかりに吹聴して回ったのだろう。作業の人数を増やしたのは、危険を警戒するのと作業の効率を上げる為だと思う。
さすがに俺もあきらめて、オーク達の所へ向かった。
「待たせたな」
俺はそう言うと、続けてオーク達に言った。
「お前達の好きにすればいい。ただし、俺も一緒に行こう」
ある意味で、これは自然の摂理でもあるからだ。生活の為とは言え、自分達の勝手な都合で森を切り開き、自然の恵みを奪った上に動物を減らし、さらにその減った動物を狩る。人間は少しやり過ぎたのかも知れない。それに怒ると同時に反撃に出たモンスター達も、決して単純な悪とは呼べない。これは、ある意味で人間とモンスターの、生存競争なのだ。
俺の言葉を聞いて、オーク達は喜んだ。そのオーク達に、俺は言った。
「まず準備が必要だ。俺の住処へ来い」
俺はそう言うと、オーク達を俺の住処へ連れて行き、アジトから持って来た食糧を惜しみなく分け与えた。
「お前、ずいぶん沢山持っているな」
オーク達は驚きながら言った。
「お前達は、出来る限りもっと戦う仲間をここへ集めろ。俺は人間の様子を見て来る。あと、食べ物以外には触るな」
そう言うと、俺は弓矢と道具をいくつかと、後は往復分の食糧を持って村へと出かけた。村の近くへ行くと、俺は近いうちにオークの襲撃がある事を手紙に認めて、矢文にして村へと打ち込んだ。こうすれば、危険に巻き込まれない様に、老人や女子供は安全な場所へ逃がされるだろう。
俺が往復に3日程かけて住処へ戻ると、オークの数は10匹近くにまで増えていた。戦力としては、そこそこの数だろう。
「良く集まったな。それじゃあ、これから村を攻める準備をするぞ」
俺はそう言うと、元々ここにあった装備を点検して、剣を研いだり盾を磨いたりした。丸腰のオークには、これまでに人間から奪って持っていた剣や、武器に使えそうな道具を与えた。ただし、弓矢は与えなかった。下手な弓矢を撃たれて流れ矢で事故が起きてはまずいからだ。そして、ありったけの食糧を持つと、オーク達を先導して人間の村へと向かった。
本来はオークとは立場が逆で、バグベアというのは他種族に雇われる事が多いのだが、今回ばかりは俺の方が指揮を執っている。
襲撃には夜を待たなかった。本来は夜目の聞くモンスターの方が、夜襲をするには圧倒的に有利なのだが、人間が俺の警告通りにしているなら、待ち構えるなどして家に明かりが無いなどの不自然さがあった場合、オーク達が感付く事も考えられたからだ。
「行くぞ!」
俺はオーク達に言うと、村へ向かって手を振り下ろして突撃の合図を出した。同時に、雄たけびを上げた。オーク達は、それぞれが手に獲物を持って走り出し、てんでばらばらに民家を目指した。俺は、最も離れた民家へ向かったが、ある程度は予想していた事が起きた。
村の建物の陰から、隠れていたと思われる武装した人間が飛び出して来たのだ。姿からすると、正式な兵士では無くて、おそらくは村が雇った傭兵か冒険者だろう。
人を集めるのには、俺が残した金貨を使ったのかも知れないが、出て来た人数はわずかに4人だった。剣と盾を持って金属の鎧を着けた戦士風と、弓矢を構えた者。後は回復役の僧侶と魔法使いに見えた。
まあ、そうだろうな。あれっぽっちの金では大した人数は雇えないだろう。それでも平均的な1パーティーなので、油断は禁物だ。
出て来た冒険者は、とりあえず弓矢と魔法を使って近付くオークにそれぞれダメージを与えたが、倒すまでには至らずその場から逃げて仲間と合流した。
オークと言うのは、身長の割に力が強くてタフで凶暴な為、人間からしたら結構厄介な相手である。あまり実力が伴わない場合は無理をしないのが確実だ。
しかし、数ではこちらが圧倒的に上である。あの程度の冒険者には簡単に負ける事は無いだろう。だが、勝つ事も難しいと思う。所詮は寄せ集めの戦力で大した武器も持っていないし、直接殴るしか芸の無い連中だからだ。要するに、負けるまで時間がかかるというだけだ。
俺は、オークと冒険者の戦いを無視して、集落の民家を見て回った。馬鹿力を発揮して、閉じている扉は強引にこじ開けたり蹴破ったりして、中の様子を確認すると、大声で雄たけびを上げた。こうして先に知らせておけば、中に人が残っていた場合、慌てて逃げ出すだろうからだ。
時々まだ人が居た場合、俺はわざと大股で足を踏み鳴らしながらゆっくりと近寄って行った。そして、乱暴に剣と盾を振り回して威嚇した。
大抵の者は、俺がそうやって無駄な行動をしているうちに、びっくりして逃げ出して行った。俺は人が居なくなった家の中を見回ると、また別の家へと向かった。
