それ・・・・・・どこがおいしいの?
最初はリアル鬼畜王子こと息子あきらとのやり取りを元にしてみました。
事実9割の息子ネタクオリティーは健在です(笑)
「ねえ、ほら……全部買ってきちゃったの」
学校から帰ってくると、母ちゃんがいたくご満悦な状態で炬燵に入っている。
「ん?オリンピック選手で母ちゃん好みのイケメンがいた?」
ここのところ、オリンピックにご執心の母ちゃんは、若干生活リズムが壊れている。
「ち・が・う・わよ~。ほらっ、見て見て」
炬燵の上のコンビニのビニール袋から中身を取り出す。
中には、初恋ショコラ・君想いマカロン・君想いショコラと並んでいた。
「それさ、幸樹のおばさんに頼んで取り置いて貰ったんだろ?」
「何で知っているの?」
「そんなもんだろうと思っていたよ。それもご丁寧に2個ずつ。俺にも食べろと?」
「あきら……嫌いじゃないじゃん。ちょい足しすればvery berryになるのに……」
俺、四辻あきら。小学校6年生。家族は母ちゃんと爺ちゃんと暮らしている。
「はいはい。その気持ちはありがたいんだけどさ。爺ちゃんは?」
「もう、自分の部屋でスイーツタイムしているわよ?」
爺ちゃんは大のチョコレート好きだ。世間で話題のコンビニスイーツを暇さえあれば食べている事はここだけの話だ。
母ちゃんの趣味の部屋には今ではコンビニスイーツシリーズに出演したアイドルのグッズが所狭しと陳列されている。
「とりあえず、スイーツには罪はないから食べるけど」
俺はマグカップにインスタントのカフェオレスティックの袋を開けてお湯を注ぐ。
「あんたって、無駄に顔が整っているからその姿も様になるわね。今度ソムリエエプロンあげようか?」
「っていうか、母ちゃん持っているの?」
「あるわよ。使ってないけど」
母ちゃんの使っているエプロンは、だらけ切ったくまのプリントのもの。
それよりもはちみつ大好きくまさんの方が可愛いと俺は思うぞ。
とりあえず、マカロンが好きだから無条件にマカロンに手を伸ばした。
「折角だからさ。言ってみてよ」
「あぁ……やればいいんだろ?」
「うんうん」
母ちゃんはもっとご満悦になっていく。ここからが俺の苦行だというの分からないのかよ。
「えっと……君に会いたい……だから君を想う」
今、俺が言ったのは君想いマカロンのキャッチコピー。
「うんうん。いいよね。甘くて切ないって感じがさ」
「そう?よく分かんないって。美味しいのが一番」
「あのねぇ。女心が本当に分かっていない。そんなんだから彼女に逃げられるんだって」
「それはもう……2年くらい前の話だし」
俺の痛いところとちょこちょこと突いてくる。元カノなんて半分位忘れていたよ。
「あんたはまず、女心をマスターしないさい。それが次へのステップだ」
母ちゃん、何俺にダンジョン風に言い渡しているんだよ。ってか、どうやってマスターしろというんだよ?
「どこで覚えろっていうの?」
「母ちゃんの部屋の漫画達。大丈夫、目の毒は一切ないから。今時のはまだ読んだらだめよ。あんなに都合のいい展開なんて絶対にないんだもの」
「ふうん。そう。ついでに母ちゃんのゲームもやれば完璧?」
そう、母ちゃんは乙女ゲーマーだ。それもかなり本格的な方向の。
「そうね、学園モノなら間違いないし、イタリアンファンタジーもいいわよ」
そう言って、母ちゃんがPSPでプレーしているものは……俺の前でやっていていいのか?
「母ちゃん、今プレーしているのは?」
「大正悲恋よ。あっ、これは絶対にやっちゃだめよ。元よりマイルドになっているけど刺激が強すぎるから」
「元って……」
「うん、元エロゲ。シナリオがもう、ツボなのよ」
「エロは?」
「母ちゃんはあってもなくてもいい。グリコのおまけみたいなもんよ」
でもエロゲってことはそっちに興味がある人もいるんだよね。女の人って良く分からない。
「コンビニスイーツのキャッチコピーってさ、女子なら言われてみたいもんな訳?」
「そりゃあ、もちろんよ。じゃなければCM収録のDVDが売れる訳ないでしょう?」
確かに、初恋ショコラは、今までのCMがまとめられたDVDが爆発的に売れている。
君想いマカロンは、CMの為に収録したカバー曲をミニアルバムにして発売するとか。
売れてなんぼな商品に熱を上げているのはどうなのだろう?
「母ちゃんは、DVD買うの?」
「どうかな、映像特典があったら買うだろうけど……程度の話よ」
ってことは、この人予約しているな……確実に。
「こんなこと、実際に言う訳ないじゃん」
「それはそれなの。そう言うシチュエーションに萌えているんだから。全く、これだから男って奴は……もう」
だから、生まれて12年で女心が分かる訳がないでしょうが。
「ねえ、折角だから初恋ショコラのコピーも言ってみてよ」
「ええー、ったく。ケーキと僕のキス、どっちが好き?」
「あきらが相手だからケーキでいい。キスいらね」
かなり恥ずかしい思いをして言ったのに、帰ってきた答えは呆気ないもの。
まあ、これでキスって言われても困る。っていうか、怖い。
「じゃあ、母ちゃんが君想いショコラのキャッチコピーを言ってみて」
俺を羞恥プレーにしたんだから、同じ思いをして貰わないとだめだよね。
「想いの分だけキスしてあげる」
恥じらいもなく、淡々と言ってのける母ちゃんがちょっとムカついたから
母ちゃんの背後に回ってハグをする。
「ちょっと待て、相手が違うぞ。その前に相手がいないだろうが」
「だから、その時までの練習はさせてね。あっ、唇チューはしないから」
そう言うと、俺はほっぺにチューをしてあげる。
なんだかんだ言っても、ちゃんと僕が君想いマカロンが好きなのを知っていてちゃんと買ってきてくれたわけだから。袋を良く見ると、マカロンだけはたくさん入っていた。
母ちゃんは、俺の事を草食系の振りした鬼畜っていうけどさ。そう言えば最近は表示偽装息子って言っていたな。何て酷い事をとも思ったけど……あながち間違っていない。
母ちゃんだって、相当なツンデレ……デレた所見た事ない……ゲームのトゥルーエンドの時は……ニヤニヤしていた。あの程度か。それも相当のものだと思うよ。
その後、母ちゃんにちょっかいを掛けながら、今日のおやつを二人で食べたのでした。
でも……やっぱりあのキャッチコピーはねえよ。俺だったら好きな子の前だけで言いたいや。
「ねえよ」の一言でした。だから彼女に捨てられ(以下自主規制)
鬼畜キャラ全開にしたら……女子は逃げると思う。
恋人つなぎでスーパーでの買い物は本当に恥ずかしいのでやめて下さい。
「えっ?すぐに見失うからダメ」ってにっこりと返さないで下さい。
こんな12歳で良ければ熨斗を付けて貸し出します。