Ring!Ring!Ring!
部活仲間と二人きりで部活の仕事を終わった後に遊ぶことになりました。
これってデートって言うの?
「なんで、今日に限って起こしてくれないのよ」
「そんなの決まっているでしょう?休みの日に起こして怒られるのはごめんだもん」
朝が弱い私を起こしてくれる妹に悪態をつきながら、学校に行くよりもダッシュで出かける支度をしている。
同じ部活仲間と、定期演奏会のパンフレットを受け取りに印刷屋さんに取りに行く事になっている。それを一度学校に置いてから、これからのプランを考えようかって話になっていた。
部活のお仕事だけども、今日は練習がないから私服で待ち合わせって約束になっている。
普段は履かないどこかの制服にも見えてしまうチェックのスカートにベージュのロングカーディガンにアイスブルーのコットンシャツ。部活でいっつも一緒にいるから、清潔感第一で今日の洋服をコーデした。スカートの丈も、膝小僧の上位自転車に乗るんだから丁度いいはず。
待ち合わせは午前11時。部屋の時計は10時30分を差している。
学校までは自転車で10分。遅くても……後15分はあるはず。
そう思ってブローを念入りにしていたのに……どうして時計はそのまま止まってしまったの?まだ自宅にいた私に気が付いた妹が慌てて部屋を覗いて遅刻するからって無理矢理玄関から出された。
もう少しだけメイクしたかったけどな……ベースメークにスモークローズの口紅。
まあ、これだけでもしてあればいいか。
私は妹が出してくれた自転車で目的地の学校までダッシュでペダルを漕いだ。
何とか時間前には着いたけど、折角ブローした髪は自転車を漕いだことで微妙な状態。
折角の前髪がおでこ全開になってしまって残念なことになっている。
汗はかいていないから、メイクは崩れいていないのが幸いな状態。
「おはよう。いつもは早めに来る君がギリギリなんて珍しいね」
「ごめん……。部屋の時計が止まっていたのよ。10時半で」
「まあ、遅刻じゃないから何かおごってなんて言わないけど、俺が行きたい所でいい?」
彼を待たせた事は事実だしなあ。不本意だけどもその事に納得した。
そして私達は自転車で印刷屋に向かう。
定期演奏会は、OBも参加して行う部活最大の行事の一つ。
ひょっとしたらコンクールよりも緊張するかもしれない。
今年の定期演奏会の連絡係は、くじ引きの結果クラリネットのパートリーダーの私とトランペットのパートリーダーの彼……岡野君と一緒に行う事になった。
まずは、印刷物を受け取ったという旨の一斉メールを私は部員達に、岡野君は参加予定のOBに一斉送信をした。
「これで、今日のお仕事はおしまい。それじゃあ、これから本格的に忙しくなるから今日は遊び倒そうよ」
「遊び倒すの?」
「そう、でもあんまりお金をかけない方法で考えているから。さあ、街まで行こう」
彼に促されて私達は再び街まで自転車を漕ぎ出す。
来週には11月になる。定期演奏会本番はクリスマスイブ。
2部構成になっていて、最初はクリスマスミニコンサート風になっていて小さな子供でも楽しめる様に配慮している。2部は夏のコンクールの曲をメインに数曲演奏する。
間には、サックスだけのアンサンブルとかも組み込んでいる。
「これから忙しくなるんだものね。岡野君よろしくね」
「大丈夫。部内で一番のしっかり者といわれる君と一緒なんだから不安はないよ」
「しっかりしていないって。皆過剰評価しすぎなのよ」
皆の取りこぼしを拾ってフォローしているだけなのに、しっかり者って言われるとどうしていいのか分からなくなる。
彼が小声で何かと呟いたみたいだけども、いつもはきちんと発言する人だからあまり気にしてはいなかった。
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「何でお前が連絡係なんだよ」
「くじ引きなんだから公正だろ。文句言うな」
10月の文化最後の来季の担当決め等を決めた後のこと。
