接触と交渉
かなり更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。続きを投稿します。
「話は解ったが、ここは俺に任せてもうしばらく待て。」
俺は、オーク達にそう答えた。
「なぜだ?」
その言葉に、オーク達は少し怒った様に言った。
「すぐに人間と戦うのは、あまり良い事では無い。それよりも、俺に考えがある。それで駄目ならお前達の好きにすればいい」
俺はそう言って、とりあえずその場を収めた。あまり好ましく無いが、オーク達にはこの洞窟に少し留まってもらう事にした。勝手にどこかへ行かれては連絡が取れなくなってしまうし、なるべく俺の目の届く範囲に居てもらう必要があったからだ。
(仕方が無い……か)
俺は、最終手段の一歩手前の選択をする事にした。出来ればこんな事はしたくなかったが、事態はかなり切迫している。
まず、急いで住処へ戻ると、いつか使った包帯もどきの布切れを、滝で良く洗って干した。そして、入れ物代わりに使っていた袋を切って、何とか衣服に見える様に加工した。かなり粗末な代物だが、とりあえず頭と両手・両足が出ればそれでいい。
そして、袋で作った間に合わせの服を着ると、さらに両手と両足に布をぐるぐると巻いた。これで、以前少女と過ごした時よりも人間らしく見えるだろう。
しかし、この赤い目だけはどうしようもなかった。仮にフードか帽子を目深にかぶっても、俺の方が人間よりも背が高いので、下から覗かれたら意味が無い。
が、近寄られないうちだけでもと思い、俺は間に合わせで被り物を作った。これなら、余程接近されない限りは大丈夫だ。自分の足元くらいしか見えないのが、ちょっとだけ不便ではあるが。
さらに、自分の身長より少し長いくらいに切った細長い木に、両端を切って開いた袋を結び付けて旗にした。これを俺が持てば、遠くからでも良く見えるだろう。
これは何かと言うと、こちらに敵意が無い事を伝える「白旗」だ。俺が考えたのは、戦う前にまず人間と話し合う事だった。その為には、この白旗が役に立つだろう。
そうして俺は村へと向かった。道中で何かあっても困るので武器は持って行くが、それも途中で隠しておくつもりだ。話し合いに武器は必要が無い。
村に着くと、なるべく俺はゆっくり歩いた。とにかく目立つ為だ。っと言っても、この風貌は嫌でも人目に付く。なるべく人間に近く見せようと努力はしてみたものの、やはり限界はある。
俺を見つけた村人達が、不安げに寄り添いながらあちこちで固まり、遠巻きに俺を見つめている。俺は十分に人目を引いたところで、誰かが接触して来るのを待った。
村人の誰もが俺を異様な目で見つめる中、1人の少女が駆け寄って来た。
「おじさーん!」
少女はそう言うと、俺の腰に抱き付いて来た。俺は片手で旗を持ったまま、少女を受け止めた。
「やあ、お嬢ちゃん。元気だったかい?」
俺の問いかけに少女が答える。
「うん!おじさん、今日は遊びに来たの?」
「残念だけど、違うよ。ちょっと大事な用事があってね」
俺は差し障りの無い様に答えた。
「そうなんだ」
少女とそんなやり取りをしていると、少し年配の男性がやって来た。
「私はこの村の長です。あなたが以前この子を助けてくれたお方ですか?」
「ええ、そうです」
俺は普通に答えたが、子供と違ってこの声はどうしても大人には警戒心を抱かせる。元々、あまり人間の言葉を話すには向いていないのだ。
「とりあえず、こんな場所で立ち話をする訳にも行きますまい。まずは私の家へどうぞ」
緊張してやや上ずった声で、村長と名乗る男性は俺を案内した。少女は、親と見られる大人に連れられて俺から離れて行った。
村長の家に行くと、とりあえず食堂の様な部屋に通されて椅子に座る様に勧められたが、人間用のサイズは俺には少し小さかった。俺は壊さない様に気を付けてゆっくりと椅子に腰掛けた。
「あなたがどこのどなたかは存じませんが、まずは礼を述べなければなりますまい。あの子を助けて頂いただけではなく物騒な賊まで成敗されて、あまつさえその賊の物を我々に分け与えて下さった」
村長はそう切り出した。
「あくまでも行きがかりでそうなっただけですので、お気になさらずに」
俺は、あくまでも紳士的に振舞った。
「そう仰られると助かります。ところで、今日はいかなるご用件で?」
村長に尋ねられて、俺はこう言った。
「とりあえず、この村の状況を教えて欲しいのです」
俺は、賊の一件の事を踏まえて、生活の為とは言え山の木を切ったり山菜などの採取など、少しやりすぎ
ではないかと言った。
「仰られる事はごもっともなれど、現状では我々にはまだ足りないのです。山を切り開いて開墾して畑を増やしたり、山で猟をしたり川で魚を獲るなどしても、全然需要には追いつかない状態です。元々この辺りの山は針葉樹が多く、土も痩せています。お陰で家畜の餌どころか人間でさえ食うや食わずの生活をしている有様」
村長は、いかにも心苦しそうに言った。
「しかし、生活しているのは人間だけではありません。山や川の生き物だけではなく、モンスターだって住んでいます。このままでは、いずれ衝突する日が来ないとも限りません」
俺は、警告の意味も込めて言った。実際、今は俺が辛うじて抑えているものの、オークなどのモンスターは元来は短気である。いつ俺の言う事を聞かずに村へ攻めて来ないとも限らなかった。
