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本日のスイーツ  作者: トムトム
君想いマカロン
3/10

あなたに会いたくて 1

風船葛の徹のその後です。

スタートはなぜか中等部から始まります。

あなたに会いたくて


「美月!!大変。徹先輩がフリーになったって」

六月になってすぐの放課後。そのニュースは中等部三年の校舎に瞬く間に広がった。

「すうちゃん先輩は?」

「すうちゃん先輩は、徹先輩のお兄さんだから……薫先生の奥さんになるんだって」

「えぇ!!結婚するの?」

いきなりなスキャンダルに私達は色めき合う。

薫先生は、去年の教育実習で生物を教えてくれたけど、学校の先生にはならないで大学院で研究するって言っていた。徹先輩とすうちゃん先輩と薫先生。家が近い幼馴染で登下校がいつも一緒だから凄く目立つ。

校舎のベランダには徹先輩とすうちゃん先輩が植えてくれた風船葛のが大きくなりつつある。

高等部の校則は流石に良く分からないけど、高校三年生になると婚約している先輩とか卒業の頃には結婚する先輩がいるって聞いている。

いわゆる良家の子女・子息が通う学校なので、そういうこと……いわゆる政略結婚のようなものは、まだ存在している。早い子だと高校に入った時点で婚約者がいるのよって左の薬指に指輪を付けているって事もある。


「で、徹先輩は?すうちゃん先輩が好きだったんじゃないの?」

「良くは分からないの。でもすうちゃん先輩の側には今は薫先生しかいないし、二人でお揃いの指輪をしているもの」

二人で婚約指輪ですか。これは本当だろうな。どういう経緯でそうなったのか別にして。

「美月、これで徹先輩に近付けるチャンスじゃない?」

「そうかな?」

「だって、学園祭では高等部と一緒に作業したりするじゃない。徹先輩事だもの、生徒会役員またやるから」

「だと……いいね」

私の声のトーンを下げる。私が徹先輩達と役員をやっていた時の会計はすうちゃん先輩。

だからすうちゃん先輩もきっと役員になるんじゃないかな?

「なんかね、すうちゃん先輩、今教室に入れないんだって。ずっと職員室にいる」

「はあ?」

すうちゃん先輩は、人に恨まれる様な事のない先輩だ。いつも朗らかに微笑んでいて、困っているとちゃんと助けてくれる人。そんな先輩がいじめに遭うなんてありえない。

「だって、今年の高等部の一組は幼稚園組全員に英語の成績優秀者でしょう?」

うちの学校は、原則的に中等部の受け入れはしていない。学園の関係者の子女のみだから……5人もいない。私はそんな中の一人だ。

「美月もこの学校に馴染んだものね。最初は日本語が怪しかったのに、今ではそんなことないものね」

「それは……徹先輩達が付きっきりで教えてくれたの。入学してすぐに」

「そうなの?」

「うん、本格的すぎる帰国子女だったじゃない?私って」

「そうだったね。日本語は書けなかったものね」

「すうちゃん先輩と徹先輩が、徹底して教えてくれたの。感謝しても足りない位に」

そして私は、あの頃の日々を思い出す。


「おはよう。」

「モー……おはようございます」

父の仕事の都合で、四月からこの国……日本にやってきた。生まれた所は日本だったらしいけど、言葉を話す前にイギリス・アメリカ・ドイツを転々として最後はニューヨークで暮らしていた。

始めての日本は分からないことだらけで、何を伝えていいのか分からなかった。

学校の方もどうしたいいのかお手上げだったようで。何せ、会話は辛うじて出来たとしても筆記能力となると幼稚園から始めてもいい位だったから。

そんなある日の放課後、先生に連れられて私は生徒会室と書かれた部屋にやってきた。

「悪いけど、この子の世話を頼むな。お前達なら正しい日本を教える事ができるだろう?」

「やれるだけやってみましょう」

「こっちにおいで?名前は?」

「ミツキ」

「美月。言い辛いだろう?ミッキーでどうだ?」

初対面の私に向かって、その人は私を懐かしい呼び名で呼んでくれた。

「徹君、いきなりは失礼でしょう?」

『日本語が辛かったら、英語でもいいのよ。私達二人なら分かるから』

隣の女の子はとても綺麗な英国英語を話しだした。

『英国英語話せるの?クラスの子……誰も話せない。皆片言のアメリカ英語』

『そうね。私もイギリス育ちなの。今は英語は両方できるし、フランス語とドイツ語なら日常会話程度には問題ないわ。彼は……フランス語は怪しいけどドイツ語まではできるわ』