部長・副部長・パートリーダーまでは順調に決まっていった。
最後に残ったのは、12月の定期演奏会の連絡係。
会場は市民会館の大ホールで、日程はクリスマスイブと決まっている。
そこまでは先生が手配してくれている。
俺達がするのは、OBの出席確認と練習日の案内とポスター制作がメインになる。
連絡係が一番大変そうに見えるからどうしても志願者はいない。
毎年そうであるのと同じように、2年生のパートリーダーがくじ引きをする事になった。
その中には、クラリネット担当の如月さんもいる。
中学では、サックスを吹いていたという彼女は高校からクラリネットに転向した。
俺はそんな彼女のサックスを聞いた事がある。
普段から控えめな彼女だけど、楽器を持つと情熱的は音を奏でる。
ジャンルはクラシックからジャズまで幅広くて、弾きこまれるその音は忘れようにも忘れられない。
「いい?恨みっこなしだからね?せえの!!」
部長の一言で俺達は一斉にくじを引いて取り出す。
当たりのくじを手にしていたのは……俺と如月さんだったという訳だ。
恨みがましい目で俺を見ていた奴がいたが、そんなもん知らねえ。
これから当日までOBに小言を言われながら連絡係をする俺らの身になって見ろっていうんだ。
それから、部活終了後に最終下校時間まで如月さんと相談しながらポスターを作製した。
今までは業者さん任せだったのを、如月さんが自分で数種類デザインしてくれていた。
部員皆で決めたポスターを印刷屋さんにお願いして出来上がったのが昨日。
そして、今日彼女と一緒に取りに行く事になっている。
待ち合わせの正門に先に着いたのは俺。ごめんねって息を切らしながら彼女がやってきたのは約束の5分前。いつもはゆとりを持って行動しているイメージのある彼女が焦っている姿があまりにもレアで見ていて楽しい。
「息を整えていて?」
と、俺は彼女に告げて、職員室にいる顧問から印刷代金を受け取る。
今回は印刷会社を変えたせいか、今までよりも安く仕上げられたという。
その交渉は全て如月さんにお願いしていたから詳しく知らない。
職員玄関を出ると、如月さんが、髪の毛で悪戦苦闘しているようだ。
どうやら、必死でペダルを漕いだみたいでおでこ全開なのが気になっているようだ。
いつもは下ろされて隠されているそこは思った以上に狭く、申し訳ないけどデコピンしたくなる。
そんなに親しくないのに、そんな事をしたら嫌われるだろうなと思ってぐっと堪える。
一度街まで行って、印刷屋さんでポスターを受け取ってもう一度学校まで戻る。
今度はパンフレットの製作が残っているけれども、如月さんが手書きのラフを既に用意してくれてある。
俺は気が付かなかったけど、彼女は芸術は美術を選択しているのだとか。美術の先生に相談しながら決めていたパンフレットは、今までよりもページ数は多いけれども、曲紹介や、パートの楽器の紹介とか初心者でも楽しめる内容になっていた。
「本当に、俺何にもしていないよね。これからは手伝うから」
「私はデザインとか考えるのは楽しいから平気だよ。これからはポスターの設置のお願いにも行かないと行けないし。頼りにしているわ」
連絡係としてだというのは分かるけれども、頼りにされるって分かると嬉しくなる。
学校に戻って顧問にポスターを渡してから彼女は先生と簡単に打ち合わせをしていた。
後で知らされたけど、今回のポスター印刷は、店頭に設置をお願いしたり、駅に設置して貰う分とOBに発送する分だけだという。全校生徒向きは、同じ原稿を学校の印刷機でモノクロ印刷をしたいと提案していた。その分浮いた予算をパンフレットに回したいと交渉している。
「予算以内なら構わんから好きにやってごらん」
おおらかというかいい加減な顧問の一言で自分達のやりたいようにやっていいと言われてしまう。
「岡野。お前……如月がパートナーで良かったな。感謝しとけよ」
そう言って、俺達の運んできた荷物を持って職員室に戻っていった。
