あなたに会いたくて 2
まだ美月の回想は続きます。
やがて、学園祭の準備が始まる。一年生はクラスごとの企画と夏休みの宿題を纏めた企画の二通りに分かれる。私は友達と一緒にクラスの企画の担当をしていた。
いきなり、高等部の先輩が私を呼び出してきた。手伝いをしていた作業を中断してい私は、廊下に出る事にした。
「安永ってお前か」
「はい」
「英語は完璧なんだろう?」
「中等部の中ではそうかもしれませんが」
「それだけ強気に言えるのなら問題ない。高等部の手伝いに借りていくぞ」
そう言って私を掴んで高等部の方向へずるずると引っ張られてしまった。
「あのっ、私歩けます。引っ張らないでください」
あまりにも腕を掴まれて痛いから私は訴える。
「悪い。ちょっと急いでいてな。申し訳ない。先に頼んだ中等部の助っ人が安永もいたらもっと楽になるから引っ張り込んでくれって言われてな」
英語が出来る私を知っている中等部の人は知らない人はいないだろう。
英語検定を受けてみたら?と誘われたのですうちゃん先輩に誘われて一緒に受けた。
一番数字が小さいからそこからスタートと思っていたら、大学生でも難しいクラスって後で知った。すうちゃん先輩は私の受けた下のランクだった。
結果的に合格したのだけど、一回で合格するのは本当に難しいんだって。
だったら、皆に合わせても良かったのにね。それ以来、私=英語と思われている。
文法はやっぱり日本語で説明するのが難しいけど、ルールだから覚えるって言うとなんとなく分かってくれるようになった。ルールっていい言葉だよね。
私は、学園祭実行委員会と書かれた教室に入る様にと促された。
入るとそこには見慣れた二人がいたのだった。
「ミッキー。元気だったか?」
「徹先輩。すうちゃん先輩も。何しているの?」
「学園祭本部のお手伝いなの。私達も始めてだから勝手が分からなくって……」
二人も何かがあって連れて来られたようだ。
「呼んだのは僕だよ。美月ちゃん、久しぶり」
「薫!!薫がどうしているの?」
私の方に手を乗せた薫は私達を見て笑っている。これから何が起こるんだろう?
「今年の学園祭本部の企画は、日本文化を体験して貰うことにしたんだ」
それから、学園全体の乗っている地図を見せてくれた。
「大学部は、学術的な後援会を国文科の教授が中心に計画してくれてて……その時の同時通訳者を探しているんだ。美月やってくれないかい?」
「そんなの私無理」
薫ができるでしょう?って顔をしているけど、そんな大それたものなんて無理だよ。
「こないだの英検で1級に合格したのは、学園全体で美月一人だけなんだ。すうも今回は一級を受けて貰うけど、あっちの生活が長い美月の方が適している様な気がしてな」
「すうちゃん先輩達は?」
「すうと徹は中等部の茶室でお茶の講習会をうちのばあさんと一緒にやってもらう」
「そうなんだ。一緒にはいられないの?」
「ミッキー、不安なのか?だったら打ち合わせには一緒に行ってやるよ。すうもいいだろう?」
「忙しくなければいいわよ。私の方は、パンフレットの英訳とかそう言うのも同時進行だから徹君と一緒なら安心ね。それでいいでしょう?薫君?」
すうちゃん先輩は、薫先輩に確認をしている。
どうやら、この文化交流部門の責任者は薫が行っているようだ。
「分かったよ。徹、美月ちゃんを頼むぞ。すう……ちょっといいか?」
そう言うと、すうちゃん先輩は薫先輩と一緒に何処かに行ってしまった。
「二人が気になる?」
「ちょっとだけ」
高等部の先輩が私に話しかけてくれた。
「あの三人は面倒くさいのよ。すうちゃんは薫君が好きで、徹君はすうちゃんが好き」
「薫は?薫は誰が好きなの?」
私が問いかけるとその人は、寂しそうに笑う。
「私もあなたみたくストレートに聞けたら良かったのかしら?薫君はここ数年、特定の彼女はいないわ。ああいう人だから人は多く集まるけど、決して一定のラインを超す人は今まで見た事はない……それで答えにして貰ってもいいかしら?」
薫は……誰も好きではない?何かに対して壁を作っているという事?
