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本日のスイーツ  作者: トムトム
君想いショコラ
10/10

ホワイトデーのはずなのに・・・・・・

ホワイトデー当日は、実は数学の日なんですって。朝のニュースを見て何となく思いついて……書いてみました。

世間的には皆が浮かれているはずのホワイトデーなのに、私は今教室の自分の席で半泣きになって数学の課題を解いている。

しかも、今日は球技大会当日。いつもなら騒がしい教室も誰もいなくてがらんとしている。

私が参加した女子のバスケットはバスケット部で固めた隣のクラスに呆気なく一回戦負けをした。バスケ経験者が私しかいないってどういう事なのよって文句を言いたくなったけど今はぐっと我慢している。

早々に、球技大会の参観者と変わった私は、クラスの競技時間までの間をこの誰もいない寂しい教室で一人で課題を解いている。

一番大嫌いで見たくもない数学の問題と格闘しているのだ。



今回の学年末テストは赤点ではなかったのだけども、今までのツケが清算しきれなくってこのままだと赤点確定してしまう状態。

ちゃんと勉強しての結果なのを知っている先生は私に救いの手を差し伸べてくれた。

『この問題を球技大会の日から間違えずに解いてくるように』と先生萌な生徒ならコロリときそうな満面の笑顔を貼り付けて言ってきた。残念だが、私は先生萌でも白衣萌でも眼鏡萌でもない。おまけに顔も好みではない。ファンクラブもあるという、この先生の熱狂的な信者からは締めあげられてもおかしくない状況だろう。

渡されたプリントは表と裏にびっしりと問題が書かれて14ページにも渡っている。

間違えてもいいから解けなら、分からないところは途中で放棄してもいいのに、間違えずに解けと来たものだ。

しかも私は文系クラス。数学のできる親友は残念ながら一人もいない。

同じクラスで数学ができる男子が見かねてコピーしてくれたノートが今の私の救いの存在だ。

ここで愚痴愚痴言っていても問題が減るわけじゃないから、ここは腹を括って問題を解くしか道がないと諦めながら私は問題と対峙する事にした。



「ちょっ、何……コレ?教科書レベルの問題なんて一つもないじゃない」

全部のプリントを見て私は気が付いた。全てが入試問題からの抜粋だったのだ。

丁寧にいつの問題からの抜粋なのか書かれているのが先生の良心という所だろうか?

まずは、出題の学校と問題の年数をリストアップしていく。やがて半分はセンター試験体という事が分かった。残りは、私立大学だけども、全てが文系の学部だった。

間違えずという事は、赤本から解答を書き写してもいいのだろうけど、ちゃんと理解もしろって事が含まれているのだろう。

学校の図書館には、赤本もたっぷりと置かれているから私は席を立って図書館に向かう事にした。

球技大会中の図書館には、利用している生徒は誰もいなかった。いたのは図書館司書の先生と、授業の資料を作っていた古典の先生だけだった。



「どうした?速見?」

「どうしたも、私としては危機な訳ですよ」

「あっ、数学か。それで対策を立ててやって来たと」

「そう言う事です。まずはセンター試験の過去問を過去10年遡るんです」

私が何気なく呟くと、先生達は唖然としていた。

「それは……ご愁傷さまだな。あの先生も……かなり本格的な事をやるものだ」

「とりあえず、今日は生徒の利用は限られているだろうから急がば回れってことで腰を据えてやったらどう?」

そう言うと、先生は私に自習コーナーの利用ノートを渡してくれる。

今日の私の予定はこの問題と解く事だけだから、ここにいるって友人たちにメールさえしておけばもうあっちに行ったり、こっちに行ったりする必要性はなくなる。

「そうですね。お言葉に甘えます」

私は早速一度自分の教室に戻って鞄ごと持ってくる事にした。

自習コーナーの一番隅に陣取った私は、早速さっきキープした過去問を古い順に並べていく。そして、数学の問題をじっくりと調べ始めた。

プリントに書いてある問題を付箋に番号を付けていく。

私以外にもこの課題を出してあるぞって先生は言っていたけど、私以外生徒の利用はない。

あまりにもひっそりとしていて怖くなって、鞄からMP3プレーヤーを取り出した。

音楽を聞いてもいいかなと思って、ヒーリング音楽を選択してイヤホンを耳に差し込んだ。



昼休みも、図書館のベランダのベンチで一人で食べた。どうやら他の競技は順調に勝ち進んでいるようだ。私の方の課題の方は、ようやく20問解けたところだ。古い過去問から消化させているので、今はようやく7年前の過去問を開いている。ゴールは果てしなく遠そうだけども、なんとなく解き方は分かってきた様な気がする。