「これで、今日のお仕事はおしまい。それじゃあ、これから本格的に忙しくなるから今日は遊び倒そうよ」
「遊び倒すの?」
「そう、でもあんまりお金をかけない方法で考えているから。さあ、街まで行こう」
俺は彼女に提案して、再び街まで自転車を漕ぎ出した。
まず、俺達が付いたのは、中央図書館の中にあるプラネタリウム。
ここは、学生証を提示すると大人料金千円が200円になる。
あまり知られていない情報だが、友人が天文部で俺に教えてくれた。
「岡野君はよく利用するの?」
「比較的?プログラムが変わると一度は来るよ。如月さんは始めて?」
「うん。金冠日食のイベントは参加したんだよ。後は流星群の解説会とか?」
「そっか、今年だと……コンサート前のふたご座流星群か。体調壊せないから天体観測どころじゃないか」
「そうね。でもネットで何処かの天文台の画像でも見る予定よ」
意外に彼女が星が好きな事を知って驚いた。
「好きな星ってあるの?」
「好きというか、ここじゃ見えないからいつか見える所で見たいものはある」
俺達は北関東のある都市に住んでいる。ここから見えない星というと……あの星座でいいだろうか?」
「りゅうこつ座?」
「うん。日立市位だと見えるらしいんだけども、ここじゃさすがに北すぎて無理だから」
確かに、俺達の住む町は冬に多少ながら雪が積もる位北に位置している。
今日は暖かいからカーディガン姿な彼女だろうけど、一カ月後にはコート姿になっているだろう。
「天文部は冬休みに南の地方に天体観測合宿している位だから。いつかは見たいなって思うな」
「やっぱり?見に行くなら海の側の方がいいよね?」
俺が興味を示した事が分かったみたいで彼女がいつもより話しかけてくれる。
その事も俺は嬉しかった。
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やがて始まった天体ショーに私達は集中する。
今回のプログラムは、秋の神話がメインで、最後にオリオン座流星群の話になった。
今年は見られる条件が揃っていたけれども、天候が悪くて結果的に見えた地域は北海道だけだったとか。
天体ドームとはいえ、ランダムに走り出す流星は人工のモノでもとても綺麗だった。
「どうだった?」
「凄く楽しかった。でも200円で見られるのは知らなかった」
「でしょう?もったいないと思わない?」
岡野君は目を輝かせている。確かにお昼の回の上映だけども、私達以外は皆家族連ればかりだった。
「12月にプログラムが変わるから、定期公演が終わったらまた来ない?」
「うん、いいよ。約束」
私は何も考えないで小指を出した。
「えっ?」
「指切り。嘘ついたら……岡野君にミスドのドーナツ福袋買ってもらう。指切った」
かなり強引だったけど、今度も一緒に行ける約束をしてしまう。
今まであんまり話したことない岡野君だけども、こうやって一緒に過ごしていると意外に楽しい。
「それじゃあ、次のイベントにれっつらご~」
と私は岡野君に促されるようにプラネタリウムを後にした。
次に来たのは、歩行者天国。場所によってはフリーマーケットをやっていたり、蚤の市のようなお店も出ている。
一通りお店を眺めた後に、私達はピザを出す屋台でお昼を食べる事にした。
屋台なんだけども、すっごく美味しくて、びっくりする位に安い。
「屋台って始めて?」
「うん。でも凄く安いんだね」
私は一緒に頼んだブラッドオレンジジュースを一口飲んだ。
酸っぱいのかと思ったけど、思った以上に甘くて飲みやすい。
「本当はね、学校の側のちょっとお高めのイタリアンのお店知ってる?」
「うん、知ってる」
「あそこが屋台として出しているんだ。だから、このお店は採算度外視なんだよ」
「えー、勿体無い」
私達は美味しくて、二人で食べきれるかな……なんて言いながらも大きなホールピザを食べてしまった。
「すみません、今日食べたものの感想をお願いしますって、岡野さんの息子さんか」
「あっ、こんにちは。ようやく来れました」
あれ?岡野君の知り合いなの?