俺の目的は、逃げ遅れたり隠れている人間を殺したり、残された金品を奪う事では無い。そうやって、暴れている振りをしながら、残っていた人間を逃がす事である。
何軒目かの民家に押し入った時、俺は小さな女の子を見つけた。間違い無く、あの少女だった。
「おじさん……?」
少女は、俺の姿に驚きながらも、そう言った。俺は黙って頷いた。
「おじさん、どうしてここに居るの?」
俺はそれには応えず、逆に少女に言った。
「お嬢ちゃんこそ、逃げなかったのかい?」
その言葉に、
「お父さんとお母さんと一緒に逃げたんだけど、大事な物を忘れたから取りに来たの」
少女はそう答えると、何かが入っている小さな箱をしっかりと両手で持っていた。
「おじさん、なぜ……?おじさんは悪い人だったの?」
俺は、少女のその問いかけには答えず、短く言った。
「逃げなさい、早く……」
俺と少女はしばらく無言で見つめ合っていたが、やがてその意味を理解したのか、少女は目に涙を浮かべながら、黙って頷くと走って家の裏口から出て行った。
(いつかは解る事だ。それが早いか遅いか、今か後かの違いだったというだけの話だ。)
俺はそう思うと、再び住民を探し始めた。
雇われた冒険者は、お世辞にもあまり強いとは言えないらしく、オークの攻撃に押されては、逃げて距離を稼ぐという事を繰り返していた。
だが、それは賢明な判断だと思う。オ-クの力押しに対して、適当に退いては態勢を整えるというやり方は、あながちそんなに悪くは無い。
包囲されない様に距離を取って、その間に弓矢や魔法で少しづつ相手の戦力を削るという事も行っている。なかなか良く出来た作戦だと思う。
しかし、その冒険者達を、俺はどこかで見た覚えがある気がしたが、今はどうでもいい。
見渡すと、村のあちこちからは火の手が上っており、畑は滅茶苦茶に踏み荒らされていて施設の損壊も激しかったが、人間さえ傷付かなければいずれ再建する事は出来る。その為には、人為的被害を押さえる事が最優先だ。
一通り民家を回ってから村長の家へも行ったが、情け無い事に蛻の殻だった。
(集落の責任者が逃げ出すとは、何て様だ……)
俺はあきれながら、村長の家の中だけは滅茶苦茶に破壊して回り、そばにあった紙とペンで「お前達がやった事に対する、これが結果だ」と殴り書きして置いてから外へ出た。
オークと冒険者の戦いを眺めながら、俺はオークに対してモンスターの言葉で叫んだ。
「何をやっている!1人に攻撃を集中して押し切れ!」
パーティーの盾でもあり要でもある戦士をやってしまえば、後はどうにでもなる。もっとも、ほとんど大した武装をしていないオーク共には、あの戦士を倒す事は出来無いだろうけど。
俺の目的は、時間稼ぎにオークを使う事だった。俺の指示通り、オーク達は戦士1人に攻撃を集中し始めたが、元々盾役である戦士は打たれ強い。本来ならば、戦士がカバーし切れ無い他のメンバーへも、戦力を分けて攻撃を仕掛けるべきなのだ。そうなれば、仲間の援護をもらえなくなった戦士も、やがて落ちる。
逆に言うと、戦士という盾を失えば、残りのメンバーは楽に片付くだろう。俺の指揮は半分だけ正しいのだ。
「おい、何でオークにバグベアが指示をしているんだ?」
「俺が知るかよ」
「ねえ、あのでっかいのからやっちゃった方が良くない?」
そんな会話が冒険者から聞こえて来たが、オークの相手で手一杯の彼らには、とても俺の所まで来る余裕は無いだろう。
戦いに夢中になっているオークは気が付いていないが、すでに当初の半分程になっているオークは、逆に手に得物を持った村人達に包囲されていて、逃げ場を失っているのだ。
俺がどこかの家の納屋に入った時、そこには自分の背中に家族をかばって、先端がフォ-クの様になった鋤を構えている村人が居た。
まずい事に、俺が一ヶ所しかない入り口を背中で塞いだ格好になっている為、逃がしてやる事が出来無い。
「くそ、来るな、来るな~!!」
村人は俺に対して、恐怖からか眼を閉じて必死に鋤を突き出して来るが、所詮は素人のやる事で俺には掠りもしない。
俺は、村人の鋤を難なく避けると、ひょいと枝分かれしている根元を握り、自らの胸に突き刺した。
尖った先端は俺の心臓を貫き、鋤が刺さったままの胸から血を吹き出しながら、俺は仰向けに倒れた。村人を助けるには、これしか手段が無かったのだ。
それからすぐに、オーク共を倒した冒険者達がやって来ると、こう言った。
「何だ、一番の大物を素人にやられるなんてな」
「い、いえ。ただ、夢中だったもので……」
鋤の持ち主の村人は、震えながらそう言った。
「これでは、仕事料の一部を返さなくてはなりませんね」
冒険者の1人が、冗談交じりに言う。
そんなやり取りを聞きながら、俺は次第に意識を失くして行った。




