224・232話没部分
(225話ボツ分 鳥居強右衛門が駆け込んでくる直前の会話)
――信直(義信)のことを語る台詞の後、しばらく沈黙して――
「大丈夫だよ、三郎殿。おつやに頼まれたから」
「え?」
「織田を守れって、さ。惚れた女の最期の願いくらい、しっかり叶えてあげたいじゃないか。そうしないと、笑って逝った彼女に怒られる」
「お前、おつやに怒られるのだけは嫌がってたもんな」
「怒った顔も可愛いんだけどね」
「美人が怒ると迫力あるよな」
「爪の手入れを一番丁寧にするの、引っかくためなんだよ?」
「猫かよ」
「三郎殿にも、すごく懐いてたよね」
「やめろ。俺は嫁一筋だ。叔母として好きだったのは、否定しない」
「おつやは可愛いから仕方ない」
「お濃の方が可愛い。……まあ、かわいい人だったな。それは、認める」
「うん」
信純は俯き、俺は空を仰いだ。
どちらともなく話さなくなったが、口を開く気にはなれなかった。震える唇が嗚咽を洩らしそうで、そんなのは嫌だと思ったからで、故人を悼むために泣くのは相応しい場所と時を選びたかったからで。
泣いたら、戦えなくなる気がした。
武田の兵に罪はない。織田の兵にも、徳川の兵にとってもそうだ。俺たちの我儘で、統治者たちの都合で、また多くの人が死ぬ。俺もまた人を殺す。勝つために。
それが乱世だ。そんな時代が、俺は嫌いだ。
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(232話ボツ分)
オッス! 俺、ノブナガ。
末娘が生まれたばかりだというのに上洛しているんだが、これはもう秀吉を太閤にするしかないんじゃないだろうか。家から出たくない。ニートになりたい。城に引きこもって仕事するから、外でのアレソレは全部丸投げしたい。
もう抱えきれないくらいの仕事を側近連中に任せているので、さすがにやらんけど。
織田家はブラック企業じゃないよ、ホワイトだよ!
ちゃんと休暇も与えているし、保育設備も完璧だし、労災保障の明確な規定がないだけで家臣を大事にするのがモットーな織田弾正忠家。戦争孤児が手に職を得て、立派な諜報員に成長しちまったりするけど、繁忙期の勘定方からあやしげな音がすると噂になったりもするけど、織田家はホワイトだよ!!
「なあ、藤孝」
「何でしょう、信長様」
「美濃尾張って、畿内よりも進んでる?」
「仰る意味が分かりかねますが。信長様の故郷が抜きんでて豊かであることは、誰の目にも確かであると断言できますね」
「Oh,no」
思わずアメリカンなポーズをしてしまった。
家康が整備した江戸の町もさんざん大火で燃えまくったらしいが、京の町もよく燃える。木造建築なことも一因しているが、耐火設備がなっていないからだ。燃える度に新築するから最新の建築技術が使われるんじゃないかと思うだろ。違うんだぜ。
どうせ燃えるから、手抜き工事になる。
スカスカなのでよく燃えるし、壊しやすい。延焼を防ぐためなので壊しやすい構造は利点もあるわけだが、燃える前提だから手の込んだ建物は洛外に作らない。だったら洛中はきちんと作っているのかという話になるが、貧乏すぎてそれどころじゃなかった件。
(そりゃあ、ありがたがられるわけだわ)
幕府が傾いていたのも、慢性的な金欠が原因だったらどうしよう。
銭ゲバ女な三大悪女・日野富子が貯め込んだ多額の金は一体どこへいったんだか。俺が転生者なせいか、バリバリのキャリアウーマンが当時の幕府を何とかしようとして周囲の反感を買っただけのような気もしてきた。
時代にそぐわない思考って、異端視されやすいんだよなあ。
「ところで藤孝」
「何でしょう、信長様」
「正倉院に入ってみたい話が、なんで最高級の香木おねだりした話になっているのかが、俺には全く理解できないんだが」
「蘭奢待は正倉院に秘蔵されておりますよ」
「中に、入りたいんだよ、俺は!!」
「いずれは許可をいただけるかと」
天皇家が所有している宝物庫なので、天皇の許可がないと無理。
にっこり微笑む細川様が「帝と仲良くしなさい」と言っているように見えるんだが、きっと気のせいだろう。こいつは、俺が権力嫌いなのは知っているはずだ。上洛したくないと逃げ回っていたの、官位なんていらないと騒いでいたのも知っている。