「オーナーさんの奥さんが、俺の母親の親友でランチはパートしているんだ。如月さんだけの秘密だから」
「ん?彼女なのかな?」
「違いますよ。同じ部活で、定期演奏会の連絡係なんです」
岡野君の説明がなぜか、私の心に突き刺さる。同級生というには深い付き合い。
彼女となると……まだ違う。私達の関係には的確に説明できるものがない。
「ねえ、折角だから今度店で演奏して貰えないかい?来月頼んでいたミュージシャンが急遽来れなくなって困っていたんだ」
岡野君はちょっと悩んでから、私を見ていた。
「如月さん、サックス演奏してみない?たまには演奏しないと腕がなまるよ」
いきなり、岡野君に言われて私はびっくりする。
「今は……定期演奏会の練習があるから……」
「そうだけど、来月の頭ならまだ大丈夫なんじゃないか?どうせ、今回のリストの楽譜は暗譜しているんだろう?だったら……一度だけならいいんじゃないか?」
「えっ?彼女大丈夫なの?」
「学校ではサックス吹いてませんけど、個人レッスンだけは継続して続けていますから」
「やっぱりね。彼女のジャズは本当に聞いていて楽しいよ」
「どうして岡野君知っているの?」
「君が中学の時の文化祭も定期演奏会も聞いていたから。君のサックスが聞けると思って吹奏楽部に入ったら、君はクラリネットに転向してしまった……という訳さ」
「岡野君のトランペットだって上手じゃない」
「そうかな?小学校から続けているだけさ。あの位なら普通じゃないか?」
「二人とも……明日の三時に店に来て演奏して貰ってもいいかな?それとも部活かな?」
「明日は……部活はありません。そうだよね?岡野君?」
「そうだな。それじゃあ、明日一緒に行こうか。俺も楽しみだな如月さんの演奏を堪能できるんだから」
私達はサービスのデザートを貰って暫くのお茶の時間を楽しんだ。
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「急にお願いして……大丈夫?」
「皆が知っている曲を数曲なら何とかなると思う」
あの後、僕達は全国で一番知られているファーストフード店に入って急遽決まったライブの話をしている。
「ところで、これってアルバイトになるの?」
僕らの学校は原則的にアルバイトは禁止されている。例外は一部の部活で消耗品を自費購入の為と体力アップの為に新聞配達したり、料理部が近隣の飲食店で働いたりしている。
「どっちかというと、有償のボランティアになるかな?報酬は演奏後の夕飯。一人が嫌なら俺も混ざろうか?」
「岡野君は……夕飯目当て?」
「ないとは言えないけど、いつもその日は裏で皿洗いのお手伝いしているんだ」
手伝いはアルバイトじゃないから問題ないだろうって俺は思っている。
「明日の打ち合わせ次第だよね。それじゃあ……家に帰って楽譜探して練習しようかな」
彼女はそう言ってスマホを覗いている。時間は午後2時。デートを終わらせるにはちょっと早い気がしなくもない。
「如月さんは本当に練習が好きなんだね。それじゃあ、家の傍まで送っていくよ」
僕らはファーストフード店を後にして、自転車を押しながら彼女の家に向かって歩いて行く。
「ごめん、ちょっと待って貰ってもいい?コンビニに寄りたいんだ」
途中で見えたコンビニで買い物をしたいと彼女は言う。
「うん、いいよ。俺も立ち寄るから」
俺も家で飲む炭酸飲料を買って帰ればいいかと思っていた。
店頭のポスターは楓太一緒になっている。君想いマカロンだ。
彼女はそれをぼんやりと眺めている。
「如月さんは楓太が好きなの?」
「そう言う訳じゃないけど……あんなに想われている女の子が実在していたら羨ましいなって。すごく大事そうに製品を扱っているでしょう?」
確かにマスコミリリースの時に、僕の好きな人をイメージしてスチールもCMも制作しているって言っていた気がする。
スチール広告のポスターも3種類あって、どれも凄く大切に包み込む様な表情だ。
一般的な女の子は、そんな風に想われたいのだろうか?
俺だって、俺なりに君の事が好きなんだけどな。
この事を切っ掛けに君との距離と縮めたいと思ってはいる。
このチャンスを活かさない馬鹿は……いないだろう?
