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勘違い勇者だった俺が、モンスターとなって復活して立身出世  作者: 夜の狼
第二章 最下層からの脱却
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大義名分

 俺は、少女を背負って午前中ずっと歩き続けた。無理矢理連れて来られた時と違って、帰り道の少女はこれから家に戻れると思うと、うれしそうだった。

 心にも余裕が生まれたのだろうか、自分では来る事が無かったであろう森の中を、あちこち見回している。

 背が高いバグベアの俺に背負われて、普段は手が届かない場所の枝などにも手が届く様になっている為、少女はどんぐりの付いた枝などを折り取ると、それをうれしそうに持っている。

「あまり変な物を触らない様にね」

 俺は少女にそう声をかけた。毒蛇にでも手を出されたら困るからだ。

「はい、おじさん」

 少女はそう返事をしたが、子供は好奇心には勝てない。俺が注意して、あまり変な所は歩かない様にしないといけない。

 昼に一度休憩を取った後、夕暮れ近くになって少女が騒がしくなった。

「ねえ、おじさん。私の村が近いの!ここからなら私でも解るわ!」

「そうか、それは良かったね。では、村が見える所までもう少し歩くから、お嬢ちゃんには道案内を頼めるかな」

 俺はそう言うと、背負子から少女を降ろした。

「うん、それじゃ付いて来て!」

 少女はそう言うと、歩くと言うよりは走り出した。しかし、山道は足元が悪いし俺とは歩幅が違うので、あまり差は広がらない。

 どうやら、ここは今まで俺がモンスターとして過ごして来た場所とは、全く違う場所の様だった。村が近いのに、景色に全く見覚えが無いからだ。

「ほら、あそこが私の村よ!」

 少女が指差した先には、やはり見た事が無い村があった。

「それじゃ、おじさんはここまでだ。早く帰って無事なお顔を見せてあげなさい。それと、ここに大人を呼んで来なさい」

 俺がそう言うと、

「おじさんは一緒に来ないの?お父さんとお母さんもきっと喜ぶわ。是非お礼がしたいって言うと思うの」

 少女がそう言ったが、

「前にも言ったけど、おじさんは人前に出られないんだよ。一緒に行ったら、きっと村中が大騒ぎになってしまうからね」

 俺はそう言うと、背負子も降ろした。

「解った、それじゃあ待っててね!」

 少女はそう言うと走り出した。俺はその後ろ姿を見送る暇も無く、荷物から筆記具を取り出して置き手紙をした。

 時間が無いので内容は簡潔にまとめた。少女が賊にさらわれたのを、偶然助けた事。この荷物は賊が持っていたもので、そのまま進呈しんていする事。そして、賊のアジトがあまり遠く無い所にあるかも知れない事や、密猟者や性質たちの悪く無い者が他にも居るかも知れない事、最後に、山の中が危険になっている事などを書いておいた。

 そうしておいて、俺は急いでその場を離れた。他の人間に見つかると厄介な事になるからだ。子供と違って、大人は俺がモンスターである事をすぐ見破るだろう。まさか、モンスターが子供を助けて連れて帰ったなどとは夢にも思わないはずだ。そうなれば争いになる。出来れば無用な争いは避けたい。

 俺は、弓矢と剣を一揃いと、残った水袋と食糧、それに役に立ちそうな道具はそのまま頂いて行く事にした。持ち切れない弓矢や剣などの武器に加え、テントや動物の毛皮などは全て置いて行く。

 少女にうそをついて、ここで待たない事を心の中でびながら、俺は森の中へと姿を消した。


 2日程も歩くと、俺は見慣れた自分の住処すみかへと戻って来た事を知った。久しぶりに帰った俺の岩穴は相変わらずで、当然だが誰も来た形跡が無かった。

 余った食糧は戻って来るまでに食べてしまっていたので、俺はまた日々のかてを得る為に苦労せねばならなかった。

 俺は、例の水源となっている小さい滝で水袋に水を詰め直すと、その流れを辿たどって行く事にした。小さな流れは、いずれ大きな流れにつながっているはずだ。

 俺はこれまでに、あまり川の事は考えてなかった。何せ、起きた事に気を取られ過ぎていて、そんな事まで考えが回らなかったのだ。これまでにも川は見て来たと思うが、いかんせん覚えていない。