「もしそうなれば、遺憾ながら争いは避けられないでしょう。我々は自分の暮らしや家族を守らなければならないですから。けれど、我々は決してそんな事は望んではおりません。ただ、生きて行く為にやむなく行っているだけです」
難しい問題である。人間が生きて行く為には生活圏を広げなければならない。しかし一方で、その皺寄せがモンスターにも及んでいるのも間違いの無いところだからだ。
ただ、一番の違いがあるとすれば、人間とは違ってモンスターには生産性が乏しいという事だろう。オーク程度になればわずかながら生産技術を持っているが、それは自給自足とは程遠い。人間の真似事をして粗末な模造品をこさえたり、人間から奪ったり拾った物を改修する程度だ。それ以下のゴブリンやコボルドとなれば、もう論外である。
もし俺が人間の技術を伝えれば、モンスターでも自給自足の生活が可能になるかも知れない。けれど、必要以上に知恵を付けたモンスターが、人間に悪影響を及ぼす危険性はそれ以上にあった。
「それと、これだけは間違いの無い事ですが……。」
村長が口を開いた。
「我々は、ずっと以前からここで暮らしております。自然との付き合い方は心得ているつもりです。だから、決して取り過ぎると言う事はいたしません。掟を破っているのは、あなたが成敗なされた様な外部から来た者達です」
村長の言う事はもっともだった。鳥獣でも山菜でも、乱獲は数を減らす。それを知っているから地元の者は決して取り過ぎる事をしない。俺がやっつけた様な、外部からやって来て密猟を行う奴らの仕業である。
「しかし、範囲を超えた樹木を伐採して森林を焼き払い、田畑を開墾して広げているのは事実だと思います。それによって、動物の数が減っているのは間違いの無い事では無いでしょうか」
俺がそう言うと、
「それに関しては、私が直接確かめた訳ではありませんので、何とも言い様がありません。あくまでも、それを生業にしている者の自主性に任せている次第です」
そう村長は答えた。
「だとすると、可能性は2つですね」
俺は村長に言った。
「可能性、ですか」
「ええ」
俺は言葉を続ける。
「1つは、この村の住民が不当な伐採をしている可能性。もう1つは、余所者による盗伐です。余所者が勝手に木を切って持ち去っている可能性です」
木と言っても、その種類は様々である。薪にする程度でしか役に立たない物から、工芸用や高級木材として高い価値を持つ物まで色々ある。伐採者の中に金に目がくらんで不正に手を染めた者が居るかも知れないし、高い価値の樹木を勝手に伐採して持ち去る輩が居る可能性の2つを、俺は指摘した。
ただ、俺がやっつけた賊のアジトには、盗伐したと思われる木材やその痕跡が無かったので、その点では奴らはシロだった。
「一度、山での開発状況と、伐採の報告などを確認してはどうでしょうか」
俺が提案すると、村長は困った顔をして言った。
「そう言われましても、何も形になるものでは残っておりません。あくまでも実際にやっている者の自主性に任せております故に」
これは、田舎特有の管理の甘さというやつだろう。こんな辺鄙な集落には役人も常駐していないから、正式な条例や書類による取り決めも無い。あくまでも、全ては口頭による注意と口約束だけで話が進んでいるのだ。実行している者が虚偽の報告をすればそれで終わりなのである。
「解りました。それでは、山で仕事をしている人達が戻って来たら、一度はっきりと確認して下さい。その上で事実の確認をなされると良いでしょう」
俺はそう言うと、これ以上の用件が無い事を村長に伝えた。
「そうですか。ところで、あなたは一体どういう方なのですか」
村長からそう尋ねられたので、
「普通に山で暮らしているだけの、『こういう存在』ですよ」
そう言って、俺は村長にだけ見える様にバグベアの赤く光る眼を見せた。
「ひ……!」
村長は腰を抜かさんばかりに驚き、俺が家を出るまではずっと無言だった。ある意味で、俺のこの行動は人間への「脅し」だった。「これ以上人間が山を荒らすと、ただではおかないぞ」という意思表示だ。
「おじさーん、またねー!」
村長の家を出ると、少女が手を振って見送ってくれた。
俺は手を振り返して別れを告げると村を離れた。そして、隠してあった武器を持って住処へと戻った。そして、再び出かける準備を始めた。今度は伐採や採取をやり過ぎる犯人を捜す為である。
結果的に、モンスターの生活圏を守る為に人間と対立する事になるが、元々非があるのは人間側であるし、人間のルールに当てはめても悪い事であるのは明白だ。
結局、俺が警告したにも関わらずその通達は回っていなかった様で、俺は村の者と思われる、盗伐をしていた木こりを2人とっ捕まえて縄で縛った。木こり達は仕事用の斧を持っていたが、俺の姿を見るなり大慌てで斧を捨てて逃げようとした。
「お前達は、あの村の人間か?」
俺は、なるべく穏やかに話しかけた。
「は、はい、そうです」
木こりの1人が答えた。
「そうか、解った」
「た、助けて下さい。どうか殺さないで……」
木こり達はそう命乞いをしたので、俺は殺さない事だけを約束すると、そいつらを縛ったロープの端を持ち、引きずる様に連れて行った。どこへ行くかと言うと、オーク達の待っている洞窟へ連れて行くのである。ただし、見せるだけでもちろんオーク達にも殺させはしない。俺の狙いは、人間達の恐怖を煽る為である。その為に良い演出になるだろう。
少し慌てて仕上げましたので、おかしい所などがあれば修正して行きます。