「その壁を壊す人が誰なのか、気にはなるけど……私大学部には進学しないのよ」
「他の学校に行くんですか?」
「違うわ。婚約者がアメリカ赴任になるから着いて行って向こうの大学にいくつもりなの」
その人の左手には確かに輝く指輪がついている。
「そうなんですか。おめでとうございます」
「ねえ、偶然とはいえ知り合えたのだから、こうやって会えた時にあっちの生活で日本人が注意した方がいい事教えて貰ってもいいかしら?」
先輩は私の手を握ってくれる。あっちで日本人が苦労すること……根本的な文化の違いかな。
「いいですよ。私の経験で良ければ……子供目線ですけど」
「それでいいのよ。私の英語力なんてその位だもの」
私はすぐにする事がないみたいなので、先輩達を相手にアメリカの文化の話をしたりしていた。
「ミッキー。大丈夫か?」
「無理。凄く緊張する。粗相をしたらどうしよう」
「アメリカ育ちで来日半年のレディが粗相した位で目くじらを立てる教授ならどうにかしてやる」
「徹先輩、何か変なことするの?」
「お前が気にする事は一切ないぞ。不安な事は俺に全て聞け。いいな」
学園祭まで後十日になった時、徹先輩と一緒に大学部の校舎にやってきた。
パパの職場でもあるけど、来た事のない空間に私はびくびくしてしまう。
「ミッキー。パパの職場なのに来たことないのかい?」
「うん。パパの職場近いの?」
「今日のお仕事が終わったら寄れるからメールでも送っておいたらどうだい?」
私は言われた通りに教授との打ち合わせで学内にいることをメールした。
「徹も……慣れているね。パパが大学のお仕事なの?」
「そうだね、経済学部にいるよ。中庭の噴水の向こうだね」
徹も学園関係者の人だったのか。なんとなく親近感がわいてくる。
「日本には慣れたか?」
「うん。学校の教科書はもう読めるよ」
「だったら、大丈夫だ。英語が忘れそうで不安なら、夏休みの大学部向けの語学研修に参加するのもいいぞ」
「徹も行ったことあるの?」
「俺と菫は、その時期はスイスにいるんだ。英語はともかく、フランス語とドイツ語を使える地域にいたいからな」
なんともない二人でも夏休みも一緒に過ごしているって分かると辛くなる。
「私も……他の言語覚えようかな」
「もう少し日本に慣れてからで十分だ。せめて敬語を間違えなくなってからな」
徹先輩は辛いところを突いてくる。人並には暮らせるけど、敬語はまだ使いこなせない。
使いこなせたら、教えてもらえるのだろうか?そんな事を考えながら長い廊下を歩いていった。
「ミッキー。大丈夫か?」
「無理。凄く緊張する。粗相をしたらどうしよう」
「アメリカ育ちで来日半年のレディが粗相した位で目くじらを立てる教授ならどうにかしてやる」
「徹先輩、何か変なことするの?」
「お前が気にする事は一切ないぞ。不安な事は俺に全て聞け。いいな」
学園祭まで後十日になった時、徹先輩と一緒に大学部の校舎にやってきた。
パパの職場でもあるけど、来た事のない空間に私はびくびくしてしまう。
「ミッキー。パパの職場なのに来たことないのかい?」
「うん。パパの職場近いの?」
「今日のお仕事が終わったら寄れるからメールでも送っておいたらどうだい?」
私は言われた通りに教授との打ち合わせで学内にいることをメールした。
「徹も……慣れているね。パパが大学のお仕事なの?」
「そうだね、経済学部にいるよ。中庭の噴水の向こうだね」
徹も学園関係者の人だったのか。なんとなく親近感がわいてくる。
「日本には慣れたか?」
「うん。学校の教科書はもう読めるよ」
「だったら、大丈夫だ。英語が忘れそうで不安なら、夏休みの大学部向けの語学研修に参加するのもいいぞ」
「徹も行ったことあるの?」
「俺と菫は、その時期はスイスにいるんだ。英語はともかく、フランス語とドイツ語を使える地域にいたいからな」
なんともない二人でも夏休みも一緒に過ごしているって分かると辛くなる。
「私も……他の言語覚えようかな」
「もう少し日本に慣れてからで十分だ。せめて敬語を間違えなくなってからな」
徹先輩は辛いところを突いてくる。人並には暮らせるけど、敬語はまだ使いこなせない。
使いこなせたら、教えてもらえるのだろうか?そんな事を考えながら長い廊下を歩いていった。
国文科の教授との打ち合わせは、呆気なく終わった。
当日の講演内容を貰って、その事に対して私が英訳して当日は先生が発言した後に翻訳している。決して同時通訳ではないという。
質疑応答では同時通訳をお願いすることになりそうだと教授から言われた
「安永は来日半年で日本語も来日後にマスターしたので同時通訳は無理でしょう。僕か同席してませんが六条が担当する事になります。詳しくは兄と打ち合わせをお願いします」
「そうだね。来日半年だと、同時通訳は難しいかな。言葉で分からない事があれば、気軽にメールをしていいからね」
「ありがとうございます」
「英文科の安永先生にはこんなにキュートな娘さんがいたのか。娘がいるとは聞いていたが中等部からの編入は大変だったろう?」
「そうなんですか?アメリカから来たから良く分からなくって」
「うちの中等部は外部生を受け入れないんだ。だから、職員の子息の転入しか認められていない。だから大変だったと思うけどね」
「なるほどね。六条は帰国子女とはいっても幼稚園児だったから馴染めただけって事ですか?」
「菫君は、日本語一切話せなかったからね。全てがドイツ語でね。怒る時だけは英国英語になるんだよ」
「そうそう、そんなのに付き合っていたから自然に会話としてはドイツ語と英語は覚えたけど、文法はさっぱり……」
「会話ができれば、それ以外はどうにでもなるさ。僕だってロシア語は聞きとれて話せるけど、書けないからね」
「ミッキー、お前の努力はどれだけか、分かる人には分かるから自信を持てよ」
「うん。徹先輩ありがとう」
私の事でちょっと言われたから少しだけ自信をなくしかけていたんだ。
それを二人は見越してここのチームにいれてくれたのかもしれない。
やっぱり、私にはすうちゃん先輩には敵わないと思うのだった。