 まさか、ベリアルが言った通り、頭の中までバグベアになった訳ではあるまい。俺はそれを思い出して苦笑した。

 滝からの流れを辿ると、やがて小川に行き着いた。しかし、これでもまだ不十分だ。俺のすね程度までの深さしか無い様な流れには、小魚やサワガニなど、食べられそうな生物は何も住んでいない。

「もう少し、大きな流れに出なければ」

 俺は、さらにその小川を辿った。そのうちに斜面が段々と緩やかになって行き、小川は谷川へと合流した。

 大小様々な大きさの岩が転がっていて、川はその間を縫う様に流れている。川幅は2メートル、深さは1メートルくらいはありそうだ。谷川なので、幅の割に深さがある。

 けれど、これなら食糧になりそうな水棲の生物が居るだろう。俺は岩をつたって川岸まで降りてみた。岩はいずれも段差が高いし、川は岸から急に深くなっていて、うっかり入ると上れそうにない。簡単に人が踏み込めそうな場所では無かった。

 だが、それだけに魚影は濃くて、水棲生物も豊富そうだった。しかし、俺にはどうしようもない問題があった。

「漁具が何も無いのだ」

 魚を釣る道具も無ければ、網を始めとする魚を捕らえる道具が何も無いのである。よって、今はただ見ている事しか出来無いのが、何とも悔しい。

 仕方が無いので、とりあえず木の実など手に入る物を寄せ集めて食事にしたが、バグベアの巨体を維持するには、どうしてもそれなりのまとまった食べ物が必要になる。

 そこで俺は、自分の住処へ戻ると荷物を整理して出かける準備にかかった。今の俺は、まだ自分の住処の事を知らな過ぎる。周囲の調査をもっと行えば、この状況を打開する案が浮かぶかも知れない。

 どうしても食糧は行き当たりばったりの入手になるが、水だけは持って行く事にして、後は弓矢と剣、そして筆記具を荷物に加えた。何か書く物があれば色々役に立つからだ。剣は元々人間用なので少し小さいが、振り回すだけならバグベアの腕力であれば楽勝だ。

 俺は森と言うよりは、すでに山の中と言って良い場所を数日間歩き回って、あちこち調査した。そのうちに、何か人間の臭いがするのを感じて、その方向へ歩いた。すると、岩肌に俺が暮らしている様な入り口の洞窟を発見した。しかし、奥行きが少しありそうだし、その周囲には掘っ立て小屋に近い作りの馬小屋などもあった。やはり、賊のアジトはあったのだ。


 俺は、まず離れた場所から出来るだけ姿を隠して様子を見た。バグベアの巨体が、こういう時は恨めしい。せめてものカモフラージュに、周囲の木の枝を折って持ってみたりしたが、まるでジョークの様な格好なのでやめた。これでは逆に目立ってしまう。

 とりあえず、暗くなるまでは様子を見続けた。バグベアは夜目が利く、日が暮れれば圧倒的に俺が有利になる。すると、出かけていたであろう連中が何人か戻って来た。何をして来たのかは解らないが、背負子しょいこを背負った徒歩である事から、近くでまた密猟でもして来たのだろう。

 俺がこの前始末したのは5人だが、酒でも飲んでいるのか中からする騒ぎ声の感じだと、このアジトにはまだ10人くらいは居そうだ。狭い洞窟の中だと俺のでかい図体は邪魔になるが、さりとて広い野外になれば数の多いあちらが有利だ。

 考えた末、俺は夜襲をかける事にした。見た所、この洞窟を利用したアジトは、他に抜け道なども無さそうだ。出入り口から逃走を許さなければ、文字通り袋のねずみだろう。

 俺は、奴らが寝静まるまで待った。おそらく見張りは2人より多い事は無いだろうから、襲撃の機会はその時になる。

 案の定、騒ぐ声が収まると洞窟の中の明かりが消えた。そして、洞窟の出口の両側に見張りが1人づつ出て来ると、焚き火たきびを始めた。同時に、酒びんを取り出すと栓を抜いてその中身を飲み始めた。完全に油断している様だ。もっとも、こんな所に襲撃者なんて、普段は考えもしないだろう。