『だから、僕らが君の日本語の家庭教師&マナー教師になる。頑張れるかい?ミッキー?』

『うん、頑張る』

力一杯宣言した私にその男の人は、大きな手で頭を撫でてくれた。その温もりが嬉しかった。


それから毎日、生徒会室で日本語の勉強と日本で暮らす勉強を始める。

日本語の勉強は主に徹先輩と一緒に。日本で暮らす勉強はすうちゃん先輩も一緒だった。

お習字の時は、すうちゃん先輩が教えてくれる。丁寧に、ゆっくりと。

「急ぐことないの。書いていく文字にミッキーの気持ちを乗せていくからね。ゆっくりと書いて御覧?」

「うん」

最初は綺麗に書けなかった文字も、あっという間に綺麗にかける様になった。

二人は漢字も熟語もことわざも丁寧に私に教えてくれた。

始めての中間テストは、全部日本語だと難しいだろうという事で、すうちゃん先輩が直前で英語で質問を翻訳してくれたと後で教えてくれた。

徹先輩が教えてくれている時に、すうちゃん先輩は生徒会のお仕事というのをしていた。

いつも電卓を叩いていたり、パソコンで表はグラフを作成している。

すうちゃん先輩は会計で、徹先輩が生徒会長なのだそうだ。

他の役員を見た事はないなあと思っていたら、普段は部活に優先しているからねって微笑む。二人だって園芸部なのに、放課後は活動しないの?って聞いた事がある。

「昼休みとかで十分なの。それに二人しかいないから気が付いた時に話し合えるから」

そう答えたすうちゃん先輩の一言が私の心にチクリと刺さった。

私のお世話で出来ないって言われた方が気が楽だったかもしれない。


後で聞いたけど、大きな作業の時は土曜日の午前中に来て先生達と一緒にやるんだって。

だから、平日は花壇の水やりとかがメインなんだって。

夏休み前には、皆の授業の内容がようやく分かる様になったので、私の国語の家庭教師の方は終わりになった。残りは日本生活の先生として一杯やる事があるのだそうだ。

夏休みになって、私はすうちゃん先輩の家に一週間お泊まりする事になった。

まずは茶道の体験。私も始めての着物が窮屈で仕方ないけど、すうちゃん先輩のお母さんが我慢しようねって着せてくれた。すうちゃん先輩は一人で着る事が出来るんだって。

すうちゃん先輩のお隣が茶道教室で中に入ったら、徹先輩がお茶を淹れてくれた。

茶道教室は徹先輩のお婆ちゃんで、将来的には徹先輩が教室を継ぐことになりそうだと教えてくれた。

始めての着物と正座は辛いけれども、ここで騒いだら二人に迷惑をかけちゃうから頑張って我慢した。始めての抹茶……苦かった。

その後は、バスに乗ったり、買い物に行ったり。日本食も作ったし、庭で流しそうめんっていうのもやった。スイカ割りもしたし、ラジオ体操ってのもやった。

日本に来た時はつまらなかったのは、その文化を理解しようとしかなったからだ。

今はとても楽しい。夏祭りというのがあって、今度は浴衣を着せて貰った。

大柄な朝顔の模様に真っ赤な帯。三人で行くのかと思ったら、薫先生もいて。

徹先輩が迷子になるからって私の手を握ってくれた。

ちょっと熱くって、安心する大きな手。刷り込みかと思ってしまうけれども、この人の側にいたいって始めて思った。

2学期になって、私にも普段一緒に過ごす友達がいっぱいで来て、その時に放課後の勉強の事を話した。

「美月、あの二人は付き合っているのに、そんな事をして貰っていたの?」

「そうなの?二人とも幼馴染なだけよって言っていたよ」

「すうちゃん先輩は、幼稚園からここだけど、その前はフランクフルトにいたのよ」

「へえ?」

「徹先輩のお世話好きなのは知っているけど、先生達にいい様に使われた感じね」

皆が何気なく言う一言は私の心にグサグサと刺さった。

「本当かどうか聞いてくる」

放課後だったら生徒会室にいるって分かっている私は、ダッシュで生徒会室を目指した。


「徹、あの帰国子女の世話係は終了か?」

「そんな言い方は失礼よ。まるっきり日本の事を知らないで来日したらああなるわ」

「そうだな。すうは日本語放せなかったものな」

「そうよ。徹君達が教えてくれたから。あの頃を思い出したわ」

「すうは、余裕だな。徹が取られるかもしれないってのに」

「だから、私はそうじゃないって言っているじゃない。しつこいなあ」

生徒会室には少なくても三人がいる事は分かっていて、徹先輩は少なからずともすうちゃん先輩の事が好きなのが分かってしまった。

すうちゃん先輩はそうじゃないみたいだけども、穏やかな二人の空気を邪魔するのは嫌だった。私は思い切って生徒会室のドアを開けた。

「徹先輩。またお茶のお稽古させて貰ってもいい?」

「なんだ、ミッキーか。いいぞ。一度連絡くれよ」

「私は?お着物着たかったらいらっしゃい。ミッキーちゃんに似合いそうなのがあるから」

「分かった。すうちゃん先輩。ありがとうね。今日はこれだけなんだ。またね」

やっぱり、二人の空気を邪魔するのは出来ない。生徒会室から走りながら私は思った。

そして、今までよりは二人に関わる時間を少しずつ減らしていった。



徹は昔からお世話係(笑)。オカンまではいきませんが。

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