「失われた秘伝がそこにあるのでしたら、多少の譲歩は必要かと存じます」
「ううう」
くそう、何でもお見通しか。ガラスの製法が、そこにあると知っていての嫌味か。
細川様をはじめとする一部の奴らは、どうしても俺を「天下人」として世に知らしめたいらしい。確かに一領主として他国との交渉を試みるよりも、無用な戦を避けられるかもしれない。腹の内はどうあれ、目上の人間と正面切って喧嘩を売るのは馬鹿のやることだ。俺がどうしようもない独裁者で暴君ならともかく、多くの民に支持されている織田家と喧嘩したい奴はいない。
たぶん、きっと。そうだといいなっ。
「京よりも奈良観光したいなー。神社仏閣を見るなら、あっちの方が」
「はいはい。帝との謁見が終わってからにしてくださいね」
「いぎだぐない」
「山科様、最期の願いだと押し切られたのにまだ抗いますか」
「あのジジイはまだ長生きするだろ」
山科卿が死んだら、誰が朝廷との橋渡しをするのか。
もうすぐ死にそうな人間がホイホイ山越えして、岐阜城まで来られるわけがない。お冬は久しぶりに会えて喜んでいたので、まあ良しとする。永姫にも祝いの品をもらってしまったし、やっぱり気遣いの出来人は違う。
そんな山科卿に「是非に」と言われ、俺は渋々上洛した。
俺よりも家臣たちに官位を授ける話は通ったが、褒美の件は別だとか何とか。織田家臣団を取りまとめる現当主として、幕府の代わりに今一番力のある武家の頭領として、朝廷に顔を出すのが筋である云々。
心配しなくても朝廷に弓引いたりしないっつの。
昔、天啓を受けて天皇になりかわっちゃると叫んだ武将がいたらしい。俺の場合、俺自身が望んでいなくても周りが神輿として担いでくる可能性がある。悲しいことに否定できないんだなあ、これが。
今回の同行者、細川藤孝さんがその筆頭であるからして。
今孔明すら諦めたのに、なんで諦めないんだコイツら。
「藤孝」
「はい、信長様」
「人の一生は短い。人生五十年で、やれることは僅かだ。時代を変えようとするなら、一人の力では不可能。大きな流れを生み出すのは、それこそ大衆の力だ」
「信長様?」
怪訝そうな声は光秀だ。朝廷に認めてほしい案件があったので連れてきた。
去年、東美濃の岩村城が落ちた遠因に明知城がある。同じ東美濃にある明智城とは無関係で、光秀は明智城の城主とどういう関係なのかは知らないが。細川様が「惟任姓」を勧めてきたので、これに乗っかることにしたのだ。
姓(の音)が同じだからって、信純にイジメられたら可哀想だしな。
「俺を担ごうとするのはやめろ。俺は天下人になれる器じゃねえんだ」
今、ようやく理解した。
沢彦は、俺に大器を見出した。このクソッタレな世を、乱世を変えることができると考えた。人の短い人生では到底不可能なことをやり遂げるには、人間のままでは無理だ。
日ノ本の再生。
圧倒的な力で全てを焦土に変え、一から国を作り直す。
『三郎殿が壊れる』
信純は言い得て妙だ。
あの時は何も考えずに否定したが、確かに沢彦は俺を壊したがっている。甘い考えも、人を慈しむ気持ちもいらない。もっと苛烈に、冷酷に、無慈悲に、乱世を破壊する。
民や家臣たちの心は次第に離れていくだろう。
裏切りに謀反が起きれば粛清し、一揆は徹底的に弾圧し――。
「そんな天下、クソクラエだ」
秀吉は天下人になってから変わった。どうして変わったのかを俺は知らない。
俺が知る秀吉は人誑しな猿で、嫁に頭が上がらなくて、町の環境改善のためなら下水の掃除だって率先して行う。そんな奴だ。
俺が天下人になったら、俺は嫌な奴に変わってしまうかもしれない。
「だから藤孝、十兵衛。俺を『天下人』なんて呼ぶな。その名にふさわしい奴は、これから現れる。日ノ本を一つにまとめる手助けくらいはするが……、頂点に立ちてえとは思わない」
「皆がそれを望んでいても、ですか」
「是非もなし」
これ以降、二人が「天下人」について話題にすることはなくなった。
前半:おつや殿は可愛い!!(全力主張)
後半:光秀の謀反ゲージが上がった!(没理由はグダグダ感)