途中で、司書の先生が頑張っているご褒美ってキューブチョコを一つくれる。

それだけでも、元気になった気がする私は花より団子だなと苦笑するしかない。

図書館に閉じこもってから5時間が立った時には、去年の過去問まで終わっていた。

「今日はこれからどうするの?」

「閉館まで粘ります。ダメですか?」

「別にいいんだけども、放課後は、用事が合っていないのよ。他の先生に頼んであるから

その先生の指示に従って貰えないかしら?」

「分かりました。すみません。私が馬鹿だから」

私は司書の先生に頭を下げた。

「いいのよ。どんな理由で会っても、図書館を利用して貰った方が、本たちだって喜ぶもの。でも、他にも同じ課題を貰っている子はいたはずよね」

「ええ。間違えずに提出しろなので、ネットで調べて書き込む事もできますから」

「じゃあ、どうして速見はここにいる訳?」

「どうしてでしょう?本が好きだからでしょうか?」

数学は好きじゃないけど、本を読むことは好きだから基本的に興味を持った本は読むようにしている。

そのせいか、部活動をしていないので、放課後は閉館までここで過ごしている。

その代わりに昼休みは友達と過ごしている。そこのバランスは自分なりに取っているはずだ。



「まあ、速見らしい答えで安心したわ。とりあえず、過去問に対しては便宜を図ってあげるわ。今度はどこの問題が欲しいの?」

私は既にリストアップしている過去問リストを手渡した。

次に多いのは全国にキャンパスが点在している大学だろう。

「いいわよ。ここの大学の過去10年分は私が探してあげるわ。いつも閉館までいるけど、自宅ではどうしているの?」

「自宅ですか?学校の側でアパートを借りたんです」

「あらっ、それは初耳。何かあったの?」

「父親の地方転勤に母が着いて行くというので、自宅は人に貸して家賃収入を貰っているんです」

「それで、数学はちょっと問題だけど、他の教科はちゃんとやっているから自信を持ったら?」

「だといいんですけどね。まあ、数学は来年は選択をしていないんでこの問題を解いて高校生活ではお終いです」

「成程。だからネット利用で解こうとしない訳か」

「まあ、そんなところです。来年には卒業なので、ここにいる時間も……」

「今日はイベントの日だから、基本的にここにいたら?今更教室に戻るのも嫌でしょう?担任には私から言っておいてあげるわ」

「ありがとうございます」

私は再び、課題に集中するのだった。



「速見、速見……」

誰かが優しく私を呼ぶ。私はゆっくりと目を開けた。確か私は図書館にいた……やだ、うっかり寝オチしてたという事になるんだろう。呼ばれた声の方向を向くのが凄く怖くて恐る恐るその方向を向いた。そこにいたのは……このミッションを出した張本人の数学科の教師だった。

「すみません、ついうっかり……」

「終わっている所は見せて貰ったぞ。出題校毎に解くなんて発想は俺にはなかったぞ」

「それは褒め言葉として有難く頂戴します」

「お前、ずっとここに缶詰だったんだろ?疲れて寝てしまうのも当然だ。何よりも数学が嫌いだものな」

チクリと心に棘が刺さる言い方をこの教師はしてくる。

数学は嫌いじゃないけど、問題を解くのにどうしても時間がかかってしまうのだ。

「すみません。ちゃんとした結果を出す事が出来なくって」

「お前が努力しているのを知っているけどな。どうして数学だけがダメなんだろうな?」

「そんなの……分かりません」

そんなの私だって知りたい。数学以外は学年トップグループにいるんだから。学年順位だって、数学が悪くてもトップ20には絶対に収まっている。今回も自分の定位置に収まっているのだから、問題は基本的にない。

「そうだよな。この問題を全部解いたらちゃんと進級させてやるよ。その前に今日一日で半分を片づけたお前にご褒美をやろう?」

先生は、そう言って君想いショコラを一つ私に差し出した。



「先生……どうして?」

「たまにはいいだろう?最後のテストの前にお前から貰うのは問題だが、テストが終わったんだから俺がお前を労っても問題はないだろう?」

でも、誰かに知られたらどうするんだろう?そうすると先生の方が困っちゃうんじゃないのかな?

