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うつけ殿、石拾いをする

石合戦のネタ続きです。

さすがにキャラを詰め込みすぎたので、描写不足はご容赦ください…

 それまで気にしなかった何かが、重要な意味を持つことがある。

 俺にとっては「石」だ。

 理由を説明するには涙なくして語れない事情があるので、ここでは割愛する。

 どこにでもある石、されど石。磨けば光り輝く宝石。野ざらしにされても拝んでもらえる墓石。城を支えたり、川の流れをせき止めたりする大石。

 石は身近な存在だからこそ、様々な用途に使われる。

「というわけだ。皆で石拾いをするぞ!」

「「「「おーっ」」」」

「お義姉さま、こうです。おー!」

「こ、こう? おー」

 お市に教わって、ぎこちないながらも気勢を上げる帰蝶。

 うーん、癒されるなあ。

 今回は女衆も加わっているので、とても華やかだ。実に素晴らしい。去年までの農作業といえば、むさい野郎どもがあくせく働いているのを眺めているだけだった。

「だが、今年の俺は違う!!」

「…………」

「お兄様はあれが、通常ですのよ」

「うん、いつものノブナガ」

「そう」

 嫁の冷ややかな視線も通常運転。むしろ、ヤル気が出る(俺限定)。

「大きい石は力自慢が担当。小さい石でも複数持ったら落とす危険があるから、大量に抱えようとするなよ。石が当たったら痛いんだからな。すごく痛いんだからな!」

「信長様、やけに実感がこもっとるのう」

「殿は参加していなかったはずだが」

「いや、怪我人の治療には参加してただろ。それじゃね?」

「皆の痛みも我がものと感じる信長様! そこに痺れる、憧れるゥ!!」

「…………こいつはもうダメだ」

 とまあ、賑やかな面子でお送りする石拾い大会。

 元舎弟たちと俺の兄弟、嫁に村の民たちも総動員である。那古野村なら全員と面識があるので、和気あいあいとした雰囲気に顔が緩む。平和っていいよなあ、うんうん。

 泥で汚れてもいいように、木綿の着物で揃えている。

 お市と帰蝶の変装してます感がすごい。そして兄弟たちの違和感のなさに戦慄すら覚える。三十郎と九郎なんかは、いつの間にか専用作業着を作っていた。

 邪魔にならないように袖に掛け紐をして、裾をまくりあげる。

「って、ダメだダメだー!! 全員こっちを見るな。今すぐ、記憶から消せ。でなきゃ目をえぐれ! お濃は石拾い免除。着物直して、そこで見張る役しとけっ」

「嫌」

「ダメったらダメ! お濃のあんよは、俺のなのーっ」

「あらあら、お兄様ったら」

「……相変わらず、信長様は奥方様のことになると壊れるよな」

 結局、俺が折れた。

 帰蝶は一歩も譲らなかったのもあるが、あろうことか我が妹をはじめとした女衆がこぞって彼女の味方を始めたのだ。皆で固まれば恥ずかしくないから大丈夫とか意味が分からない。

 むしろ危険度が増していることに、何故気付かんのだ。

 苦肉の策として、男衆と女衆の間には藁の柵を設けることにした。

 帰蝶たちが小さな石を拾い尽くしたら、場所を交代する。小さな子供は保護者が必要なので、男女の区別は適用しない。お市が普通に俺たちのエリアで石拾いをしようとするので、乳母に連行してもらった。

「はなしてー! お市はまだお兄様の保護が必要なのっ」

「もう大人なのだと口癖のように仰っているではないですか」

「裳着が終わっていないから、子供だもん」

 実に都合のいい理屈である。

 駄々をこねる姿は弟たちには見慣れたもので、付き合いの長い源五郎や幸も放置を決め込んでいる。非常に後ろ髪を引かれる思いをしながら、俺もそれに倣った。

「兄上、既に耕地として使っている田畑の石を拾う理由を教えてください」

「三十郎か。いい質問だ! って、又十郎寝るな! たたき起こせっ」

「いえ、僕が質問しているのは三郎兄上の方で――」

「このすべらかな手触り、いい枕になりそう」

「持ち帰る?」

「ぜひ」

 恍惚とした顔で石を抱きしめる又十郎を見やり、九郎が額を抑える。

「彦七郎、そこは止めようよ。いくら何でも持ち帰るのは大変だから」

「うん。源五郎も草を集めていないで、石拾いに参加しような?」

「適材適所です、三郎兄上」

「いいから私の話を聞けえぇー!!」

「聞きます、聞きますから。落ち着いてくださいっ」

「きゃあああっ、お兄様! たすけてください! 茶色のうねうねが、うねうねがっ」 

「お市、わざとらしい悲鳴を上げないように。慣れてるでしょう」

「相変わらず、女心の分からない人ねっ。源五郎、草を集めていないで石を集めなさい」

「あなた、集まった石はどこに運ぶのかしら」

 いつの間にか、柵の前には石が山と積まれている。

 せっせと運んでいる奴らに労いの言葉をかけてやらなくてもいいのだろうか。石の貢物とか聞いたことない。宝石も石だから、ある意味で原始的な貢物といえなくもない。

 二人の人気が予想以上だったというだけだ。

「片手で持てる小さいのは台車に、大きいのは…………おーい、五郎左」

「貴様ら、いい加減にせんかあ!!」

「うぼっ」

「ぎゃっ」

 キレた長秀は舎弟たちの中で一番手に負えない。

 いつものように喧嘩を始めた犬松コンビの頭を掴むなり、勢いよくぶつけた。普通に拳骨を落とされるよりも酷い。短い悲鳴を上げた後、それぞれ泥の中に沈んだ。

 いかん、人数が多すぎる。

 明らかに那古野村の民じゃない奴らが混ざっているのだ。また何かやらかすと聞いて集まってきたと教えてもらったのは石拾いも終わった後のことで、俺はあちこち呼ばれては走り回る。

「三郎、私と勝負だ!」

「忙しいんだよ、話しかけんなっ」

「…………」

「の、信広兄上。僕たちと勝負しましょう? ほら、元気を出してください」

「ぐー」

「兄上、又十郎が起きません」

「お前は石の上にも三年寝太郎か!?」

 石拾いは早々に終わったが、又十郎の通称が一つ増えた。


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