 俺は、中が完全に寝静まるのと、見張りに酔いが回るのを待った。夜半時くらいになると、見張りの片方はうつらうつらし始めたが、もう片方は割と真面目に見張りをしていた。実はこいつは、あまり賊には向いていないのでは無いだろうか。

 さて、真面目な奴を最優先で片付ける為に、俺は弓矢を構えた。俺が作った粗末な物に比べて、人間の作った物はさすがに使い勝手が大分マシだ。

 周囲の闇と焚き火の明かりで、あちらからは完全に俺が見えない。俺は弓矢を構えながら出来るだけ近寄って矢を放った。

「ひゅん」と風を切る音を立てて、矢は狙い通り真面目な見張りを貫いた。声も上げずにそいつは倒れて、洞窟の入り口の壁にもたれかかった。酔いが回ったもう片方を始末するのは簡単だった。

 俺は見張りの死体を片付けると、様子を探りながら洞窟の中へと進んだ。中は暗かったが、俺には何の問題も無い。少し進むと小さいが焚き火の残り火と思われる明かりがあり、ちょっとした広間になった場所で、賊が数人で文字通り雑魚寝をしていた。みんな酒が回っているのか、いびきをかいて寝ている。

 俺は腰の剣を抜くと、ゆっくりと寝ている賊に狙いを定め力を込めて突き刺した。

「がふっ」

 さしたる悲鳴も上げずに、俺の一突きで賊は絶命した。俺は間髪入れずに寝ている全員を剣で殺そうとしたが、中には妙に勘の鋭い奴が居て、飛び起きるなり叫んだ。

「誰だ、てめえは!?」

 しかし、誰だと言われて「バグベアだ!」と答えるはずも無く、俺は剣を振って刃に付いた血を払った。

「ば、化け物だ~!」

 暗闇に浮かぶ、俺の目を見てそいつは仰天して叫んだ。夜行性の動物と同じく、俺の目は暗闇では赤く光って見える。まあ、実際に化け物モンスターだからそれは否定しない。

 そいつが叫び声を上げている間に、俺はそいつを足で蹴飛ばして踏ん付けた。そして、躊躇無く上から剣で刺し殺した。

 その頃には、叫び声を聞いて奥から残りの賊もやって来たが、俺の赤く光る目を見ると、一様に立ちすくんだ。俺はその隙を見逃さずに襲い掛かり、おそらく頭領だと思われる奴も含めて、3人程を全て斬り殺した。

 俺が容易たやすくこの掃討戦を実行出来たのは、ある意味で当然だが完全に賊が油断していたのと、奴らに酒が入っていたせいだ。俺は、殺した賊の死体を全て外に運び出すと、洞窟の中を調べにかかった。焚き火を大きくして中を明るくすると、あまり大きくは無い洞窟の分かれた部屋を隅々まで確認した。

 どうやら、賊は本当にこれで全部の様だ。また、近くに水源が無いのか、水は水瓶みずがめに溜めてあったし、食糧も保存が効く物ばかりだった。

 後は、これまで悪さをして貯めたのだろう、いくばくかの金貨があったが、今の俺にそんな物は意味が無い。

 次に俺は馬小屋の中を見た。小屋には数頭の馬と、その馬に与える飼葉かいばや世話をする為の農機具があった。

 俺はシャベルを手に取ると外へ出た。そして、洞窟の入り口から少し離れた所に穴を掘り、埋める前に賊の死体を漁ったが、ろくな物は何も持っていなかった。

「なんだ、しけてるな」

 どちらが賊だか解らない言葉を口にすると、俺は引き続きアジトの整理にかかった。

 今の俺はモンスターだから人を殺すのは当たり前だし、こいつらは悪い奴だから、どちらにしても俺には大義名分がある。この「大義名分」とは、実に便利な言葉だと思う。だから、良くお偉いさんも使いたがるのだ。そんな事を考えながら、俺は洞窟の中へと再び入って行った。

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