「君に会いたい……だから君を想う」
如月さんの耳元で呟くように囁く。彼女はいきなりビクンと動いて俺を覗き込む。
20センチ程の身長差が俺達にはあるから、彼女は基本的に俺を覗き込むように見つめる。
その大きな黒い瞳が俺を惹きつけて放してくれない。
「ん?キャッチコピーだろ?相手を想う気持ちは男も女も同じだろう?前のシリーズよりは共感を持てるよ」
前のチョコレートケーキは、女の子には絶大の支持があったみたいだけども、俺は気恥ずかしくて絶対に言えねえよって思ったものだ。
「売っていたら買って帰ろうかな。岡野君は食べた事ある?」
「母さんが一度買ってきて貰ったけど、思ったより食べやすかったよ」
「やっぱりね。さっきもケーキ食べていたから甘いもの好きなんだろうって思っていたんだ」
そう言って、僕らは一度別れて買い物を始める。
欲しかった赤いラベルの炭酸飲料を手に取って、デザートコーナーに立ち寄る。
いつもだとあまり売っていない君想いマカロンがかなりの量が陳列されている。
丁度いいタイミングで店に入ったんだろう。
半透明のケースに入っているから、通常の丸いマカロンか、レアものなハートマカロンか分からない。
如月さんを連れまわしたお礼も兼ねて、自分の分と彼女の分を一つずつ購入する事にした。
無事に買い物が終わった俺達は、再び歩きはじめる。さっきのコンビニは彼女の自宅からは最寄りの家で、知り合いがいなくて良かったあなんて言っていた。
確かに、俺達は恋人でもない。友人?むしろ部活仲間といった方が正しいだろう。
やがて、彼女の家が見えて来る。俺達は進めていた足が自然に止まる。
「今日はありがとう」
「いいえ。こちらこそ」
「明日は午後2時半に迎えに来るから」
「いいの?」
彼女が気にしているみたいだけども、俺は頷く。
送迎役を受け入れて貰えれば、それだけ彼女と一緒に過ごす事ができるからだ。
「それと……今日のお礼に……はい」
俺はコンビニの袋から君想いマカロンを取り出す。
「あのね……私も同じ事を思っていてね。買ったの」
そう言うと、彼女も俺に君想いマカロンを渡してくれた。
一緒にいて、買ったのなら分かるけど、別々に店内にいたのにどうして同じものを選んだのだろう?
二人して似た様な事を一瞬でも考えていたと分かった俺達は少し顔を赤らめながら笑い合った。
「お揃い?」
「確かにお揃いだね。こういうのなら嬉しいね」
「うん、そうだね」
彼女がにっこり笑っている。その笑顔を一人占めしたいからその思いを少しだけ閉じ込めて彼女に囁く。
「君の想い人は……なんでもないよ。気持ちが通じるといいね」
そう言って俺は彼女から離れて自宅に戻っていった。
定期演奏会が終わった頃には、もっと彼女に近づきたいなって思いながら、気分が高揚するのを自覚しながらべダルを漕いだ。
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「ただいま」
「お姉ちゃん、さっきのイケメン誰よ。彼氏?」
「違うわよ。同じ部活の岡野君よ。今度の定期演奏会の連絡係を二人でやっているの」
「そうなんだ。結構いい雰囲気だったからさ……」
妹にからかわれて、さっきの囁きを思い出して、一気に耳まで赤くなる。
「お姉ちゃん、どうしたの?顔真っ赤だよ?熱でもあるの?」
額に妹が手を当ててくれる。熱は人並にあると思うけど、そんなんじゃないよ。
「大丈夫だから。暫くレッスン室にいるから。5時になったら夕飯の支度をしようね」
私は慌てて妹に告げてから一度自分の部屋に戻った。
「はあ。あの意味って……あの続きは何だったんだろう?」
君の想い人は……その続きが知りたい。誰なの?なのかな。それとも俺だといいな?かな。
でも、岡野君ってそういう自意識過剰な人じゃないから後者じゃないと思う。
彼が去り際に呟いた何気ない一言が私の心を揺るがすには十分の効果があったと思う。
暫く、楽譜を探しながらきゃあきゃあ言っていた私を妹は不審者を見る目で見ていた事を忘れない。
あんたも気になる男の子に言われてみなさいよ。
でも、あのドキドキも彼となら嫌じゃないの。不思議だよね。
彼に貰った君想いマカロンを見つめて何度目か分からない思い出し笑いをした私でした。
コメディの次はヘタレ男子の始めの第一歩編です。
マカロンが仕事をしてくれたのかどうかは不明ですが、互いに意識をしているので結果的には良かったのかなって事でwww