「深く考えるな。とりあえず腹も減っただろ?ほらっ」

先生はパッケージを開けて私に渡してくれる。ここまでされて持ち帰りたいって言い張れるだけの根性を私は持ち合わせていない。

「なあ、このシリーズって食った事あるか?」

そりゃあ、もちろんあります。ビビッドのファンなのだから基本だわ。

このシリーズのDVDだってもちろん持ってる。

必死な樹みたいな彼氏だったらいいなあ……なんて密かに思うのが乙女心だ。

「ありますよ。滅多に買えない位ですし。マカロンだってレアマカロンがあるんですよ」

気がついたら、私はヒートアップしてコンビニスイーツの話を先生にしていた。

「すっ、すみません。私ったら」

「まあ、人並に女子しているんだなって思っただけさ。可愛いな」

先生が何気なく言った、可愛いなって言葉に過剰に反応してしまう。

「先生、あんまり可愛いって言わない方がいいですよ」

「そうか?可愛いって思ったから言っただけなのだがな。それ、俺に一口くれないか?」

「いいですよ……んんっ」

一匙差し出せばいいのかと思ったから一匙掬って差し出したのに、先生は私の唇を塞いだ。

いきなりのその行動に私は一切の思考を停止させてしまった。



「悪い。可愛いお前が悪い」

「先生、意味が分かりません。そうやって他の子でもするんですか?」

私はようやく、考えて出した言葉を紡いでいる。

先生に憧れる生徒は多いから、そうやってカジュアルに恋愛を楽しんでいるのだろうか?

「そんなつもりはない。ただ、あのキャッチコピーに煽られた」

「キャッチコピーって……嘘でしょう?」

「あぁ、そうだよ。あろうことか、教え子に恋をしてしまったんだよ。数学だけが壊滅的に出来ないという文系の主席の女子に恋して悪いか?」

先生は顔を真っ赤にして、居直っているように見える。

恋して悪い……とは言わない。恋愛するのは自由だから。でもその相手にどうして私がならないといけないのだろう?

「そうだよ。お前の意識に俺を思い浮かべさせたくて、こんな鬼畜な課題を作ったんだ。お前の事だから図書館でこうやって頑張ると思っていたしな。それを見守るつもりだったんだ。なのに、可愛いお前が悪い」

「私……なにも悪い事……してません。でも数学がダメなのは先生にとって悪い事ですよね。ごめんなさい」

「ああ、もういい。この課題はお前は終了だ。もうやらなくていいし、提出することもしなくていい」

「どうして?」

「お前の寝顔を堪能して、なおかつお前にキスをした。これでチャラでもお釣りが来るな」

「でも……先生と生徒で恋愛をする気はありません」

「そう言うと思った。俺が……教師を辞めたらいいのか?」

「はあ?どうして先生を辞めるんですか?キスが原因だったら口外しなければ住む事ですよね」

「まあ、それは違う理由なんだが。まあいいや。お前が好きだ。でも今返事はいらない」

「私も即答できません」

私がそう答えると、先生は苦笑する。

「だから、来年の卒業式まで答えを待つさ。その頃にはお前の進路も決まっているだろう?」

「そんなに長くてもいいんですか?」

「ああ、一年程この土地を離れるからな。卒業式に迎えに来るからな。だから……速見こっちに来い」

先生に手を惹かれて腕の中に閉じ込められてしまう。先生の鼓動が運動した後の様に激しくて、この人も緊張しているんだと私は理解した。



「一年後、私が他の人に恋をしたとしたら?」

「その時はその時さ。ちゃんと勝負をしかけるさ」

「はあ……そうですか。ところで先生は今いくつですか?」

「俺?24歳。お前達の授業だけの非常勤講師だからな。本職の方がこれから忙しいのさ」

「本職?」

「今は秘密。本職の方が忙しくなるからお前と会えるのも今日が最後だ。一年後楽しみにしているからな」

私をきつく抱き締めてからつむじにキスを落してから先生は図書館から立ち去ってしまった。

「一体、何だったの?あの先生は?」

図書館に一人残された私はポツリと呟いた。

先生をそんな恋愛対象に見た事なんてなかったし、いきなりの告白もびっくりだ。

一年会えない間にゆっくり考えろって言われてもどうしていいのか分からない。

「まあ、いいか。タイムリミットまでゆっくりと考えるか」



翌日から、数学の先生は本当に来なくなった。

元々は、法律家を目指していたらしいのだが、理事長に頼まれて学生時代に得意だったという数学を私達の為に教えてくれていたのだという。

先生が学生事態の頃はいわゆる暗記科目は苦手で先生達もてっきり理系に進学するのだと思っていたら、社会の時間で学んだ民法が面白かったから法律家になると方向転換を決めたそうだ。

ひょっとしたら、先生は私に諦めるなって最後に教えてくれたのかもしれない。

でも……先生が生徒に恋しちゃってキスするのはどうなのかなって思うけど。

私のあの激動な一日は私と先生の秘密のままだ。



一年後、自分の進路を思い切り方向転換して数学必須の教育学部を第一志望にしてしまう事を今の私は知らない。



やっぱり、先生×生徒は難しい。しかも、自分でも突っ込みどころ満載。

いきなりキャッチにあおられたからってチューはないわ(笑)

一年後は、皆さんの脳内で展開してあげてください。

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