61話冒頭 ボツ部分
本編60話の続きとして書いたものですが、61話が前後分割になってしまうのでカットした部分をセルフ供養。
HENTAI出没注意
信行が今にも泣きそうだ。
縋るような目で見つめられるのは初めてで、俺の方が動揺してしまう。秀才君は不意の出来事に弱いと聞いたことがある。信行も天才肌ではなく努力家の秀才だ。
「大丈夫だ、信行。何も怖くないから」
「そうですね……僕には女装も似合いませんし」
「おい! どういう納得の仕方だ、それは」
「あまり騒がない方が身のためですよ。とりあえず離れへ来てもらいましたが、騒ぎが広まるのも時間の問題だと思います」
頬がひくりと動く。
フラッシュバックしたのは、葬儀の風景だ。政秀のは見ていない。俺が前世を通じて見たのは一度だけ、親父殿が亡くなった時だけだ。
『あれは人でなしじゃ。ばけものじゃ!』
錯乱した女のしゃがれた声、宥めようとする年若い男の声。
どうでもいいと思っていた相手のなじる声が、どうして頭に響くのだろう。いつまでも忘れられないのだろう。あれから二年になる。そうだ、三回忌も務めなければならない。
「あなた、しっかりなさい」
「……っ」
「名を言えるかしら」
「俺、ノブナガ。上総介信長」
「違いますわ、お姉様。その姿でいらっしゃる時はおノブ様、あるいは大野様でしょう?」
「あ、うん」
これが両手に花というやつか。すごく元気が出る。
「信行」
「はい、あに……姉上と呼んだ方がいいですか?」
「だが断る」
「そ、そうですか。残念です」
何故か、しょんぼりとされた。わけが分からない。
俺たちの間に横たわっていた大きくて深い溝に、多少なりと変化があったのは確かだ。信行の表情から陰りが失せていた。ここにきて、やっと「信行」自身を見つめている気がする。
立ち上がって近づいて、頬に触れた。
「兄上?」
こうして触ったのも、どれくらいぶりだろう。
思い出せないくらい、昔のことだ。
「お前って体温、低いのな」
「あ、兄上、胸が当たっています。固いです」
「ふはははは、存分に味わえ。男の胸だぞ!」
「味わいたくないです、やめてくださいっ」
じたばたと暴れる信行を、力任せに抱きしめる。
れっきとした実の兄弟の抱擁だ。何も恥ずかしくないし、どこもおかしくはない。俺はだんだん興が乗ってきて、かなり本気で嫌がる顔にすりすりした。
直後、火花が散る。
「お、お濃……マジ、痛い。これ、本気で痛い」
「そう? よかったわ」
ハリセンを持つ女神像が、ぱしんと手を打った。
記念すべき処女作は使い込まれて、独特のしなりを得たようだ。本来の素材が厚手の和紙だと分からない質感になっている。
頼むからお市、目を輝かせるんじゃない。




